第17話


「私を悪魔なんかと一緒にするな」



猫は地を這う様な低い声でそう言った。

その声に怒りが含まれており、悪寒が走る。



「人間は天使や悪魔、聖女や魔王といった存在を崇め、恐れ、そして畏怖しているようだが、あんなものは人間が勝手に創ったものにすぎない。そんな脆い妄信と今を生きる我々を同一視するな」



その言葉は重く、猫の語らない過去を感じさせるものだった。

反論したい気持ちもあるが、下手なことを口にすれば殺されかねないと本能が告げる。


最初に出てきた言葉は謝罪だった。


「…変なことを言って悪かった。すまない」

「いや、いいさ。確かに人間からしたら悪魔のような存在に見えても仕方ないだろう」


猫は先ほどよりも柔らかい、いつもの声で許してくれた。


「お前は…何者なんだ?」


絞り出した言葉に猫は笑みを浮かべた。


「お前はそればかり問うな」


それから窓から差し込む暖かな日差しに目を細める。


「私は猫だよ。それ以上でも以下でもない」


猫がそう言った時、街に大きな鐘の音が響き渡った。

どうやら昨日同様、聖女様へのお祈りが始まるらしい。


「…人間は何度も同じことを繰り返すのだな」


教会を見つめながら猫は小さく呟いた。

しかしそれについて話す間もなく、猫は背を伸ばすと机から飛び降りた。


「さて、では私は散歩でもしてこようかな」

「あ、おい!」


猫はそのまま扉に向かって歩いていく。

俺の声に足を止めると、こちらを振り返った。


「まだ何かあるか?」

「あー……いや、ないけど……」


咄嵯に引き留めてしまったが、特に用事があるわけではない。

引き留めたものの、何も考えていなかったことに気付く。


「ならもう行くぞ」


猫は再び歩き出し、部屋から出て行った。

俺はその後ろ姿を眺めることしかできなかった。

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