夢の世界の住人
亮兵衛
夢の世界の住人
夢ってのは見たことは憶えていてもその内容まではなかなか記憶に残らないもんじゃないか?
起きた瞬間、なんか変な夢見たなーって思っても次の瞬間にはモヤがかかって忘れちまうんだ。
まあ、個人差があるだろうけどさ。
おれはそうなんだ。
中にはけっこう鮮明にどんな夢だったか記憶しているやつもいるっぽいけどな。
そういうやつってちょっと羨ましいんだよなー。
この感覚わかる?
寝てるときって当たり前だけど寝ることしかできないし、一瞬で終わるだろ。
でも夢を憶えているやつは寝てるときにもちょっとした不思議な体験が味わえるんだ。
大袈裟に言えば自分の人生の番外編さ。
漫画やアニメでもワクワクしない?
本編で登場した人物のサイドストーリー的なやつ。
ん?微妙にズレてる?そうか?
とにかく、夢は記憶しにくいって話だ。
だからかな。
滅多に憶えられないのに憶えている夢があるってのがちょっと気持ち悪くてな。
あるんだよ、おれにも。
ある一点を除いて一から十まで憶えてる夢が一個だけ。
それを見たのはおれが大学生の頃くらいだったかな。
夢のなかのおれもそんくらいの歳だ。
多分お盆休みだったんだろうな。
家族で墓参りに行く夢だった。
現実では家族でそんな行事、やったことないんだけどな。
家族全員で車に乗り込んで移動するところから始まった。
運転は親父が、助手席におふくろが座って後部座席におれと兄貴。
おれの家族はオレ以外みんなおしゃべりなんだよな。
だからいつもなら、三人が思うままペラペラ話して車中は騒がしいもんなんだ。
でもそのとき、妙に静まり返っていたんだ。
今考えると・・・なんとなく納得できるけど。
・・・ん、ああ、悪い悪い。どこまで話したっけ?
そうそう、車で移動な。
墓の場所までは正確にはわからないけど、結構遠かったんだよ。
しかもなかなかの山道でさ。
夢のなかだっていうのに酔いそうな気分だった。
親父運転下手くそになったなーとか思ってたよ。
そもそも誰の墓参りで、その人はおれたちにどんな縁があって、そんでなんでこんな人里離れた辺境な地に墓があるのかとか、よくわからないことは色々あったな。
でも夢ってそんなもんじゃないか?
不思議なことが起きても、夢の中の自分はそれを当たり前のように受け止めて、不思議だと思えないんだ。
だからわからないこと、謎なことがあっても夢の中のおれは疑問に思わなかった・・・気がする。
静かで重苦しい車中から解放されたのは山奥の墓地に着いてからだった。
けっこう狭いところだったな。
陽の光を遮るように木が生い茂ってたから暗かったし、なんだか車中の雰囲気とあんま変わらなかったよ。
墓参りなんて普段しないけど、普通墓参りでやることっていったらお墓をきれいにしたり供え物をしたり手を合わせたりだろ?
でもそのときおれたちがしたことはそういう常識的な行いじゃなかったんだ。
車のトランクから大きめのスコップを取り出して、お墓を掘り起こし始めたんだ。家族全員で。
本当なら罰当たりもいいとこなんだけど、夢のなかのおれはそうは思わなかったんだ。
墓参りに行ったら、まあみんなで墓掘り起こすよね普通。
くらいに思っていた。
さっきも言ったけど、不思議なことを不思議に思えなくなってたんだ。
で、掘り起こして出てきたのは・・・バイクだ。
ふざけてないって。
本当にバイクがでてきたんだよ。
いわゆる単車ってやつだな。
それが今回のお目当てのものだったらしく、バイクが出てきたらお墓を元に戻して帰り支度をした。
しかも帰りは、兄貴がその掘り起こしたバイクに乗るんだよ。
他3人は行きと同じで車で、兄貴が車についてくる形でバイクで。
もはや笑えてくるほどの珍事件だ。
そもそも兄貴はバイクなんて乗ったことないはずなのに。
でもしつこいようだけど、これが夢のなかでの常識みたいになっていた。
墓参りは、墓掘り起こして出てきたバイクに兄貴が跨って帰るのが普通だよね。
・・・頭がおかしくなりそうな世界だよほんと。
で、帰り道。
行きは山道を登っていったから、当然帰りは下りになる。
3人が乗った車が先を走り、兄貴のバイクがそれを追いかける形だ。
バックミラーでバイクの様子を見る。
・・・土の中から出てきたはずなのになんでピカピカなんだよ。
なんてことを疑問に思うこともできないなんて、面白い話だよな。
自分の身体じゃないみたいだ、なんて表現はよく聞くけど、自分の脳じゃないみたいだって感覚はこんな夢を見ることでしか味わうことができないんじゃないか?
なにも考えずバックミラーでバイクと兄貴の動きを目で追うことに夢中になっていると、車は別れ道に差し掛かった。
帰る途中なんで、当然車は行きに通った道にハンドル切って進むんだけど、なぜか後ろをついてきてた兄貴は反対の道を行こうとするんだ。
今までの流れからすると、これも夢の世界では常識だよねってなるはずなんだけど、この件だけは違ったみたいなんだ。
兄貴がバックミラーから見えなくなった瞬間、おれは背筋が凍りつき
「そっちはだめだ!」
って叫んで走行中の車のドアを開けて飛び出して・・・。
で、そこで目が覚めた。
・・・ん?拍子抜け?
ああ、悪かったよ。
別に具体的になにか変な結末が待っていた話じゃないんだよ。
そもそも夢だしな。
あの奇行の数々はなんだったのか、なんで兄貴が反対の道を行くことがダメだったのか、そもそも最後兄貴はどうなったのか。
全然今でもわからないことだらけだよ。
ただ、目が覚めた瞬間に色々気付くんだ。
夢の中では常識だと思っていたことが、現実では不可解な話だったってことに。
なんで墓参りで墓掘り起こすんだよとか、なんでバイクが出てくるんだよとか、兄貴はなんでそれに乗って帰るんだよとか。
そもそも、あいつらは一体誰なんだよとか。
そうなんだよ。おれが夢の中で家族だと認識していた人たちは、一人残らず現実のおれの家族じゃなかったんだよ。
それに気づいた瞬間、夢の中の家族の顔にモヤがかかって記憶から消えた。
多分、もう一生思い出せない。
彼らが何者なのかわからないけど、夢は何かしらの暗示ってよく聞くし、不吉なことの前触れじゃなければいいんだけどな。
内容が内容だし、家族にはこの話できないし。
・・・ん?そりゃそうだろ。どうするよ。実はお前は橋の下で拾ってきた子なんだとか言われたら。
いやまあ、今更血の繋がりがあろうがなかろうが関係ないかもだけどさ。
とにかく、家族に不幸がなければなんだって構わないかとは思うよ。
おれが怖いのは、いつか彼らがおれの目の前にでてくるんじゃないかってことかな。
なにをされたわけでもないし、なんならおれが勝手に作りだした夢の世界の住人なんだろうけど。
さっきはもう思い出せないっていったけど
それでももし仮に現実世界で会ってしまったら
きっとおれは気付くと思う
あのときの彼らだ、って
夢なんだからもっと楽しい体験したいよな。
夢の世界の住人 亮兵衛 @2580ryobe
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
黄昏の夢想/のいげる
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 4話
精神障がい者の日記/羽弦トリス
★48 エッセイ・ノンフィクション 連載中 478話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます