第10話


「うっそ……」


目の前には本がびっちりと詰まった本棚が大量にある。

そして、どれもこれも古そうだ。


「これ全部探すのか……」


思わずため息が出る。


「いやいや、ここで諦めたらダメでしょ」


とりあえず1冊手に取って見る。

表紙は革製で、年季が入っているもののしっかりとしていた。

タイトルを見る限り、歴史関係の書物が多いようだ。


「…きっとここじゃない。隠すならどこだ?」


本を戻して考える。

子ども用のメイド服の件やアメリアさんのことから何となくな予想はついたが、確信的なものがない。

でもここで見つけないと…。


「焦ってもどうにもならないね。核心的な情報が少なすぎる」


しかしやはりどこか焦ってしまう。

手当たり次第に本を漁っていれば、いつの間にか相当時間が経っていたようで日が沈みかけていた。


「ロサちゃーん?」

「え、アメリアさん」


急に開いた扉に驚く間もなくアメリアさんが顔を出した。

ここで探し物をしていることがバレてはマズイと思い、慌てて彼女の元へ行く。


「どうかしましたか?」

「もうすぐ夕食の時間なの。良かったら一緒に行かない?」

「すみません、すぐに行きます」


特に何か言及されることもなく、食堂へ向かった。

用意されたメニューは肉も使われており、使用人が食べるには豪華に見える。


「?どうかした?」

「いえ」


どうやらこのメニューに違和感はないらしい。

この屋敷ではこれが普通なのかもしれない。

先に席に着いたアメリアさんさんの向かいに座り、料理を口に運ぶ。

味も悪くなく、むしろ調味料もしっかり使われていて美味しい。

昼も美味しかったが、個人的には夜の方が好きな味だ。


「そういえばどうして書庫にいたの?」


何気なく聞かれた核心を突くような質問に少なからず動揺してしまう。

アメリアさんの様子を見ても、特に探るような視線は感じない。

上手いこと隠しているのか、それとも素直に気になっただけなのか。


「異国の文化に興味があって…思わず読み込んでしまって」

「あぁ、なるほどね。確かに本に触れることなんてなかなかないもんね」


納得してくれたようで安心した。

その後も他愛のない会話をしながら食事を終えた。


「じゃあ明日の朝から仕事があるから、朝食を食べたら中庭に来てね」

「分かりました」

「うん、じゃあお休み」

「おやすみなさい」


寮に戻り、簡単な説明を受けてから各々の自室に戻った。

結局何も情報を得ることができなかった事実が悔やまれるが、気にしていてもしょうがない。

焦っても仕方ないことは今までの経験から理解している。


「猫もまだ来ないのね」


今こそ色々話して頭を整理したいのだが、どうやらまだ街をふらついているらしい。


「ま、そのうち来るでしょ」


私は私でやるべきことをやろう。

ベッドに横になり、目を閉じればすぐに睡魔はやって来た。

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