第25話


「……どんな顔でしょう」

「…そうだな、『変に大人びた顔』とでも言おうか」

「おふざけも程ほどになさってください」

「俺は真面目だ」


トレヴァー様はそう言って剣を鞘から抜いた。

窓から差し込む月明かりが剣に反射してどことなく不気味に感じる。


「私は見ての通り子どもですよ」

「あぁ、だが大人のようにも見える」


剣の先が私に向けられる。

あー、これは面倒くさいことになった。


「…お前、何者だ?」


これは変に言い訳をしない方が良いと思った。

それに、どうせこの人には止められない。


「何者でもありません。ただの噂好きの放浪者です」

「噂好き?」


トレヴァー様は首を傾げる。

それでも警戒を怠っていないのか、剣の先が揺れない。

さすが警備隊の隊長様と言ったところか。



「トレヴァー様はこの国の資金の出所はご存じでしょうか」



その質問にトレヴァー様は明らかに動揺した。

それを確認してから言葉を続ける。


「私が得た噂では、子どもを売買して得た金がこの国の資金になっているとか」

「どこでそれを……」

「やはり知っていたのですね」


彼が驚いている隙に後ろに下がって距離を取る。


月明かりに晒されない所まで下がれば、彼の目が大きく開かれた。



「猫…」



トレヴァー様は私を見てそう言った。


きっと私が影に入ったことで私の目が猫のようになっていることに気づいたのだろう。

その言葉に影の中から猫が笑う。


「…あなたにも私が猫に見えるのですね」

「……」

「私のことを『大人』と言うならば、私にはあなたが『子ども』に見えます」



国を守り続けるために正義を振るう大きな子ども。



守っている国が悪だと知っていても、目の前の彼は守るしかないのだろう。



「…もう一度聞く。お前は何者だ」

「放浪者です」

「……いや、聞き方を変えよう。何を企んでいる?」


トレヴァー様は剣を持ち直した。

私は息を吐いてから彼を見据えた。



「私がこの国を滅ぼすきっかけになります」



「は?」

「汚い金で続く国なんて面白くない」


思ったままのことを言えば、トレヴァー様は呆気に取られたように固まってしまった。


今のうちに逃げるかと踵を返すと、後ろから声がかかる。


振り返ればトレヴァー様は先程と同じようにこちらを見つめていた。

しかしその目からは敵意を感じなかった。

むしろ、どこか悲しげな目だった。



「…滅ぼしてくれ」


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