第15話


ロサ…じゃない。

メルを店に置いてきたは良いが、街で何をしようか。

とりあえずふらついていれば何か思いつくかもしれないと思い、当てもなく歩く。


「にゃーん」


しばらく歩いていると、足に何かが巻き付いた。

下を見てみれば、そこには昨日の黒猫が尻尾を巻き付けて俺を見上げている。


「…なんでここにいるんだ?」

「にゃん」


猫の癖に猫の鳴き方が人間らしい。

そのまま路地裏に歩いて行ってしまう。


「ついてこいってことか?」

「にゃーん」


猫は返事をするかのようにひと声鳴いて、さっさと路地裏に入っていく。

俺も慌ててその後を追った。





路地裏にも少しではあるが店が展開しているらしく、人通りが全くないわけではない。

猫は人がいないところに行きたいのか、どんどん奥に向かっていく。






小走りで追いかけると、猫はある建物の前で立ち止まった。

その建物はレンガ造りだが所々剥げており、今にも崩れそうだ。

看板の文字も掠れていて何が書いてあるのかは読めない。


「ここは何屋なんだ?」


周囲に人がいないことを確認してから猫に話しかければ、返事をすることもなくそのまま中に入って行ってしまった。

疑問に思いつつも、することもないので素直に従った。



建物の中は小さなワンルームで、階段もない。

壁は一面を除いて空っぽの本棚で天井から床まで埋まっていた。

唯一本棚ではない壁には大きな窓があり、その前には机と椅子が置かれていた。


「埃っぽいな…」


きっと長い時間、誰も入っていなかったのだろう。

埃が舞い、少し噎せてしまう。


「人間は猫が鳴くとついてくる習性でもあるのか?メルも前の国で鳴けばついてきた」

「…散々無視しておいて、開口一番そんなことを言わないでくれ」


猫は退屈そうに欠伸をしてから軽く机に飛び乗った。


「それで?俺に何か用なのか?」

「別に」


即答だった。


「ただの気まぐれだ。暇だから話し相手になってもらおうと思ってな」


そう言ってニヤリと笑う姿は、どこかあの少女の面影を感じさせた。


ロサでも、メルでもない。


あの少女の本質的な笑顔に近いものをなぜかこの猫から感じたのだ。

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