第24話



パーティーは問題なく進行しているようで、会場からはクラシックが聞こえる。

この国の未来はもうすぐ無くなるというのに楽しそうなことで。


「さて、念のため最後まで頑張りますか」

「お前さんは本当によく働くねぇ」

「意外かもしれないけれど労働は嫌いじゃないの」

「なのに国を滅ぼすと?」

「だって楽しいんだもん」


影の中から目だけ覗かせる猫と話しながら歩いていれば、急に猫が黙った。

私もそれに倣って周囲に注意を向ければ1人分の足音がする。

招待客だと厄介なので姿勢を正して歩くも、角から出てきたのはトレヴァー様だった。


「お疲れ様です」

「お疲れ。……セーズ様はどうなさった?」


会場から離れたこの廊下は人が寄らないから気を抜いていた。

不思議そうにそう聞いてくるトレヴァー様に舌打ちをしかける。


やっぱりセーズ様に絡まれるところを見られていたか。


ここまでは想定内のため、予め用意していた言い訳を使う。


「セーズ様はお疲れだったようで、ワインを飲まれた後熟睡されました」

「何?」

「大変気持ち良さそうに寝ていらっしゃいましたので起こすことができず、失礼を承知で部屋を出てきました」

「………」

「何かありましたでしょうか?」


考え込むような素振りを見せた彼に尋ねてみると「いや」と首を横に振られる。

この言い訳に違和感はないはずだ。


「それでは私は仕事に戻らせていただ、」

「待て」


立ち去ろうとしたところで呼び止められて振り返ると、彼は顎に手を当てたままこちらを見ていた。


嫌な予感がするが無視はできない。

こういう時は下手に動かない方がいい。


できるだけ平静を装って微笑むと、彼は腰につけた剣に手を伸ばして口を開いた。


「…お前、嘘をついているだろう」

「……何を仰っているのか分かりません」

「セーズ様は最近不眠に悩まされていると嘆かれていた。しかし昨夜はよくお眠りになられたようで、今日は昼過ぎに起きられた」

「…それと私に何の関係があるのですか?」

「不眠に悩まされているセーズ様がパーティーの夜にお眠りになる?それもお前が部屋を出ても気づかないほどに?」


くっそ、完全に劣勢だ。

セーズ様が不眠症なんて知らないし、そもそもこんなにトレヴァー様が鋭いとは思わなかった。


「そう仰られましても、私は身に起きたことをそのままお伝えしているだけです」

「ならなぜそんな顔をするんだ」


トレヴァー様は私の目を真っ直ぐに見つめてくる。

まるで心の底まで見透かすような目に不快感を覚える。


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