最強の孤児院魔術士は同性エルフに恋してる〜同棲愛が認められてない世界で神を超越するかも?〜

ネリムZ

行ってきますとただいま

 私はルルーシュからとある情報を貰った。

 過去の遺跡の情報だ。


 ルルーシュとは、タルタロス教団と言う邪神教に襲われている所を助けたら、邪神教と敵対する組織を作り上げた存在だ。

 こちらは時々力を貸して、あっちからは情報などを貰っている。


 私の目標はこの世界の創造主である神を超える事だ。

 その目標は私一人の目標ではなく、私の力の過半数であるマナを与えてくれたファフニールと目指している。

 ファフニールはダンジョンマスターなので、ダンジョンの外に出られないから、私がこうして外で活動している訳だ。


 「そんな訳でシャル、海に行こう!」


 「いきなりね。⋯⋯まぁ、良いかもね」


 シャルは腰までの長さがある金髪のエルフである。

 私達は二人で孤児院を運営していたが、今はいざこざがあった私の元冒険者パーティメンバーの三人、ナキミル、コモノ、マゾ、人間の子供のフリをしている悪魔ルアと一緒に切り盛りしている。


 「遺跡の調査だけど、名目上は旅行ね」


 「うん。子供達もずっと国内だと息が詰まる⋯⋯って言うか、広大な世界を体験させたい」


 「それは同じ意見だけど」


 旅行の日を決めた。

 その日になった。


 「せーの」


 『行って来ます!』


 皆で一緒に、孤児院に別れを告げる。数日の別れだけどね。


 そんな訳で、私達は海の街【アクア】にやって来た。

 私達が暮らしている国に属しているので、亜人差別が強い街だ。

 そのため、シャルが周囲からは姿が見えないように、ローブを深く羽織っている。


 「ほら、暴れるなよ」


 学生組のケンケンがはしゃいでいる子供達を叱っていた。

 昔はケンケンもあっち側だったのに、成長を感じる瞬間だよね。


 宿にチェックインして、荷物を整理したら海に遊びに向かう。

 海にはモンスターも居たりするが、浅い場所なら問題は無い。

 でも、海を利用する人達は私達しかいなかった。


 「それじゃ、あっちに更衣室あるから着替えだね。ナキミル、コモノ、子供達とは一緒に来てね。一人で先に行かせる事はしないこと」


 「分かった」


 「うん」


 私達は水着に着替えて、海まで向かった。


 「⋯⋯」


 「アメリア、シャルを見すぎだぞ」


 「いや、そんな訳な、ないじゃん?」


 ルアにジト目を向けられたので、誤魔化す事にした。

 子供達は学生組や大人の目が届く範囲で広がって遊び始める。


 「⋯⋯シャル、水着似合ってるよ」


 「⋯⋯ありがと。でも、やっぱり肌の露出部分が多いよね」


 「そうだね」


 互いにビキニタイプの水着である。


 「アメリアも可愛いよ」


 「この歳でそう言われるのは、恥ずいな」


 そう言って、互いに気まづくなっていると、後ろからマゾが近づいて来た。


 「あんたらは学生か。じゃ、こっちもあの子達と遊んでくるね」


 「マゾは私達二人を合わせたスタイルをしているな」


 ルアは悪魔だけど、子供達と普通に遊んでいる。見た目は子供だからね。

 楽しそうだ。私達の中で一番長く生きているのに。


 「私も少しは体を慣らした方が良いか」


 ナキミル達冒険者組が子供達に体操を教えている。

 準備運動は重要だからね。私も冒険者なので、泳ぎの知識はある。


 「シャルは泳がないの?」


 「あーん。泳ぐって感覚が分からなくて」


 「それもそうか」


 私達の国は内陸で洪水の心配があまりない。だから泳ぎの技術を学校では教わらない。

 シャルは孤児院を守ってくれていたので、外に出た事がない。


 「なら、海を見るのも初めてか」


 「うん。そうだね。⋯⋯本で見た事あるけど、想像以上に広いや」


 「だな」


 冒険者組が初歩の泳ぎ方を教えて、泳ぎ方を覚えた子からどんどん教え側に回る。

