SS 寮を探検しようぜ! お前ボールな!

 ──入学したての頃


「──よし。これで大体片付け終わったかな」


 俺は持っていた木箱を置くと満足げにつぶやいた。


「最低限の生活用品しかないですが本当にこれでよいのですか?」

「いいんだよ。寮なんだから何か必要になったら購買で買うよ」

「いやそうではなくてですね……」


 木箱を解体しながらデュネブは何か言いたげにため息をつく。


 今日、俺と同じように寮の自室に引っ越してきた他の生徒たちは天蓋つきベッドやらクローゼットやら俺の何倍もの荷物を従者に運ばせていた。


 確かにデュネブの言うように様々な高級調度品を持ち込んで権力を誇示するのが貴族として常識的なものなのかもしれない。


「けど部屋狭くなるの嫌いなんだよね」


 寮の部屋は日本換算で言うと8畳間ほどの大きさ。

 風呂トイレは共用でその分広くは感じるけどあれやこれやとものを置いておくとすぐに床が見えなくなりそうな広さではある。


「最低限といっても庶民の僕にとってはどれも高級品ですけどねー」


 それまで黙々と木箱を片付けていたオリオンも口を挟んでくる。


「元S級が庶民だったらこの世に金持ちなんて存在はなくなるんだけど?」

「王族は金持ちですよー?」


 基本的に高給取りな冒険者のトップの人間が何言ってんだか。

 噂だと王国予算よりも金持ってるらしいし。


 そんな庶民気取りのオリオンが満面の笑みを浮かべた。


「片付けも終わったことですし探検に行きませんか? 探検に!」


 ☆


「って女子寮じゃねーか!!」


 目の前には男子寮と寸分たがわない女子寮の玄関、そして全身に刺さるなんだこいつらというような女子生徒からの視線。


「いやー男子の探検と言えばみたいなところでしょ?」

「入学早々捕まりたくないんだけど!?」

「大丈夫ですよ。ここにいるくらいで捕まりませんって」

「あのーそこのお二人。ここ女子寮ですよ? 理解してますか?」

「ほらヤバいって!」


 近づいてきた女性職員の目は明らかに俺たちを犯罪者として見ている。


 俺が何とか言い訳をひねり出そうと目を泳がせているとオリオンが人懐っこい笑みを浮かべて口を開く。


「理解してますよ? 僕たちは人を待ってるだけですから大丈夫ですよ」

「待っている人というのは?」

「シュヴァリエ・フォーマルハウト。レグルス君の婚約者です」

「そうですか……。くれぐれも入ろうと思わないでくださいよ? 絶対ダメですからね?」


 フリとも思える念押しをして職員は持ち場に戻っていった。


「あっぶねえ……」

「さすがにダメでしたか……セキュリティしっかりしてますねぇ」


 何事もなかったかのようにオリオンは引きかえしていこうとする。


「いや、あんたのせいで捕まりそうだったんだけど!?」

「捕まってないんだからいいじゃないですか。探検もできなくなったことですし、鍛錬でもします?」

「まあ……それでもいいよ」

 他にすることもないのでオリオンの背中を追ってグラウンドに出ていった。


 この学園のグラウンドは生徒が休みの日でも気軽に鍛錬にいそしめるように寮に隣接されている。


「そういえばシュヴァリエの部屋ってどこになったの?」

「3階の角部屋ですね。でもなんで今?」

「どうってことない質問だよ。んじゃ、いつも通り魔法なし1本勝負で」


 剣2本分の距離をとり戦闘態勢をとる。


 オリオンもいつも通り全身の力を抜いて立っている。


「ようい、スタート!」


 開始の合図とともに地面を強く蹴る。


「──!!」


 前の脚が地面から離れた時にはもうオリオンが目の前まで迫って来ていた。


「さっきの探検の続きヨロシク☆『トリプルスター』」


 俺のみぞおち付近で3回、魔力が爆発した。


「ちょっ!? はあああああ!?」


 しっかり風魔法で軌道を修正されながら放物線を描いて俺の身体が女子寮へと吹き飛んでいく。


 もちろん終着点にはシュヴァリエの部屋の窓が待ち構えている。


「オリオン! あとで覚えとけよ!」


 背中への鈍い衝撃でつむった目を開けると、目の前には秘密の花園が広がっていた。

 具体的には視界いっぱいのパンツ。


「ちょっ、へぇ!?」

「お、おう。手伝いに、来たよ……?」


 絶句して固まるシュヴァリエに愛想笑いを返す。


「いやああああ!!!」


 スカートを押さえるより前に飛び出した蹴りによって俺の身体はまた宙を飛ぶのであった。


 うん。ここまで不条理なのは初めてだよ。


 ちなみにこの後俺だけしこたま怒られ、反省文まで書かされてしまった。


 オリオンだけは許すな。


 ──────────────────────────────────────

【あとがき】

 ここまでで1章は終了となります! お読みいただきありがとうございました。


 ここまで多くの方に読んでいただいたのは初めてだったのでうれしく思うとともにまだまだ精進しなければと背中を押されたように感じました!


 これからは不定期更新となります。


 また新作も鋭意準備中なので作者フォローをして近況ノートをお待ちください!


 作品フォロー、星も創作の励みになります!


 なにとぞ今後ともよろしくお願いします!

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気力と自爆魔法で無双フラグに変えてやったわ!!~エロゲの自発的追放系悪役貴族に転生したけどスキル「根性」があったので死亡フラグを踏み倒してみました。~え、シナリオは!?俺の推しは?いない!?~ 紙村 滝 @Taki_kamimura7

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