第8話


誰かが扉の前を歩いた。

知らない気配に一気に目が覚め、警戒を張ったがよくよく考えれば昨日ここに連れてこられたばかりだから知らない気配で当然だった。


「…今は」


時計を確認するとまだ早朝だった。

今日は休んでいていいとは言われたが、何もしないわけにはいかない。

とりあえず、着替えてから部屋の外に出よう。

そう考えてクローゼットを開けると、そこには大量のメイド服がかけられていた。

どれも上質なもので、新品のように綺麗だ。


「うわぁ……」


思わず感嘆の声が漏れた。

こんなに沢山の服を見るのは久々だし、何より高そうだ。


「…何でサイズ合うの?」


着てみればまるで測られたかのようにぴったりだった。

そして、何故か靴のサイズも合っていた。


「……あー、そういうこと」


ある1つの仮説にたどり着いた。

ただ、まだそれを確定させるにはあまりにも材料が少なすぎる。

今、変に勘ぐって解雇されたらたまったものじゃないしある程度信頼されるまで大人しくしておくか。




屋敷は昨日の夜に見た時と印象が全く違った。

昨日の異様な雰囲気は何だったのだと疑問に思ってしまうほど何の変哲もなかった。


「こんにちは」

「あら、こんにちは。あなたが昨日雇われたお嬢さんね」


庭の手入れをしていた女性は、笑顔で迎えてくれた。

彼女は私のことを噂で知ったらしく、昨日からずっと楽しみにしていたらしい。

確かにこんなに少数の使用人しかいないなら噂が回るのも早いだろう。


「今日からお仕事なの?」

「いえ、今日は休んでていいと言われたのですが何かお手伝いできることはないかと思って…」

「そうなの?じゃあ少し手伝ってくれないかしら」


そう言うと、私は彼女の後をついて行くように言われた。


「この辺りの花壇に水をあげてくれる?私だけじゃ大変だから助かるわ」

「はい!」


任された仕事をすべく、ジョウロを持って花壇の見やる。

そこには色とりどりの花々が広がっていた。

花に水をあげながら考える。


…もう少し幼いふりした方がいいかな。


仕事を失敗すると関係ない人に迷惑をかける上に注視されるようになってしまうから言動で幼く見せるか。

でもそれも段々と変えていかないと。

急に変えると違和感しか残らない。


思考を巡らせる中で1つの疑問に当たった。


「そういえばトレヴァー様は今どちらにいらっしゃるんですか?」


その質問を投げられた庭師の女性は何かを察したように頷いた。


「あぁ、知らされていなかったのね。トレヴァー様は警備隊の隊長様だからあまり屋敷に戻られないのよ。昨日帰られたのも1週間ぶりぐらいだったわ」


どうやらトレヴァー様はご多忙のようだ。

まぁなんか冷たかったし、いない方が動きやすいからいいんだけどさ。


「そうなんですね」

「えぇ、それに私たちに何かお頼みになる時以外は基本放任されているから何かあったらトレヴァー様ではなく、私たちに言ってちょうだい」

「分かりました」


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