 泳げない場合は浮き輪などの道具を頼り、ルアは普通に泳げていた。


 「シャル、私が泳ぎを教えてあげるよ。子供達と一緒に遊べないと、皆が悲しむからね」


 「え、いやちょっと!」


 拒否される前に手を引っ張って海に運んだ。

 おー冷たい。


 「ね、本当に大丈夫? もう、肩まで浸かってるよ? も、もうすぐ足が着かなくなるよ!」


 「大丈夫大丈夫。いざとなったら魔術で脱出する」


 ゆっくりと浮かんで、シャルの体を横にする。

 先に息づきを教えようかと思ったが、酸素が無くても風の魔術で全く問題ないので教える必要は無いだろう。

 つーか、シャルの魔術技術があれば溺れる心配は無い⋯⋯魔術を使えば普通に泳ぐよりも速い、か。

 でも教えておこう。うん。


 「ほら、ゆっくりバタ足で」


 「ちょ、アメリア引っ張るの速い!」


 シャルが泳ぎを覚えていると、子供達が寄ってきて、「こうだよー」って教えている。

 うーん。微笑ましい。

 でも、子供達にとっては深いから、あまり来て欲しくは無い。怖いよ。


 「ちょ、もう、怖い!」


 「そう。じゃあちょっと休憩だね」


 シャルを抱き寄せて自分の体を支えにさせる。

 ⋯⋯今気づいたけど、これめっちゃ密着している。

 いや、一緒に水浴びしている仲だから裸も見た事あるし触った事あるし、気にする事ではないのだけど⋯⋯ないんだけど、気になってしまう。

 心臓の鼓動、速くなってないと良いんだけど。シャルに聞こえてないよね?


 チラッとシャルを見ると、ずっと下を見ていた。

 私も下を見ると、魚が泳いでいた。


 「モンスターに食われてないアニマルの魚か。沢山居るね」


 「そうだね。あの子達も楽しそ」


 子供達が笑顔で遊んでいる姿は私達に取って好ましい光景だ。

 あの子達はいずれ大人となって独り立ちする事になる。


 「あの子達が奴隷になったら、絶対に買わないとね」


 「違うよアメリア。奴隷に落とさない為に、自分達が居る。そうでしょ?」


 「そうだったな。家族の不幸を考えるべきじゃない」


 顔の距離が凄く近い事に気づいたのか、私達は互いに顔を染めて距離を離した。

 もうシャルも一人で泳げるようだ。


 「さて、私も久しぶりに泳ぐかな」


 冒険者時代に少し泳いだ程度だ。マゾに教えて貰った。

 泳ぎを慣らしていると、昼となり、ナキミルがバーベキューの準備をしていた。


 皆で焼かれるのを待つ事にする。


 「わーお肉だああ!」

 「美味しそう!」

 「ナキミルさん、まだ?」


 「あぁ、まだ。生肉はマナの弱い子供には危険だからな。しっかり焼くぞ」


 マナは生命力を守る盾にもなる。魔術を使うエネルギーでもあるけど。

 ⋯⋯まだかな。子供達が優先だけど、私も食べたい。


 「もっと火力上げない?」


 「焦げた肉が良ければ一人でやれ」


 「焦げ肉は苦くて好かん」


 「なら待っとけ」


 マゾは子供達を背中に乗せて腕立てをしていた。彼女、回復魔術が得意の後衛職だ。

 武術も得意。


 昼食を終えて一時間休み、再び遊びの時間が再開された。


 「ナキミル、ルア、ちゃんと見てろよ」


 「妾は子供だから分かんなーい(笑)」


 「子供達に敵意を向ける輩が現れたら?」


 「ぶっ飛ばす」


 「問題なさそうだね」


 ルアのガチの目を見たので問題ないだろう。

 私はルルーシュから貰った本命の遺跡へと向かう事にした。

 本当はもっと皆と遊びたいけど、ルルーシュに「任せろ!」と、ドヤ顔で言った手前、妥協は許されない。


 「あ、ちょっと待ってよアメリア。行くならついてくよ」


 「え? いや別に良いよ。今まで苦労かけたし、シャルは皆と遊んでゆっくりしてよ」


 「まぁ、それも良いけどさ。アメリアの手伝いをしたいんだよ」


 シャルが真っ直ぐな笑顔を向けて来る。

 少し前のウロボロス戦で三日間帰って来なかった事が響いているのかな?


