第20話
セーズ様は興味なさそうに子どもたちの説明をする男性の話を聞いていた。
「だからさっきから言っているだろう。私はトレヴァー殿のメイドを買うから今日はここからは買わないよ」
「まぁまぁ、そうおっしゃらず」
「…私はロサのことを気に入ったんだ。これ以上私の時間を奪わないでくれ」
セーズ様は機嫌が悪いようで男を睨んでいる。
猫は私以外に笑い声が聞こえないのをいいことにケラケラと笑っている。
「随分とあの男に気に入られたのだな」
私は苛立ちながらも声を出さないように耐える。
幸い、セーズ様に説明をしていた男性も彼の機嫌の悪さを察して早々に地上に戻っていった。
「早く戻らないとセーズ様に探されたら困るわね」
「戻るならその階段じゃなくて、反対側の梯子を使うといいよ」
「ありがとう」
先程の男の子が指を指す方に向かうと、そこには縄梯子があった。
少し古いが、問題なく上れそうだ。
縄梯子を上りながら先ほどの話を思い出す。
「…考えていた中で最悪の事態だった」
「まさか我が子を売ってまで地位を取る親がいるなんてな」
今まで色んな国の闇を見てきたが、これはまた深い闇だった。
この平和そうな国の下でこんなことが平然と行われているとは思いたくなかった。
猫の言葉に同意するように小さくため息をつく。
梯子の先は城の古い井戸に繋がっていた。
何とかメイド服は汚れずに済んだが、臭いがついた可能性もあることを考えて念のため持ち込んだ予備のメイド服に着替える。
もしものために2、3着持ち込んでおいて良かった。
「聴覚と視覚は返しておくぞ」
「うん、ありがとう」
聴覚と視覚が人間のものに戻る。
そのまま城内に戻り、会場の給仕として働いていればトレヴァー様が会場内の警備をしているのを見かけた。
トレヴァー様もあの子どもたちのことをご存じなのだろうか。
そんなことを考えていると後ろから声がかけられた。
どことなく熱を孕んだ声の主への心当たりは1人しかいない。
「ロサ」
「セーズ様」
爽やかな笑みを浮かべるセーズ様は私の頭を撫でた。
それを大人しく受け入れる。
「今日も会えて嬉しいよ」
「私もです」
他国の要人が子どものメイドを口説いているという異様な光景であるにも関わらず、誰も気に留めない。
きっとこれがこの国では普通なのだ。
給仕さえもそう教育されているのか、誰も止めない。
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