第21話
教会を出てしばらく歩いてからカイルが何か言おうとしたのを腕を引いて止める。
「お兄ちゃん、私お腹空いたから何か食べたいな~」
「…」
「駄目?」
訝しむカイルにジェスチャーでしゃがむよう指示を出す。
素直にしゃがんでくれた彼の耳元に口を近づける。
「このペンダントに盗聴器が付いているかもしれないから調べるまでは話を合わせて」
私の言葉に驚いたような顔をしたが、すぐに頷いてくれた。
「じゃあ折角なら出店で何か買うか?」
「うん!私甘いの食べたい!」
そんな会話をしながらしばらく街を歩く。
どうやら尾行とかはなさそうだ。
カイルも随時周囲を確認してくれているが、今のところ怪しい人物はいないらしい。
「お兄ちゃん、そろそろ宿に戻らない?私もう疲れちゃった」
出店で買ったものを食べ終わってからそう言えば、カイルは周囲を確認してくれる。
それから首を振ってくれた。
尾行は見当たらないようだ。
「そうだな。じゃあ宿に戻るか」
手を繋ぎながら宿に向かって歩き出す。
道中も特に何事もなく無事に部屋に到着した。
部屋に入ると猫が私たちの首から下がっているペンダントを見て顔を顰めた。
話し出さないように唇の前に人差し指を立てれば、察したようで黙って見つめてくる。
「お兄ちゃん先にお風呂入ってくる?」
「あぁ、そうさせてもらうな」
自然な流れでペンダントを外せるようにし、それを受け取る。
勿論お風呂を入るわけもなく、カイルは傍で見守ってくれている。
私もペンダントを外して机の上に置く。
「……」
ペンダントに触れてみるが、やはり何も感じない。
耳を近づけてみても何も聞こえない。
一連の流れを見ていた猫と目を合わせると、猫は伸びをしてから私の影に飛び込んだ。
その瞬間、耳鳴りのような音と眩暈に襲われる。
それを振り払うように頭を振ってから目を開ければ、人間が感じることができない世界が広がっていた。
慣れないな、これ。
猫に聴覚を貸してもらいながら、改めてペンダントを見る。
人間の聴覚よりも猫の聴覚の方が鋭いため、もしかしたら新しい発見があるのかもしれない。
「……」
緊張感が漂う中、ペンダントを持ち上げる。
時間をかけて盗聴器が反応しそうな動作を試すが、何も反応がない。
杞憂だったのかな。
しかしちゃんと見ておくからこそ安心できるものだ。
「うん、大丈夫そう」
ペンダントを机の上に置き直してカイルを見れば、心配そうにこちらを見ていた。
猫は私の影から這い出てきて、ため息をついた。
「全く、帰って来たと思ったら説明もなしに黙っていろと言われこっちの身になって欲しいな」
「ごめんなさいね。でも、お陰で助かったわ。ありがとう」
「はぁ…そのペンダントはこの国の信者の象徴ではなかったか?」
「そうよ。聖女の補佐を名乗る人から貰ったの」
猫は合点がいったようで頷いた。
「人から貰った物だから盗聴器の有無を調べたのか」
「特に教会の関係者だったから警戒すべきだと判断したの。まぁ、今回は疑いすぎだったけどね」
「念には念を入れておくべきじゃないか?俺も不安だったし」
カイルはペンダントを観察しながらそう言った。
そんなカイルを見ながら猫は呆れたような表情をする。
「興味を持つのは良いが、安易に信仰するなよ。我々のような生活をする者に信仰心は障害でしかない」
カイルは猫の忠告の意味をよく理解していない様子だったが、分かったと返事をした。
私からも頼むからその言葉を胸に刻んでくれと願ってしまう。
今思えば、カイルのいた国では教会どころか宗教という存在そのものが見られなかったから、何かを信仰するという感覚が理解しにくいのだろう。
「とりあえず、何も仕込まれていなくて良かったわね」
「そうだな」
「これから外出する時は必ずこのペンダントをつけてね。これを着けているだけでも警戒されにくいと思うから」
「あぁ、分かった」
カイルがペンダントを首にかけるのを見届けてから、ベッドに腰掛ける。
「まずはイデアルに選ばれるまで教会に通い続けないとね」
「そう簡単に選ばれるか?気の長い話になりそうだが」
「選ばれるわよ」
私はイデアルに選ばれる確信を持っていた。
その理由に見当がつかないようで、カイルは訝しげに私を見る。
「宗教が新しい信者を得るには行事に参加させるのが1番手っ取り早いの。一度のめり込んでしまえば、あとは放置しておいても勝手に信仰し続けるようになるから」
「だから新しい信者の俺たちが選ばれると?」
「そういうこと」
カイルは納得してくれたようで、なるほどなと言ってから笑みを浮かべた。
「あとは聖女様の興味を引くだけ」
「何か作戦があるのか?」
「勿論。今から説明するからイデアル当日まで覚えておいてね」
そう言ってカイルに私が考えた作戦を伝えた。
猫も机の上で姿勢を正して聞いている。
カイルは所々頷いたり、不審な顔をしたりしたが最終的には私の作戦を認めてくれた。
猫も自身の長い尻尾で口元を隠しながらにやにやと笑い、作戦を称賛してくれた。
「ないものねだりの成れの果てか?」
猫の揶揄うような言葉に私は何も返さなかった。
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