第19話
店から宿に直帰すれば、部屋に入って早々カイルはベッドに倒れてしまった。
「ねぇ、大丈夫?」
声をかけてみるものの返事はない。
しばらく様子を見ていたが、寝息が聞こえてきたためそっとしておくことにした。
「…あの国、やっと滅んだのね」
お茶を淹れつつ、先ほどの話を思い出す。
国が滅んだ先には様々な未来がある。
王が変わる、他国に吸収される、革命が起きる、初めから存在していなかったことにされるなどだ。
子どもたちは保護されたが、国自体はどうなったのだろうか。
私が気にすることでもないかもしれないが、それでも気になってしまう。
「……何にせよ、必要以上の被害が出なくて良かった」
お茶を飲み干し、一息つく。
つまらない国は滅ぼすが、罪のない市民や子どもたちはできるだけ救いたい。
それは私の信念のようなものだった。
「おや、寝るにしては些か早くないか?」
いつの間にか宿に戻ってきていた猫はカイルを見て不思議そうにしていた。
「疲れているみたいだし、今日はもう休ませてあげようと思って」
「そうか」
私は猫を抱き上げて机に乗せた。
猫は大人しくされるがままになっており、撫でても抵抗はなかった。
「あんたはどこに行ってたの?」
「散歩だよ」
「楽しかった?」
「興味深いものが沢山あったな」
猫は目を細めて笑ったように見えた。
そんな猫に私も笑い返す。
「…ところでさ、私が髪を染めている間にカイルが誰かに変なことを吹き込まれたらしいんだけど何か知らない?」
猫は首を傾げながら、しばしの間考え込んでいた。
それからゆっくりと口を開く。
「変なことを吹き込んだ覚えはないな」
「…少なからず何かを吹き込んだ心当たりはあるのね」
「ほとんど確信をもってこの話題を出したくせに何を言う」
「カイルが何かを吹き込まれるほど他人と会話をするとは思えないのよ」
猫は降参するように頭を振った。
「『悪魔か?』なんて馬鹿げたことを聞いてきたから少々お灸を据えただけだ」
「ふーん」
「…怒っているのか?」
「怒ってないわ。ただ、これから本当に一緒に生活するならいつかカイルに話さないといけないのかなって」
私の呟きに猫は何も返さない。
代わりに心配そうな視線だけこちらに寄こしてきた。
「……どうすればいいのかな」
「…もう今日は寝た方がいい」
猫は私のベッドに飛び乗ると布団の中に潜り込んでしまった。
「ほら早く。明日も動く予定だろう」
「うん」
布団に潜り込めば、猫が隣に来てくれた。
その温かさの助けもあってか、意識する間もなく眠りについていた。
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