27. 月明かりで

「シーっ!」とナディア姉さんは言ってピタッと銃を暗闇に構えた。いつの間にか両手に銃を構えている。


 あれ?2丁持っていたんだ・・と俺が思う間もなく

 

 銃が発砲される音がサバンナの暗闇に響いた。狼とライオン、チータが一気に飛び出してきて、襲いかかってきた。敵が多すぎる!!


 ナディア姉さんは横っ飛びしながら二丁の銃で次々に発砲した。凄いシーンだった。迫力満点だった。

 しかし、そもそもの獣たちの数が半端なかった。パンパンと銃音が鳴り響く中で、俺は震える手でリュックから龍者の実を取り出してかじった。そして、ジャックに投げた。


「ジャック!龍者の実をかじるんだ!」


 ジャックはとっさに龍者の実をかじり、ナディア姉さんにも投げた。ナディア姉さんもかじり、ピーターに投げた。


 俺が駆け寄ると、プテラノドンは起きた。そしてリュックから龍者の実を取り出した時に落ちた松明草たいまつそうの葉っぱを1枚ぺろっと食べた。何してんの、こんな緊急事態に!俺は、頭に血が上りそうになった。


 が、次の瞬間、プテラノドンの口から炎が吹き出し、ナディア姉さんと子供たちに襲い掛かろうとしていた獣とたちの前にプテラノドンが飛び出した。


 ゴー!!!!!


 凄い量の火力で火が吹かれ、獣たちは攻撃をやめて後ずさった。

 

 え?松明草たいまつそうってそういうこと?


 俺はとっさに松明草の葉っぱを1枚食べた。だってさー、龍者の実だって食べたんだから。

 しかし、俺が焦って食べても何もおこらなかった。だよねー・・・

 

 そうこうしているうちに、ナディア姉さんの頭上にナディア姉さんの新たなプテラノドンが現れて、ナディア姉さんはそれに乗った。そして、子供たちを引き上げようとした。


 ジャックの頭上にも新たなプテラノドンが現れて、ジャックも慌ててそれに乗り、子供たちを次々に引き上げた。


 ナディア姉さんのプテラノドンに、ピーターとレオとサファイアが乗り、ジャックのプテラノドンに、ジョージアとダッカー王子が乗った。重量オーバーらしく、2匹のプテラノドンはふらふらになりがらも何とか飛んでくれた。かなりの低空飛行だけれども、何とか獣たちが飛びかかっても届かない位置まで上空に上がってくれた。


 伯爵を後ろに従えて、俺は炎で威嚇している俺のプテラノドンさまの近くに近寄った。


「プテラ、飛ぼ?」

 俺は声をかけたが、必死に炎で威嚇している俺のプテラノドンには、ゴーという炎の音で俺の声が届かないようだった。そこに、背後から俺の後ろにいた伯爵にチーターが飛びかかった。


 俺はふっと後ろを振り向き、若き伯爵を抱えて横っ飛びした。そして何故かチーターに指を向けた。俺の指から光線のような炎が吹き出すのを確かに見た。チータは炎のバリアが張られたかのように、何かにはねつけられて「グエ!」と言う哀れな声を出して地面に叩きつけられた。


 え?


 今の何?


 叩きつけられたチーターと、俺と、伯爵は同じ思いだったかもしれない。なんなんだ、今のは。。


 だが、ぐずぐずしていられない。その隙に俺と伯爵は必死で、火をふくプテラノドンの背中によじ登り、プテラノドンと共に空に飛び上がった。


 ウロウロする獣たちを尻目に、ふらふらするナディア姉さんとジャックのプテラノドンは、ぼんやり光る草むらの松明草の上に近寄り、次々に「松明草を認識いたしました。」とカメラアプリに告げられ、タスク消化をして行った。


 「全員ミッションクリアしたわよね?」ナディア姉さんとジャックが言い合った。だが、開放の呪文を唱えるには、食べ物がなければならない。ナディア姉さんが何本も松明草を手に取って鞄にしまった。

 

 さっきとっさに松明草の葉っぱを1枚食った俺が「いでよ、ドブネズミ!」と唱えても、何も発生しなかった。くっそー・・

 ダメえ?


「あ!!」ピーターが叫んだ。

「何?」みんなで聞いた。


「岩場の向こうの王の岩を押すんだ。とにかくサバンナからは逃げられる。」ピーターはそう言った。


 俺たちはジャックとナディア姉さんのプテラノドンを必死に励ましながら、岩場の向こうまで飛んでもらった。

 岩場に着くと、ジョージアが王の字に手をつき、全員で手をつなぎあった。


「行くわよ!」


 ジョージアが鋭くそう言い、ボタンを押した。

 次の瞬間、ぐらっと地面が揺れて、何かに引っ張られて、俺はイタリアルネッサンス時代のような銅像の前に立っている事に気づいた。辺りは明るい。夜ではなさそうだ。


「二手に分かれます。レオナルド・ダ・ヴィンチの描き途中のモナリザをカメラアプリで認識してください。」


「もう一組は、ルーブルに納められたレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザをカメラアプリで認識してください。時はフランソワ1世時代のルーブル宮殿。」


 俺は、巨大な文字が頭上に現れたのを見た。


 俺の横にいるのは、ピーター、ジョージア、レオ、そして、ダッカー王子だった。

 ということは、フランソワ1世時代のルーブル宮殿とやらに飛ばされたのは、ナディア姉さんとジャックと伯爵とサファイアだ。

 

 俺は辺りを見た。叫び声が起きていないか?


 夜が白々と開け始めたような状況で朝がまだ早いらしく、辺りに誰も人はいなかった。


 でも、ミケランジェロの銅像とか、教科書に乗っているような銅像の横に、どうやら炎を吐くドラゴンになったらしい、俺のプテラノドンがちゃっかり座り込んでいるのを俺は見つけた・・・

 

 完全に人々が起きてくる時間までの間に、どこか人気のないところに移動しなければ・・と思った。


 あれ?ってここは、ルネッサンス時代のイタリアか?


 そもそも。ダ・ヴィンチって、どこでモナリザを書いたんだっけ?と俺は改めて思った。

 きっとそれを知ってるのはナディア姉さんとジャック、それともしかしたら小学生のサファイアだけど、残念ながらこっちは中世の子ばかりだから、俺の怪しい歴史認識だけが頼りだな・・・

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魔法の力でタイムバック!いでよ、ドブネズミ!異世界ではなく現実なんですが、何か? @totonoumainichi7ku

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