第28話


「はぁ?」


思わず声を上げてしまった。

慌てて口を塞ぐが、トレヴァー様は特に気にしていない様子だった。


「子どもを売ったり、金儲けのために戦争を起こしたりするような国にこれ以上居たくない」

「……このお屋敷や地位だけじゃない。名前も過去も、今の容姿も捨てるんですよ。生半可な気持ちでついてきたいなんて言わないでください」

「覚悟はできている」

「だからそういう、」


言い返そうとした時、彼の子どもらしい部分が見えた気がした。


彼は国を守りたかった。

でもその国はもうすぐ滅びる。


予想だが、彼の地位や名誉は国を守り続ける中で勝手についてきたものなのだろう。

彼が本当に純粋で大きな子どもなら、きっともう何も手元に残っていないのかもしれない。



「いいじゃないか」



その時、影から猫が出てきた。

そのまま机に飛び乗ってトレヴァー様に近づく。


「使えないのならば囮にでもなんでもすればいい」

「そんな簡単に言わないでちょうだい」


溜め息をつけば、トレヴァー様はハクハクと口を動かしていた。

その反応を見て、猫が私以外の前で普通に話していることに気づいた。


「話すところ見られてよかったの?」

「まぁ、これから連れていくなら問題ないだろう」

「何で連れていくことが決まってるのよ」


猫は私の言葉を無視してトレヴァー様に話しかけた。


「時に人間。お前は法を犯せるか?」

「え?」

「この娘についていきたいのならば、情を持つ暇などない。常に人を疑い、常に人を欺く。それがお前にできるのか?」


猫の問いかけに、トレヴァー様はすぐに答えられなかったようだった。

しばらく黙っていたが、やがて首を横に振った。


「無理だ。俺にはできない」

「そうだろう。人間は弱い生き物だ」


猫はそう言って私を見る。


なによ、私が人間ではないとでも言いたいの?


トレヴァー様は俯いていた。

しかしすぐに顔を上げた。


「それでも俺はついて行きたい」

「その理由は?」


「面白そうだから、という理由ではダメか?」


その答えを聞いた猫は大きな声で笑った。

あー、猫のツボに入っちゃった。

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