 ウロボロスとは『霧の森ミストフォレスト』と言う森を生み出した古龍だ。

 めっちゃ強くて死にかけた。


 「じゃあ、少し離れてるから飛ぶね」


 「え?」


 いつもの服装でも良いんだけど、水中だから水着で行く。

 シャルをしっかりと抱きしめる。


 ⋯⋯シャルの耳が真っ赤だ。


 「口、開けちゃダメだよ」


 私は背中から翼を生やす。ドラゴンの翼だ。

 うん。部分的にドラゴンのような状態にするのは可能になったな。

 ウロボロス戦後の肉体再生の際にこの技術を体得した。


 「それじゃ、飛ぶよ!」


 私は一気に加速して飛んだ。

 時速20キロは出せる。


 既に皆が見えなくなる位置まで飛んで、私は止まった。


 「それじゃ、中に入るよ」


 「うぅ。少し酔った」


 「少し休むか」


 私は姫様抱っこでシャルを持ち、水面に停止した。


 「酔いが治るまでこうしてよう。危険だからね」


 「結局迷惑をかけてしまったね。ごめんよ」


 「まぁ、飛ぶ体験なんて殆ど出来ないからね。仕方ないさ」


 海のモンスターが来るので、その辺は魔術でサクッと倒しておく。

 この時間を邪魔しないで欲しい。


 休んでから海の中に潜って進む。

 中でも翼は使えるので、加速して下に向かう。


 「なんだあれ?」


 柵や建物?

 そこに村でもあったかのような痕跡が海の底には存在していた。

 いや、その表現には語弊がある。

 海の底の底が存在している。さらに深い場所があるのだ。


 水深7000メートルと言った所か。


 「あれか」


 大きな祠のような遺跡が中心にあったので、中に侵入する。


 「空気があるな」


 「ほんとだね。びっくり」


 火の魔術で灯りを天井付近に作り出す。


 龍眼、開眼。


 マナや知識などを私に与えた師匠的な存在、ファフニール。

 その眼を貰って私は使える。

 龍眼で見たモノはファフニールにも見える。


 ファフニールの所にはルルーシュ達もいるので、これで情報共有は完璧に出来る。

 右側の方を見ると、大きな壁画だった。


 右と左から進んでいるかのような物語性が感じられる壁画だ。

 左側からチェックしていく。


 「これは⋯⋯」


 そこには食べ物が無くて困っている人間達が祈りを捧げている絵だった。

 綺麗な線で描かれている。


 その祈りに応えるかのように神が降臨し、人間に恵を与えた。


 「ん? これだと世界創成理論と噛み合わんぞ」


 人々の祈りで神が来たのか?

 歴史書には、世界を創造した神が創造と同時に火などの知識や果実などの恵を与えたと言われている。


 「次を確認しよ」


 「だな」


 恵を与えられた人間達が開拓した絵に続いている。

 発展した人間は神に感謝をしている感じがあった。

 七人の人物が神にひざまづいている。


 「七人、か」


 ウロボロスとの戦いで死にかけた時、私は原初アメリアと言う存在に出会った。

 深い理由などは分からないが、彼女からは多少の知識と技術を貰っている。

 神の存在に居たり、神に捕らえられた成り上がりの神⋯⋯元の私。


 その人に私はアメリカ、ニホン、ドイツ、ロシア、スイス、インド、チュウゴクの家名を持つ存在を集めろと言われている。

 アメリカは私、ニホンはシャルだ。

 人数は噛み合う。何らかの関係があるのかもしれない。


 「これは」


 そんな七人と神が大きな存在と戦っている絵が大きく描かれている。これが中心のようだ。


 「大きな⋯⋯鬼? いや、邪神か」


 「歴史書に残っている、神とその使徒、邪神との世界戦線だね」


 「あぁ、そうだと思うけど⋯⋯この七人、種族がバラバラだ」


 エルフがいる。もしかしたらコイツが『ニホン』の家名を持っているのかもしれない。

 シャルとの関係があるのか?


