第2章

第1話


「大丈夫だったか?」


取引が無事終わり、トレヴァーとの待ち合わせ場所に向かうと先に着いていた彼は心配そうに私を見た。


「何の問題もないわよ。情報も言い値の3倍で買い取ってくれたし」


成人済みの男性が同伴していては警戒されると思い、情報屋との駆け引きは私1人で行なった。

言い値を軽く超えてきた時は本当にびっくりしたが、それだけ価値のあるものだと思っておくことにした。


「じゃあ次の国に行きましょうか」

「あの国の末路は見なくていいのか?」


トレヴァーは名残惜しそうにそう言う。


「大丈夫よ。どの国に行っても噂であの国の最期は聞けるから。逆に近くに居たら最悪巻き込まれるわよ」

「そうなのか」


私は貰ったお金をトランクに仕舞い、鍵をかけてから持ち上げる。

トレヴァーはその様子を見て、さり気なくトランクを持ってくれた。


「ありがとう」

「これぐらいは任せてくれ」


すぐにここを離れようという意見が一致して足早にその場を後にする。


「次はどこの国に行くんだ?」

「うーん、いつも国の内情を見て決めることが多いけれど今回はどうしようかしら…」


夜も遅いためできれば宿に泊まりたいが、ぱっと見た感じ泊まれそうな所は見つからない。

加えて最寄りの国は先ほどの情報屋がいるから戻るに戻れない。

情報屋の中には自分の存在を知った人間がいることを恐れて取引した相手の後を追い、寝込みを襲うことも少なくないからだ。

そのため同じ国に居続けることは危険である。


「今夜は野宿になりそうね」

「そうか。じゃあウサギでも狩ってこようか?」

「…あのさ、こんなこと言うのは変かもしれないけれど野宿に抵抗ないの?」


前の国では警備隊の隊長だったとは言え、暮らしは貴族同然だった。

そんな彼が野宿に抵抗がないとは思えないのだが。


「戦争になれば俺も前線に出たし、木の影で寝ることもあったから特には気にならないな」

「そっか」


そう言ってもらえれば有り難い。

本人は何でもないように話しているが、割と過酷な生活を送っていたようだ。

確かに屋敷にも何日も帰らないことがあったから慣れていると言えばそうなのだろう。


「野宿に慣れているなら、今夜はこの辺りで夜を明かしてもいい?」

「ならあの森でもいいか?流石に開けた所で寝るのは気が引ける」


トレヴァーが指を指した先には森が見えた。

確かに開けた所ではあまりにも危険すぎる。

私たちは迷いなく森へ歩みを進めた。

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