第4話おまけ①【男児たるもの】
月から来たよ、かぐや彦
おまけ①【男児たるもの】
「怪しいよな」
「おう。俺もそう思ってた」
「ぜってェ、そっちの気があるんじゃねーかって思う」
「じゃなきゃ、あんな良い女を放っておくわけがねぇな」
夜彦の部屋にて、馬鹿二人が話をしていた。
一人は部屋の住人の夜彦、もう一人は茶色の丸い身体をしている狸だ。
狐は先程まで一緒にいたのだが、二人の会話に呆れて出かけてしまったらしい。
そんなことにも気付かず、二人は話を続けていた。
そして気になるのがその会話の内容だが、どうやら歩のことらしい。
歩と出会ってから結構な月日が流れたが、歩は二人のように女にがっつくことがない。
夜彦にしろ狸にしろ、悪い言い方をすると見境なしに惚れる。
特にこだわりがないのか、スレンダーな美女から、ちょこんとした可愛らしい女性まで、見れば鼻の下を伸ばすのに。
それが歩には見られないことから、二人は歩の同性愛説を語り合っていた。
「この前だって、すげーナイスバディの女いただろ?いや、あっちが俺を気になってたのも知ってたけどよ」
「何言ってんでェ。あの姉ちゃんは俺に、この俺にホノジだってんだ」
「ふざけろよ、てめぇ。いいか、あんなに熱い眼差しを俺に向けてたんだ。俺に気が合ったんだよ」
「この自惚れ野郎が」
とまあ、脱線はしょっちゅうだが。
「歩が女を見ても表情ひとつ変えないのは、絶対に男が好きなんだよ」
勝手に、そう結論付けたのだった。
「だがよぉ、男色だとしたら、なんで俺みたいな美男子に見向きもしねぇ」
「誰が美男子だ。お前が変化したって、マッチョマンじゃねーか」
「てめぇだって人のこと言えんのか。変な色の髪の毛しやがって」
「関係ェねーだろ。まじでぶっ飛ばすぞ」
「もったいねぇなぁ。あいつだって黙ってればなかなかの良い男だと思うぜ」
「上から言うな。口を開けば鬼だからな」
「悪魔だろ」
キシシシ、と二人して怪しい笑みを浮かべていると、狐が帰ってきた。
手には小さな紙袋を持っている。
その匂いから察するに、きっとタイ焼きを買ってきたのだろう。
「おう狐。丁度良いときに来た。その茶菓子を俺によこせ」
「構いませんけど、ちょいと冷たいですよ」
「ああ?なんでェ?」
すでに冷えていると分かっても、狸は食べる心算のようだ。
狐から手渡された袋から二つ取り出すと、自分の両手で一つずつ持つ。
少し硬くなっているタイ焼きを食べている狸をよそに、狐が話だした。
「実は、散歩をしていたんですがね」
「へえ」
あまり興味無さそうに聞いていた夜彦と狸だったが、二人の表情は徐々に変わっていくことになる。
「歩兄さんに会ったんですよ」
「歩に?」
「珍しいな。まだ二階にいると思ってた」
狐は袋から残りのタイ焼きを取り出すと、一つを夜彦に渡した。
最後の一個を自分の口に運ぶ。
一口含んだところで、何かを思い出したように立ち上がり、お茶を淹れた。
そしてまた話出す。
「兄さん、女の人からコレを貰ってましてね。それがもう可愛らしい子で。その女の人からのプレゼントらしいんですよ。前にも兄さんにプレゼント送ったみたいなんですけどね、兄さんその時、物は困るって言ったみたいで。消耗品とかが良いって言ったみたいなんですよ。本当に変なお人ですね。それで、今回はタイ焼きみたいなんですけど。でも、兄さんに『いらないからやる』って言われて。もう渡された時には冷たくなってたんです。意外とおモテになるんですね、歩兄さん」
「「オ―マイガ―!!!!!」」
急に雄叫びが響いた。
狐の話を聞いて、なぜか二人が荒れ狂う様に部屋を駆け廻り出す。
何か遊んでいると思ったのか、狐は笑うだけだった。
「あんな男色野郎が!!!嘘だと言ってくれ!!!」
「女に興味がねぇなら、俺によこせってんだ!てやんでィ!!!」
くっそう!と二人して、走っていた足を止めると、蹲ってドンドンと床を拳で叩きだした。
見ている方は楽しい光景でもあるのだが。
そんなふうに、感情のまま暴れていた二人は、気付かなかった。
背後に近づく黒い影に。
「歩の男色が!」
「べらぼーめ!くたばっちまえ!!!」
その影は二人の尻を思いっきり蹴った。
床にうつ伏せた二人は、滝のように涙を流しながら未だ文句を言っている。
「男色・・・」
「誰がだ。それ以上変なこと言ったら、お前等二人、まとめて粉砕してやるよ」
瞬時に正座に切り替わると、二人は誠心誠意謝った。
歩から怒りの焔が見ていたのは、気のせいだろうか。
盛大な舌打ちを一回だけすると、歩は二階へとあがっていった。
それでもしばらくの間、夜彦と狸は正座をし続けるのであった。
「ほんに、あんさんらは馬鹿ですね」
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