命
世界では相変わらず、何機もの機龍が戦っていた。世界では相変わらず、ICが作られていた。そして、世界では相変わらず、ICが戦争に利用されていた。
「敵機発見! 直ちに撃墜せよ!」
「撃て!」
「荷電粒子砲、発射!」
地球の滅亡を阻止することは出来た英雄にも、世界を変える力は無かったようだ。かつては
しかし翔太と架神が繰り広げた死闘は、決して無意味ではなかった。
官邸の前には、毎日のようにデモ隊が押し寄せている。
「ICの製造をやめろ!」
「ICプロジェクトの責任を果たせ!」
「罪のない命を弄ぶな!」
あの一件で、ICの存在は世間に知らしめられたらしい。プラカードを掲げた集団は、次々に怒号をあげていった。しかしICを作らなければ、
「あの非国民どもを捕らえろ!」
国家元首は大声を張り上げた。
「了解!」
「了解!」
「了解!」
武装した集団は次々とデモ隊を取り押さえていった。デモ隊の中には、国家元首の護衛に銃殺された者もいた。ICの製造に反対すれば、自らを命の危機に晒すことになる。それでも、ICに反対する勢力は立ち上がるのだ。翔太や架神を含めた――全てのICが望んだ世界を実現するために、彼らは奮闘の日々を送っている。
テレビ画面には、隻腕の退役軍人――ジェラートの姿が映っている。彼は広いホールの檀上で、ICプロジェクトに対する見解を語っていく。
「生まれてはいけない命はない。ただし、生み出してはいけない命はある。科学を得た人類は己の技術に陶酔し、自らを神と見紛うこともあるだろう。だが、その神とやらは世界に憎しみを振りまいた」
そんな演説を前にして、聴衆は真剣な顔つきで息を呑んだ。この会場に集まった者たちの中には、ICプロジェクトに反対する者も、賛成する者もいる。無論、ジェラートはICを生み出すことに強く反対する姿勢を示している。
「人間は道具じゃない! ICだって同じだ! いかなる状況でも、世界が緊迫していても、それは命を弄んで良い理由にはならない! ワタシはヴァランガ軍で働いていた時、いつも祖国のやり方に疑問を感じていた!」
スピーチに感情が乗り、彼の声は徐々に大きくなっていく。迫真の演説が響き渡るホールには、この上ない緊張感が漂っていた。
「ワタシたちはもう、国と戦うべきではない。この狂った世界を変えるために、立ち上がるべきだ! そのために、我々は手を取り合うべきなんだ!」
曇り無き眼でそう断言したジェラートの姿は、世界中で物議を醸した。
一方、
「いよいよ、オレがそっちに行く日も近づいてきたのかもな。翔太……
やはり彼にとって、あの二人は思い入れの深い人物であった。それから彼は、数時間にもわたってうめき声を上げ続けた。死に向かう最中、彼はこの上ない苦痛に苛まれていった。そんな彼の心を満たすものは、ICプロジェクトへの憎しみではない。彼の脳裏には、翔太や狼愛と過ごした日々が反芻されていた。
「アンタらに会えて、オレは本当に、幸せだった。そして、この四年間、ずっと寂しかったよ」
そう言い残した孝之は、静かに目を閉じた。心電図モニタは電子音を室内に響かせ、彼の死を告げた。
薄命戦記 やばくない奴 @8897182
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