第5話おまけ②【変化】
月から来たよ、かぐや彦
おまけ②【変化】
狸と狐に化かされるな。
誰が言い出したのかもわからないが、きっとそれは戒めだろう。
だが、化かされることを望む者もいる。
例えば、ここにいる一人の男のように。
「頼むよ、狸」
「やなこった」
「頼むよ、狐」
「嫌ですね」
「お前等ケチだな」
何を頼んでいるかと言えば、自分好みの女に化けろと頼んでいるのだ。
とはいえ、注文も多い上に現実から目を背けるような真似だ。
「弟が先に結婚して、それが羨ましいからって。兄貴、もっと節操持った方が良いですよ」
「うるせーな。そんなんじゃねーよ」
夜彦の弟でもある神楽は、すでに織姫という可愛らしい女性と結婚している。
その上、子供まで授かっているのだ。
かといって、それを良いなー、と思うような歳でもないのだ。
「そもそも、俺ぁ女に化けるくらいなら、女に化かされたいもんだ」
「お、狸。今名言言ったな」
「だろ?だろ?」
相変わらず馬鹿な二人だと思っていた狐。
「というわけで、狐、お前が良い女に化けろ」
「ええええええええええ!?ななな、なんでそうなるんですか!?」
「それしかねェだろ。俺は女を見たいんだ。なりてぇわけじゃねぇんだ」
「そんな!」
夜彦と狸の二人に迫られ、狐は今にも泣き出しそうな顔をしている。
そんな時だった。
二階から歩が下りてきて、狐に声をかけた。
「狐、ちょっと付き合ってくれ」
「!はい!」
「どっか行くのか?」
服装はいつもと変わらないが、狐を連れて行くということは、散歩ではないのだろう。
そう思った夜彦が歩に聞くと、歩はただ「ああ」と答えるだけだった。
どうして狐を連れて行くのかと思っていると、狐が歩の後ろを着いて行きながら、女性に化けた。
「「!?」」
何事だと、俊敏に反応をした夜彦と狸は、大声を出して歩と狐を止める。
「な、なんで化けるんだ?歩、お前狐と何するつもりなんだ!?」
夜彦と狸がまた変なことを考えているだろうことくらい、歩はすぐに分かった。
本当に馬鹿な奴らだと、半ば呆れながら返答をする。
「別に何もしねぇよ」
「じゃ、じゃあなんで狐が女の格好で着いて行くんだよ!」
それには、狐が答えた。
「兄さんが女の人に声をかけられるのが面倒だからって、こうして女の姿で一緒に行くんです。大抵の女の人は、これで声をかけてこなくなるんです」
ばたん、と閉められたドアを見つめたまま、夜彦と狸は真っ白になっていた。
「歩と仲良くしよう」
「ああ、そうしよう」
懲りない二人。
月から来たよ、かぐや彦 maria159357 @maria159753
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