第9話
水あげも終わり、お昼時になったため食堂に向かうことになった。
屋敷の中ではあるが、ここへの立ち入りは使用人なら誰でも構わないようだ。
「ここが食堂よ。時間にもよるけれど大抵誰かいるわ」
お昼時とはいえ、大衆食堂のように人で溢れるようなことはなかった。
「あ、アメリアさん」
「ロサちゃん!今ちょうど呼びに行こうと思っていたところだったのよ!」
アメリアさんは私の声に気づき振り向くと、嬉しそうに駆け寄ってきた。
昨日は薄暗くてよく分からなかったが、近くで見ると彼女はとても整った顔をしている。
栗色の長い髪はゆるふわで、大きな瞳も相まって可愛いという印象が強い。
「勝手に動いてすみません」
「いいのよ~、見て学ぶのも大切だもん」
庭師の女性は他のメイドに話かけられてそのままどこかへ行ってしまったのでアメリアさんと昼食を取ることになった。
メニューはパンとサラダ、スープといった質素なものだったが、美味しかった。
食後はもう少し屋敷の中を探索することにした。
アメリアさんも仕事があるようでその場で解散となった。
「じゃあ今夜、明日の仕事について話すから覚えておいてね」
「分かりました」
手を振って彼女を見送る。
今日は何をしても「知らなかった」で大体許されると思うので今日中に粗方調べておきたい。
屋敷の間取りを覚えながらトレヴァー様の部屋を探す。
すると、扉の素材が他の部屋とは違う部屋を見つけた。
「ここ…かな」
ノックをしても返事はない。
やはり不在なのか。
「あれ、新人ちゃん?」
急に後ろから声をかけられたと思ったら執事服を着た男性がいた。
なにやら大量の書類を抱えている。
たしか、昨日の夜に見かけた人だ。
「はい、初めまして」
「もしかしてトレヴァー様に用事あった?」
「改めてご挨拶をと思ったのですがお部屋が分からなくて…」
「あぁ、トレヴァー様のお部屋ならその部屋だよ。でもしばらくはご不在だと思うし、トレヴァー様自体もそういうことに執着されない方だから気にしなくていいと思うよ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
男性は書類を抱え直して去っていった。
彼が抱えていた書類の量を考えるとかなり忙しいみたいだ。
でも重要な確認は取れた。
「ここがトレヴァー様のお部屋なのね」
ということは、多分私が欲しい情報はこの部屋の中にはない。
重要な情報ならこの部屋の中だろうが、私が欲しいのは国がもみ消している情報や弱み。
『木を隠すなら森の中』
ならば、情報を隠すならそれなり情報が錯綜した場所だろう。
「…書庫か」
まず最初に思い付いたのは書庫だった。
しかしそんなところに隠すなんて、あまりにも警戒心がなさすぎではないかと思う。
でも、念のため調べておくに越したことはないと思う。
「よし、行ってみるか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます