第17話
「君、名前は何という?」
「ロサと申します」
メイド服を摘まんで礼をする。
「そうか。ではロサ、今夜は暇かい?」
「え?」
「もしよかったら一緒にディナーでもどうだい?勿論、君の主人には許可を取るよ」
「お、お誘いは嬉しいのですが、パーティーの準備が残っていまして…」
「そうか。まぁ、明日のパーティーでも会えるなら構わないよ」
そう言って立ち去ろうとする彼の袖を掴む。
「あの!」
「ん?どうかしたのかな」
「えっと…私、準備の担当なので明日のパーティーには参加できないんです」
「……」
セーズ様は私の言葉を聞いた瞬間、表情が抜け落ちた様に無表情になった。
なんでこうも、国のお偉いさんは欲しいものが手に入らないとこういう顔になるのだろうか。
しばらく考えたような間が空いた後、セーズ様は私の手を引いて歩きだした。
「え、セーズ様?」
「今からトレヴァー殿に直談判しに行く」
セーズ様はそれ以上何も言わない。
自分からハニートラップ擬きをかけたが彼の反応を見てすでに後悔し始めている。
ここまで執着を見せられるとは思わなかった。
彼__セーズ様は幼児・小児に対して性愛や性的嗜好を持っている。
これは宿から見た馬車について調べていた時に知ったことだ。
城でパーティーの準備をしていた時にこっそり見た書類には、あの日の馬車の行き先がセーズ様が大臣として納めている国になっていた。
荷物の欄には『生き物』と簡潔に書かれていた。
深夜に馬車で運ぶ生き物。
そして、セーズ様の性的趣向。
それが何を指しているか分からないほど、私は馬鹿ではない。
しばらく歩くと、廊下で兵士と何かを話しているトレヴァー様を見つけた。
セーズ様はそのままトレヴァー様に近づくと、私の背を押してきた。
そのせいで私が意味もなくトレヴァー様に近づいてしまう。
「ん?ロサか。どうした?」
「えっと…」
「悪いね、私が連れてきたんだよ」
トレヴァー様はセーズ様に頭を下げてから口を開いた。
「セーズ様、ようこそいらっしゃいました」
「突然ですまないね。少し相談があるのだが」
「……ここではあれですから、場所を変えましょうか?」
「いや結構だよ。君が許可を出してくれれば済む問題だから」
「…と言いますと?」
話が見えてこないようでトレヴァー様は首を傾げている。
すると、セーズ様は私の肩に手を置いた。
「この子を明日のパーティーに出席させてほしい。勿論、給仕としてで構わない」
「……」
「パーティーの給仕が1人増えたところで違和感なんてないだろう?」
「それは、そうですが」
「ならいいじゃないか」
「ですが、ロサはまだ子どもです。城のパーティーのマナーも知らないため、セーズ様に無礼な対応をしてしまうかもしれません」
「私は気にしないさ」
「ですから、」
「私はこの子と話がしたいんだよ」
セーズ様はトレヴァー様を睨んだ。
トレヴァー様はその視線に唇を噛むと、小さな声で了承した。
「分かりました。許可致します」
「ありがとう。じゃあ、私は部屋に戻るよ。明日の夜が楽しみだね、ロサ?」
「え?」
「またね」
セーズ様は妖艶に微笑みながら去って行った。
残された私とトレヴァー様は唖然としたまま見つめ合う。
先に口を開いたのはトレヴァー様だった。
「多少の予想はしていたが、準備の担当だからいいと軽視していたな。すまない」
「…いえ、私こそ申し訳ございませんでした」
「君は何も悪くない。…とりあえず明日は給仕としてパーティーに出席してもらえるか?」
「勿論です」
トレヴァー様には申し訳ないが、これで準備期間と当日の両方に出席することができる。
それに、セーズ様から情報を聞き出したいところでもある。
「では、頼んだぞ」
「はい!」
この国が滅びるかどうかは明日のパーティーにかかっている。
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