英雄

「速報です! 何者かによって、ジャッジメントが爆破されました! ガンマ砲が発射される危険性はありません! 繰り返します! ジャッジメントが爆破されました! ガンマ砲が発射される危険性はありません!」

 ジャッジメントが破壊されたことは、世界中で報じられた。機龍兵に破壊しつくされ、荒廃した街の中、人々は次々に歓喜の声をあげる。

「やった! 俺たち、生きられるんだ!」

「世界は救われたんだな! もう、怯えることもないんだな!」

「私たちの勝利よ!」

 身の安全を確約され、善良な市民たちは舞い上がっていた。しかし倒壊した街を復興するには、まだしばらく時間がかかるだろう。彼らの試練は、まだまだこれからだ。



 *



 翌日、ヴァランガ帝国では、アイスバーグ大佐が夕焼け空の下に兵士を集めていた。

「ジェラート少佐に連絡したが、応答がない! 各自、至急、少佐の安否ついて調べるように!」

 彼の一声に従い、軍人たちは次々と返事をする。

「了解!」

「了解!」

「了解!」

 無論、通信機が破壊されていれば、敵機の攻撃はコックピットにも及んでいることだろう。ましてやそれが宇宙空間での出来事であれば、ジェラートの生存は絶望的だ。その上、機龍兵との戦いにより、世界では今燃料が枯渇している惨状だ。内心、兵士たちは皆、彼の死を確信していたことだろう。


 その時である。


 突如、その体躯の大部分を損傷したレジェンドが、空母の屋上に降り立ってきた。そこから姿を現したのは、左腕を欠損した男である。

「誰の安否について調べろと? 大佐」

 ジェラートの帰還だ。あの戦いの後、彼は奇跡的に生き延びたらしい。

「少佐!」

「心配しましたよ、少佐!」

「少佐ァ!」

 彼のもとに、何人ものICが駆け寄っていく。それほどまでに、ジェラートという男は下々の者たちに信頼されていたのだろう。ジェラートは強気な笑みを浮かべ、空を眺めた。そして彼は、ジャッジメントが爆破された裏で活躍していた英雄について語る。

「あの馬鹿……やってくれたな」

「あの馬鹿?」

「狐火軍の最高傑作、ショウタ・ユズリハだ。あのボーイは自らの命と引き換えに、ワタシたちを守ってくれたんだ」

 架神かがみの支持者たちとの戦いで、彼は翔太しょうたを援護していた。ゆえに彼は、あの少年の勇姿をよく理解しているのだ。

「そうか、あのガキが……」

「ついこの前までは敵だったアイツが、今や英雄か」

「なんというか、虚しいもんだな。戦争ってのは」

 兵士たちは口々に己の心情を語った。何はともあれ、これで地球滅亡の危機は去った。ジェラートはおぼつかない足取りで歩き始め、彼らに言う。

「ワタシの治療が終わったら、皆でご馳走でも食べよう。国に内緒で、未成年のキミたちにも旨い酒を奢ってやる」

 そう告げた彼は、医務室へと歩みを進めていった。



 同じ頃、時差のある狐火国は夜明けを迎えていた。半壊した病院の一室では、孝之たかゆきが横たわっている。彼は目を覚まし、上体をゆっくりと起こした。

「ここは……?」

 あの後、彼は奇跡的に一命を取り留めたようだ。彼が周囲を見渡すと、すぐ近くには携帯電話が置かれていた。彼はそれを手に取り、画面に表示された日付を確認する。

「そうか。翔太の奴、やり遂げたんだな」

 今日という一日を迎えられたということは、ジャッジメントが破壊されたということだ。孝之は安堵のため息をつき、満身創痍の体を引きずりながら窓の前に向かった。そこから見渡せる景色は、機龍兵の襲撃によって酷く荒廃していた。それでも孝之からしてみれば、この光景は微かな希望を秘めたものである。

「翔太……アンタはオレたちの、自慢のヒーローだよ。狼愛もきっと、向こうで喜んでるんだろうな」

 そう呟いた彼は、目頭から一筋の涙を零していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る