第11話


「ロサちゃん、そっちまだ干せそう?」

「あと2枚か3枚なら!」


私がこの屋敷で働き始めてから1カ月が経った。

基本的に昼は働き詰めだが、不思議と苦ではない。

しかし情報はあれから何も得られなかった。

私としては王族に近い、特に警備隊の隊長の屋敷になんてできるだけ長居したくなかった。


「ふぅ~…何とか終わったわね」

「急にこんなにテーブルクロスを洗うなんて何かあったんですか?」


広いはずの庭には所狭しとテーブルクロスが干されている。


「それがね、今度お城でパーティーが行われるらしくてそれ用のテーブルクロスなんだって」

「パーティーですか」

「色々あって、今回のパーティーにはこの屋敷からも何人かメイドを派遣してほしいんだって。今度トレヴァー様からお話があるらしいよ」


お城でのパーティー。


情報が得られていない現状を打開できるかもしれないチャンスが巡って来た。

でもそれだけ危険が伴うことでもあった。


「ね、よかったらロサちゃん立候補してみたら?」

「私ですか?でもまだ新人ですし…」

「大丈夫よ!ロサちゃんはもう立派なうちの使用人だもの。それにほら、ロサちゃん綺麗だし。自信持って!」


実はね、と手招きに従って近づけば耳に唇を寄せられる。


「実はロサちゃんの前任のメイドは、お城のパーティーで出会った貴族様と結婚したのよ。それで退職したの」

「えぇ!?」


衝撃の事実だった。

まさかそんな理由だったなんて。


「だから私も立候補しようかと思っているの」

「そんなに上手くいきますかね」

「ロサちゃんたまに達観したこと言うよね」


しまった。

素直に思ったことを言ってしまった。


「とにかくね、ロサちゃんも迷っているなら行ってみるのもありだと思うの。勿論、お仕事が中心だけれどね」

「うーん……分かりました。考えてみます」


アメリアさんは私の返事に頷くと嬉しそうに笑った。


「じゃあ次の仕事に移りましょうか」

「はい!」


お城のパーティーに出ることも考えながら仕事に戻る。


もしも本当にお城のパーティーに出るなら、今夜偵察に出るしかなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る