 私は⋯⋯分からないな。

 私は半魔人らしいが、人間だと思って生きていた。

 この絵には人間らしき存在が三人存在して、半魔人らしい存在は分からない。


 「ま、確定じゃないか」


 次からに進むと、物語が巻き戻っている感じがしたので、右側から再び見始める。

 流れ的には邪神が村を破壊し、街を破壊し、国を破壊し、世界を壊そうとする絵だった。


 「他の壁とかには何も無いな。めぼしい宝も無ければマナも感じない」


 違和感があるとすれば、腐った果物が放置されている事だろうか。

 異臭を放っている。


 「あ、奥があるよ」


 「ほんとだ」


 シャルが見つけた奥の場所に、念の為手を繋いで向かう。柔らかい。


 「んじゃこりゃ」


 その中はボコボコに殴られたりしている場所だった。

 風化しているので、やはりかなり古い。


 「右側が綺麗だな」


 壁画だ。今回は右側から続いている。

 先程とは違って、爪で削られて出来たかのような、ギザギザな絵だった。


 「これは⋯⋯」


 私の考えになるが、神を目指そうとした人が昔にも居たらしい。

 そして神になった。

 神に近づいた事により神が激怒し、神になったその周囲の人達を⋯⋯破壊した。

 大切な恋人だと思われる人、家族、知人、更にはその人が暮らしていた国まで破壊している。


 怒ったその人が神に挑むも返り討ちにあい、この遺跡に逃げて来た。

 邪神の姿に変わっている⋯⋯つまり、この成り上がりの神が邪神なのだ。


 「嘘、だろ。なんだよ、これ」


 その人は元々偉大な人で慕われていた絵が存在していたのに、遺跡に逃げて来た時には色んな人が憎悪を向けているようだった。

 そして泣きながら絵を描いている邪神。


 「邪神は世界を滅亡に追い込む存在⋯⋯じゃないのか? なんで奥と手前ではここまで絵の世界観が違う? もしもこれが本当なら」


 ここでも原初アメリアの言葉が重なる。

 神になった事でシャルや子供達が殺されるも言う起こってしまう事態。

 その言葉とこの壁画が重なる。


 「アメリア?」


 神は異物を許さない。


 神を越えると言う覚悟は、生半可なモノではないのだろう。


 「ん? なんか石が落ちてるよ」


 シャルが指を向けたので、私もそっちの方向を見る。

 確かに大量の石が転がっていた。

 拾い上げて確認すると、雫型の魔石だった。


 「なにこれ?」


 「⋯⋯邪神の涙だったりしてね」


 「え」


 「濃密なマナが涙と合わさって、外界に放出されると、マナにより涙は急速に固まって魔石になる⋯⋯一応理論的には通る」


 そう考えると、この殴った後のような痕跡は、邪神が怒っていたから、か。

 神に大切が殺されて、泣いていたのか?


 原初アメリアは邪神を仲間にしろと言っていた。

 これに関係があるかもしれない。


 でも、ここには邪神が封印されているような気配は無い。

 奥の場所と手前の場所の違いなどは分からない⋯⋯昔の人の考えなんて分からないさ。


 「後はルルーシュ達に任せるか」


 「じゃあ、帰る?」


 「そうだね」


 私の憶測だが、昔の海はもっと浅かったのだと思う。

 遺跡に入る前の生活感のある崩れた家や柵がその証拠になると思う。

 海が広がった理由は分からないが、きっと神にも関係するのだろう。


 「神が世界を創ったのは間違いないだろうけど、恵を与えたから崇められているのではなく、祈られたから恵を与えたのか?」


 まだ情報不足か。

 ん〜先はまだまだ長いな。


 翌日、街は忙しそうに人々が動き回っていた。

 聞いてみると、水の神を讃える祭りが今日らしい。

 偶然にも、そんなイベントと重なったので楽しむ事にした。


 「洪水にならないのは水の神のお陰、ねぇ。それらしい気配は感じないけど」


 「アメリア、あまり言うべき言葉じゃないよ?」


 シャルに窘められた。

 取り敢えず、午前は海で遊んで、昼からは祭りを楽しむ準備をして、夕方から祭りを全力で楽しむ事に決めた。

 ルアがソワソワしている。


 「悪魔でも祭り事は楽しみ?」


 「そう! ⋯⋯じゃないわい。た、ただ。魔界ではそう言うのには参加出来なかったからな、ちょっと目新しいだけだ」


 「素直になったら金貨2枚のお小遣いをあげる」


 「めっちゃ楽しみ!」


 「それじゃあ、六千年後にあげるね」


 「ふざけるな!」


 「冗談だよ」


 金貨2枚を渡す。

 これだけあれば、皆で豪遊しても問題ないだろ。

 ⋯⋯問題ないよね?


