第16話


ついにパーティー前日を迎えた。

いつもより早く起きて、支給されたドレス風なメイド服に着替える。


今日は本格的にパーティーの準備を終わらせなければならない。

3日ほど前から準備を進めていたため、今日は最終確認が主な仕事だった。

それに噂では、明日のパーティーのために遠方の国から来る貴族や大臣が城で前泊するらしい。


「じゃあ行ってくるから」


ベッドの上で丸まっている猫に声をかけるも、眠たいのか尻尾を揺らすだけだ。

多分聞いているからいいだろう。

ドアノブに手をかけ、廊下に出る。

すると、丁度アメリアさんが部屋の前を通り過ぎた。


「おはようございます」

「あら、ロサちゃん。早いのねぇ」

「アメリアさんもじゃないですか」

「ふふっ、明日のパーティーが楽しみで早く起きちゃったのよ」


本当に楽しみなようで、声が弾んでいる。

私もアメリアさんのように純粋にパーティーを楽しみにできたら、なんて考えてしまう。

そんな思考を断ち切るように軽く頭を振る。


「じゃあ私は今日の準備頑張ってきますね」

「うん!行ってらっしゃい」


アメリアさんに見送られ、先輩方と城へ向かう。



城の門番たちは私たちの服装を確認すると、そのまま通してくれた。


「じゃあ私はこっちだから」

「うん、お互い頑張ろうね」

「はい!」


各々の持ち場に分かれ、それぞれの仕事をする。

パーティー会場の準備や料理の最終チェックなど様々だが、私は特に廊下の飾りつけを任されていた。


城の東側、私が掴んだ情報によるとこの辺りに…


「こんにちは」


唐突に背後から声をかけられる。

振り向くと、そこには私が探していた男性が立っていた。

整った見た目で爽やかな笑みを浮かべている。


間違いない、この国から遠くに位置する国の大臣だ。

パーティーの招待者リストに名前があったから前泊することは把握済みだ。

そして、この辺りの部屋に宿泊することも事前調査で分かっていた。


「こんにちは、セーズ様」

「おや、私のことをご存知でしたか」

「もちろんです。頑張って覚えましたので!」


身振り手振りを大きくして幼さを前面に出す。

それから、今更失言に気づいたように慌てる。


「も、申し訳ありません!えっと、頑張って覚えたというか…その、」

「はははっ、いいさ。気にしないでくれ。私としてはこんなに可愛いメイドに名前を覚えてもらえて嬉しいよ」


男性は軽快に笑うと私に目線を合わせて屈んでくれた。


「お嬢さんはこの城のメイドなのかい?」

「いえ、普段はトレヴァー様のお屋敷で働いています」

「そうなのか。幼いのに大変だね」

「大変なこともありますが、楽しいですよ!ご飯も美味しいですし!」


その話を聞いて再び笑うセーズ様は私の頭を撫でてきた。

その手に頭を擦りつけて、できるだけ蕩けた顔をする。


これで靡くかどうかでターゲットの変更を考えないといけない。


ほんの少し滲んだ緊張を表に出さないように様子を伺えば、セーズ様は生唾を飲み込んだように見えた。


かかった。


そう確信した時、セーズ様は立ち上がり私を見下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る