第19話


地下に広がる空間は思ったよりも広かった。

きっと昔使われていた地下牢を改修したのだろう。

ずっと鉄格子が続いている上、鎖の音が聞こえる。

1番近い牢屋を覗いてみれば、部屋の隅で蹲っている少女がいた。

その足には足枷が付いており、一目見ただけでも監禁されていることが分かる。


「大丈夫?」

「……」


返事はない。

よく見ると、その子は泣いていた。


「ねぇ、大丈夫?」


もう一度声をかけてみると、少女は顔を上げて私を見た。

すると、驚いたように小さく声を上げてから出来るだけこちらに近づいてきた。


「あなた…猫なの?」

「え?」

「あなたが猫に見える」


少女が何を言っているか分からない。

首を傾げていると、猫の声が脳内に響いた。


「鋭い子どもは本質に気づくものだ。きっとお前さんの中にいることに気づかれた」

「…そういうことね」


猫の言葉に納得してから少女に向き直る。


「私のことは猫だと思ってくれていいわ。それよりも聞きたいことがあるの。あなたはどうしてここにいるの?」

「お父様にお城に連れて来られて、紅茶を頂いたら眠くなって…気づいたらここにいたの」


少女は拙いながらも一生懸命説明してくれる。


「そうなのね。ここに来てどれぐらい経ったか分かる?」

「ううん。…でも、ずっと前に来た」

「そう、ありがとう」


少女に厨房から拝借したパンをあげる。

少女は嬉しそうにそれを食べた。


「僕は違う!」


遠くから男の声がする。

声のする牢屋に近づくと、男の子が手を伸ばしていた。

その子に近づいて気づいたのは、その子の片足が意図的に切断されていることだった。


「僕、この国のストリートチルドレンだった。でも攫われて、変だと思ったから逃げようとしたら…足を切られたの。…お願い、逃げて。ここにいたら危ないよ!」


男の子は泣きそうになりながら必死に教えてくれた。


これで情報は揃った。


内心ほくそ笑みながら男の子にもパンをあげた。


「ありがとう、でも大丈夫よ。私は猫だから」

「え?」

「猫の命は9つあるの。1つぐらいあなた達のために使っても大丈夫よ」


その時、階段から話声が聞こえた。

慌てて物陰に隠れて様子を伺えば、男が2人現れる。

その内の1人に見覚えがあった。



セーズ様だ。


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