 「もう、あまり意地悪しちゃダメだよ」


 「少しからかっただけだよ」


 シャルに怒られてしまった。

 今日もシャルの水着が見られる、私の心はそれで一杯だった。


 水の神を讃える日は遊泳禁止らしいので、泣く泣く帰る羽目になったけどね!

 水着がっ!


 私とシャルは祭りの準備手伝いと塩の購入を行った。

 シャルはエルフだとバレないようにしながら頑張り、子供達に好かれていた。

 流石は母性強めのシャルだ。


 「旅客さん方、ありがとうね。今日はいつも以上に早く始められそうだ」


 「いえいえ」


 この中で一番力持ちなのが私だと言う事に街人達は驚いていた。

 マナで強化しなくても、一トンくらいの重さなら楽々持てる。


 夕方から祭りが始まった。

 人の通りが多いので、子供達の管理が大変だ。

 グループ分けして回っている。


 「アメリア先生、あれやりたい!」


 「金魚すくい? 良いよ」


 一匹も取れずに終わり、それを五回ほど繰り返して涙目になった。


 「も、もっかいやれば取れるよ!」


 その子に触れながら私は言う。私の班の他の子達もその子を応援している。

 もう一回やる。


 これはズルじゃないぞ!


 私は自分のマナを子供に流して網を強化する。これで破れない。

 ⋯⋯結果、全部取れてしまった。


 やりすぎた? 関係ないね。この満面な笑みが見られたら。

 でも、持ち帰れない。シャルに怒られる。どうしよう。


 「飼えないし、返すね。楽しかった!」


 全部返すのか⋯⋯お金を渡しただけじゃん!

 店主が良いのかと言う目線を送って来る。後、不正をしたと言う疑いの目を。


 「楽しかった!」

 「すごいね全部捕まえたよ!」

 「モンスターハンターだー! わーはっはっは!」


 まぁ、あの子達が楽しいなら良いか。

 私は店主に心ばかりのお詫びとして、返金を断らなかった。

 だけど、すぐに水の中のマナ濃度を調べられて、不正が発覚して、金貨三枚を支払う事となってしまった。


 仕方ないんだ。

 子供達の涙なんて、見たくなかったんだ。

 笑顔だから良いじゃんか。

 もっと優しくあれよ。


 一時間各々、色んな屋台で楽しんだ後、合流した。

 盆踊りが始まるらしい。


 「シャルさん、一緒に踊ろう! 教えてあげる!」


 「え、えっと」


 この街の子供に手を引かれる。

 すっかり人気者だ。見ろ見ろ、私達の家族が嫉妬の目を向けているぞ。

 家族の子供を取るか、街の子供を取るか、究極の選択だな。


 「行ってこい」


 私はシャルの背中を教えた。


 「覚えたら皆にも教えてね」


 「うん。分かった」


 シャルが少し寂しそうな顔をした気がするが、気のせいだろう。


 「アメリアさん。昼の間に自分達は覚えたんですよ?」


 「ユリユリ⋯⋯」


 そうだったのか。

 あーこれは良くない事した。

 子供達はシャルと踊りたいし、教えたかったのかもしれない。

 これは私のミスだな。


 そう思ったが、ルアの機転で皆楽しく踊り出した。

 冒険者組に教えながら。アイツらも手伝いに参加してからな。


 「ナイスルア、今だけはお前のドヤ顔も許してやるよ」


 そう小さく呟く。

 ユリユリが私の手を引いて、中央に向かって行く。

 中央には祭り専用の水の神の像と噴水が設置してある。神ってより女神?


 「教えてあげるよ」


 「ありがとさん」


 学生組のユリユリに盆踊りを教わりながら会話をする。


 「実はさ」


 「うん」


 「ケンケンの事が、少しだけ気になってて⋯⋯あ、アメリアさんは、お、応援してくれる??」


 孤児院出身の子達は周りからは浮いて、白い目を向けられる。

 だから、出身内で結婚するような話は沢山ある。

 なので、別段不思議では無い。


 「あ、アメリアさん?」


 「ごめん。思考停止してた。当たり前じゃん。応援してる」


 嬉しすぎて思考停止してしまった。

 そもそも、ケンケンは時々ユリユリを見ていたりして、確実に意識している。

 本人は気づかないモノなのかね?


