第2話


「にゃーん」


ご飯を食べ終えてからお店を出れば、黒猫が近寄って来た。

首輪も特徴もないが見覚えのある猫に手招きをして大通りを外れ、裏道に入る。

理解したようについてくるその猫は周囲に人がいないことを確認すると口を開いた。


「全く、どこに行ったのかと思ったよ」

「どこに行ってもいいでしょう。どうせあんたは私を見つけるんだから」


そう言い放てば、猫は気味が悪いほどにっこりと笑う。


「この前までいた国も滅ぼして、今度はここも滅ぼすつもりかい?」

「滅ぼすなんて人聞きが悪い。私は生きるために仕方なく偶然得た情報を売っただけよ」

「人間は皆そう言う」


通常の猫の2倍近くありそうな尻尾で口元を隠して楽しそうに笑っている。


「その薄情で自分勝手な所が本当に面白い」

「褒められても何も出ないわよ」


猫はいつの間にか私についてくるようになっていた。

いつからついてきていたのか、そもそもどこから来たのかすら知らない。

最初は警戒していたが、特に害はないと判断して放置していたら急に話すようになったのだ。


「面白い、面白い。命が1つしかないと知ると死に怯えて生きるものだがお前はそうではないのだな」

「怯えて生きて何になるのよ。私は刹那主義なの」

「ほぅ?それはまた何故?」

「長くだらだらと生きていても仕方がないじゃない?だから私は短い人生を楽しむの」


私の答えを聞いて猫はこれまた面白そうに笑った後、短く鳴いた。


「全く、これだから人間は見ていて飽きないのだよ」

「それ褒めてる?」

「褒めているとも。では、さっそくだが偵察といこうじゃないか」

「当然のようについてくるのね」


猫は当たり前だと言わんばかりに大きく欠伸をする。

そして、次の瞬間には消えてしまった。

いや、消えたように見えただけで実際は違う。

私の影に入り込んだのだ。


「ほんと、化け猫もいいところね」

「長いこと生きていると色んな知恵もつくものさ」


脳内に直接届く声に身震いする。

何度体験してもこの感覚に慣れない。


「ほら早く」

「はいはい」


裏道から大通りに戻ると、先程までと変わらない風景が広がっていた。

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