第18話
髪を染め終わり、少し待っていればカイルが店に戻って来た。
「お兄ちゃん」
「…ん?メルか。印象が変わりすぎて分からなかった」
私を探す様子もなく入り口でぼーっとしている彼に話しかけるも、なぜか返答の速度が遅い。
店を出ている間に何かあったのだろうか。
「……どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ」
雑に躱されてしまい、会話が途切れる。
自由な時間のことまで詮索されるのも嫌なのかもしれない。
「お戻りになりましたか」
ちょうど店員さんが店の奥から出てきた。
店員さんは私たちを見比べると穏やかに笑う。
「髪色が同じになるとますますご兄妹に見えますね」
「そう言っていただけて嬉しいです」
放心状態に近いカイルに話させるわけにもいかず、私が全面的に受け答えをする。
この短時間に何があったのだろう。
変なものに影響されたのか、それとも自分がいた国に思いでも馳せていたのか。
どちらにしろ、良いことではないのは確かだろう。
早く帰りたい思いもあり、退店の方向に向かう話を切り出す。
「本日の代金はいかほどでしょうか」
私の質問に頷いてからカウンターに誘導してくれる。
会計をしながら店員さんは思い出したように「そうそう」と話を続ける。
「そういえば、昨日のお祈りの時に物騒な噂が流れていたんですよ」
「噂ですか?」
「なんでも、また国が滅んだそうですよ」
軽く告げられる言葉にカイルが顔を上げる。
店員さんはそれに気付かず、そのまま話を続けてくれた。
「ここから少し距離がある国ですが、子どもを売ることで国費を得ていたんですよ。売られなかった子どもは国内で労働させられていたなんて噂も聞きました」
「そんなことがあったのですか!恐ろしいことをする国があったものですね…」
初めて聞いたような反応をしつつ、カイルの様子を見る。
表情は根性で押し殺しているが、明らかに呼吸が浅くなっている。
自分が守っていた国の末路を軽く語られるのは自分の身を切られるよりも辛く苦しいだろう。
「……その国にいた子どもたちはどうなったのですか?」
カイルは異変や動揺を悟られないようにあえて顔を上げていた。
しかし、カウンターで店員さんから死角になっている所では爪が白くなるほど拳を握っている。
「数年前に出来たばかりの新国が全員引き取ったそうですよ。何でしたっけ…国名は忘れちゃいましたが」
「……そう、なんですか」
「えぇ、新国ながらも豊かで他国に引けを取らないほどの国力もあるんですって。だから子どもたちを引き取る余裕もあったんでしょうね」
相槌を打ちながら渡されたお釣りを受け取る。
情報過多になっているカイルをこのままにしておくわけにもいかず、話を切り上げて店を後にした。
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