第26話


「え」


震えた声で言われて驚く。

思わず足を止めれば、トレヴァー様はそのまま続けた。


「こんな国、早く滅ぼされるべきだったんだ」


剣を鞘に収めたトレヴァー様は泣きそうな顔をして頭を下げてきた。


「頼む」

「ちょ、ちょっと……」

「もう子どもたちのことを見て見ぬ振りできない」


そう言って顔を上げたトレヴァー様の顔は、今まで見たことがないぐらい苦しそうで、悲しそうで、悔しそうだった。



この人は本当はこの国を愛していたのだ。



直感でそう感じた。



だからこそ、この国の水面下で行われている悪事を国民の平和な生活のためだと分かっていても許すことができなかったのだろう。



「この国は昔は小さな国だった。小さくても平和な国だったのに、ある日を境に急に大きくなった」

「子どもの人身売買が始まったのですね」

「そうだ」


トレヴァー様は窓から街を見た。

広がっている街の地下には今も牢に入って苦しんでいる子どもたちが大勢いる。


彼の目にはこの国がどんな風に映っているのだろうか。



ぼんやりとそんなことを考えていれば、トレヴァー様は声を潜めた。



「俺はここで何も見ていない。だから早く行け」



私の方を見ずにそう言った。


彼は私を逃がしてくれるのだ。


こちらを見ていないと分かりながらも頭を下げることで感謝を伝える。



「……セーズ様は私に盛ろうとした睡眠薬入りのチョコレートを食べて眠っています」

「…分かった」



言うか迷ったが、セーズ様の無事を伝える意味も込めて話しておいた。


彼の返事を聞いてから、今度こそこの場から離れようと歩き出す。



トレヴァー様が私を止めることはなかった。



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