第4話


老人と出会ってから数日が経った。

その間、特にこれといったトラブルもなく順調に進んでいた。


「これだけ離れればそろそろ次の滞在場所を探してもいいかもしれないわね」


何気なく呟いた言葉にトレヴァーの表情が曇った。


「そんなに軽く行き先を決めてもいいのか?」

「基本的には国の様子を見て、違和感から綻びの先を見つけるのよ。特に見つけることができなかったら次の国に行く感じね」

「……」


自分が守っていた国を思い出しているのか、トレヴァーはぼんやりと荷台の天井を見つめていた。

過去を捨てるのが容易ではないことは分かっている。

だから何も言わずに彼を見守るしかできなかった。



どれぐらい時間が経ったのだろう。


荷台が大きく揺れて止まった。

軽いノックの音に返事をすれば、老人が顔を覗かせた。


「今日はこの辺りで泊まろうと思います。分かりました、ありがとうございます」


その声に意識を引き戻されたのか、トレヴァーもお礼を言った。


馬車の外は川に近い開けた場所だった。

近くにあった大木に寄りかかって腰を下ろした老人は私たちの方を見て口を開いた。


「そういえば、お2人は何故南に行かれるのですか?差し支えなければ聞いてもよろしいですかな?」

「母が病気で危篤状態なので、その薬を手に入れるために南の国へ行きたいのです」

「そうでしたか。ということは、お2人はご兄妹ですか?」

「はい」


迷いなく答えるとトレヴァーが真顔で私を見てきたが、全力で無視を決め込む。

兄妹にしては年齢が離れすぎているが、色々複雑な事情があると言えば大抵の人は引いてくれる。

今回もその例に漏れず、老人は納得してくれたようだ。


「薬というと、この辺りに有名な国がありますね」

「そうなのですか!なら、そこまで連れて行ってもらおうよ、お兄ちゃん」


あえて『お兄ちゃん』という部分を強調すれば、トレヴァーは私の言いたいことを理解したのか頷いた。


「そうだな。では、その国までお願いします」


トレヴァーの言葉に老人は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「その国なら明日には着きますよ」


その言葉に私たちは顔を見合わせて喜んだ。


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