第13話

正直に言うと、城の警備は今までの国の中でもトップレベルで厳しかった。

お城に近づくにつれてそれは顕著になり、さらに門番までいる始末。

これではさすがに正面突破は無理そうだ。

でも猫の目のおかげで明かりを持たなくてもよく見える。

仕方なく塀に沿って歩いていると、偶然塀に変なくぼみを見つけた。


「これ、もしかして非常口?」


しゃがみ込んで調べてみると、そこには小さな穴があった。

ここから入れそうだ。


「入るのか?」

「城の中に入るつもりはないけれど、抜け道とか非常口は知っておきたい」


場所を覚えつつ、歩き続ける。

こんな時間だというのに城の中は明々と灯りがついている。

なるべく見つからないよう、慎重に進む。


城の外周が結構広いようで、しばらく歩いてやっと半分に差し掛かったぐらいだった。

この広さの地図を覚えるのは骨が折れそうだ。


「……!」

「どうかしたか?」

「……誰かこっちに来る」


話し声と足音が聞こえてきた。

私がいる場所はちょうど茂みになっているので見つかることはないと思う。

でも念のため身を隠す。

足音は徐々に近づいてくる。


「で、結局足を切り落とされたんだって」

「うっわ、痛そう。でも足切ったら売れにくくなるんじゃないのか?」

「そういう趣味の貴族がいるんだと」

「あー、そういうね」


影から見ると、見回りらしき2人の兵隊が雑談をしながら歩いていた。

足を切る、売るという単語から察するに人攫いだろうか。


「まぁ、あそこから逃げられるわけないし」

「だよなー。でもこの国の資金のためには仕方ないのかもな」


2人はヘラヘラ笑いながら通り過ぎていった。

『あそこ』とはどこのことだろう?

気になるけれど、今はそんなことを考えている場合ではない。

足音をたてないようにその場を離れる。


「あんなに情報が駄々洩れでいいのか?」


猫の呆れた声が聞こえる。

それには私も同感だが、そのおかげで情報を得られた。


「でもこの情報は助かったわ。施設から逃げられないっていうことは、この国のどこかに子どもを重用している施設があるということ。そこを見つけ出せば、きっと何か分かるはず」

「……お前は本当に子どもか?」

「失礼な。純真無垢な子どもよ」


猫と軽口を叩いているといつの間にか街の方まで戻ってきていた。

仕方ない、今日はここでやめておこう。


「帰るのか?」

「あまり長居しすぎても良くないからね。今日はこれぐらいにしておくわ」


トレヴァー様の屋敷に戻り、寮に近いところのフェンスを越えて窓から部屋に戻る。

窓を閉めると、猫が影から出てきた。


「あ、まだ猫の目使いたかったのに」

「この部屋なら使わずとも見えるだろう」


そう言って猫はベッドの上に飛び乗った。

どうやらこの部屋に居座るつもりらしい。

ローブを脱いでから、ふと違和感に気づいた。


「っていうか、よくここが分かったわね。あの宿にトレヴァー様が来た時すぐに出て行ったから分からないと思った」

「あの時は急な来訪者に警戒しただけだ。それに街をふらついたおかげでいいものも見つけたぞ」

「いいもの?」


猫の方を見やれば、ニヤリとした笑みを浮かべた。

嫌な予感がする。

こういう顔をしている時のこの猫はろくなことを思いついていない。

でも素直に気になるし、聞かないわけにはいかない。


「聞きたいか?」

「…うん」


猫が話した情報は耳を疑うようなものだった。

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