第11話

部屋が静かになった時、私の影が揺らいだ。


「くぁ…あぁ、おはよう」


猫は欠伸を1つして、流暢に人間の言葉を話した。

それから部屋を見渡して「良い部屋だな」と呟いた。


「……あんたさぁ、もう少し空気読めないわけ?」

「空気を読んでお前たちの痴話喧嘩を聞いていればよかったのか?」


呆れたように言われ、私は眉を寄せた。

トレヴァーは情報量が多いせいか、少し固まっている。


「痴話喧嘩なんて言い方しないで。そもそも喧嘩でもないわよ」

「そうだったのか。意見がぶつかったように思えたのだが、どうやら勘違いだったようだな」


猫はそれ以上言及しない。

代わりに窓辺に飛び乗ると、その長い尾を使って器用に鍵を開けた。


窓が開き、部屋の中に新鮮な空気が流れ込んでくる。

いつの間にかぼんやりしていた頭に酸素が回ってきた。

どうやら部屋を閉め切っていたせいで酸欠気味だったようだ。


「ほう、今回は宗教国家か」


猫は興味深そうに窓の外を観察し始めた。


「見ただけで分かるの?」


私も同じように窓の外を見てみる。

日はすっかり落ちていたが、街灯と月明かりの力を借りて街にはまだ活気が満ちていた。


「国を知りたいのなら1番大きな建造物を見つけると良い。今回の場合は城よりも教会の方が大きく作られているだろう?」


言われてから見てみれば、確かに城よりも教会の方が豪華な造りになっている。

もしかしたら猫の言う通り、教会を中心に国が回っているのかもしれない。


「今回はどうするつもりだ?」

「まだ何も。とりあえずここから教会と城の観察をしつつ、私たちの準備を進めようと思っているわ」


そう言いながらトレヴァーを見れば、彼は真っ直ぐな目で私を見ていた。

一切曇っていないその瞳に、思わず息を飲む。


彼と初めて出会った時のことを思い出されるその冷たい表情に、私は何も言えない。

もしかしたら、警備隊の隊長をしていた時の彼はこんな風に心を押し殺していたのかもしれない。


「俺は何をすればいい」

「……えっと、」

「お前が決めたことに従おう」


彼の言葉が私の耳にすんなりと届いてしまった。



どうして覚悟を決めてしまったの。

あなたがもし嫌だと投げだしたら、このまま逃がしてあげられたのに。



私の気持ちを知ってか知らずか、彼は何も言わずに笑う。

その笑顔を見ると、何故か罪悪感が湧いた。

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