 両思いな事に私は嬉しく思うよ。


 ⋯⋯異性に恋する、当たり前の事だよな。

 私の価値観が間違ってるんだ。


 休憩がてら、シャルの様子を見ていると、子供達と踊っていた。

 孤児院、だから家族の子供達とだ。


 そんな時だった、シャルが不注意で後ろに来た男の人とぶつかってしまったのは。

 私は嫌な感覚に全身が包まれた。


 「あ、ごめんなさい」


 頭を下げるシャル⋯⋯その頭には、ぶつかった拍子で取れたフードを被ってない。

 つまり、素顔が見える状態なのだ。


 「あ、いや。こちら⋯⋯こ、そ? え、エルフだああああ!」


 「え、あ!」


 シャルを指刺して男が叫ぶ。

 そこから波紋のように広がるシャルへのヘイト。


 「なんで神聖な時に亜人が?」

 「ねぇ、いつから亜人が侵入していたの!」


 「最悪だな」

 「神に失礼だわ」


 「汚ぇぞ!」

 「いやあああ! ママ、怖いいいい!」


 あちこちから叫び声が上がる。


 「なんでそう言うんだよ! 種族が違うだけだろ! 見た目だって殆ど人間と変わらないだろ! なんでそんなすぐに、なんで⋯⋯」


 「アメリア⋯⋯」


 袖を引っ張ってくる。


 「ごめんね、自分のせいで、こうなっちゃって」


 私は顔を横に振った。


 「シャルのせいじゃないよ」


 「いーや! そこの亜人が悪い! 祭りを汚しやがって! お前に良心は無いのか!」


 「⋯⋯お前」


 「アメリア! へ、平気だから」


 「シャル」


 クソ。

 私に出来る事は⋯⋯何も無いのか。


 シャルを隠しながら私達は宿に戻った。

 シャルを心配そうにする子供達に彼女は、引き攣った笑みを浮かべるのが、精一杯の様子だった。


 エルフだから、亜人だから、たったそれだけの理由であそこまで変わるモノなのか。

 悪い人ばかりでは無い事は私達は知っている⋯⋯でも、ここは酷すぎるだろ。

 準備の手伝いだってしていたし、街人達とも友好的だったのに、あそこまで豹変するのか?


 「⋯⋯シャル」


 誰よりも他者を大切に扱う性格のシャルがとても凹んでいる。

 今日はもう、寝るか。


 ベットにシャルを寝かせる。


 「ナキミル⋯⋯子供達は?」


 「皆シャルさんの事を心配していたぞ。一応フォローはしたが寝かせるのが大変だった」


 「そっか。ありがと、おつかれ。ナキミル達も寝ていいぞ。付き合わせて悪いな」


 「良いさ。俺達も、皆が好きだからな」


 「そっか」


 マゾは子供達の傍で見守ってくれているらしい。コモノは周囲の警戒がてら、外に出ていると。

 私も外の空気を吸いに向かう。


 「祭りは続行か」


 「アメリアは寝ないのか?」


 「ルアか。ちょっと腹の虫が動いててね」


 「同様じゃ」


 ルアは悪魔で感情のコントロールが上手い。

 だけど、ルアは家族を大切にしている。

 特に自分と言う存在を受け入れてくれたシャルに対しては、子供達に向ける愛よりも一段階高い。だからムカついている事だろう。

 ちなみに私は子供達よりも数段階下だ。


 私が1なら子供達は100、シャルは150だ。


 「エルフってだけで、あそこまで態度が変わるんだな」


 「ある程度予測していた事じゃろ。だから素顔がバレないようにしたんじゃから」


 「だけどさ、そうだけどさ。納得出来ねぇよ。人間とエルフ、あんまり変わらないだろ」


 「そうじゃな。妾が知る限り、人種で人間が一番寿命が短く、繁殖能力に長けている。それだけ数が多い。社会性と言うべきか集団意識と言うべきか、人間は自分達とは違う何かをとても嫌う。マナの総量、容姿の違い、それだけでも受け入れ難いのじゃろ。妾には分からん感覚じゃ」


 「それは私もだよ」


 世の中には亜人差別が無い国もあるのだろう。

 そこに行くのも⋯⋯悪くないのかもしれない。


 「ルア、一応子供なんだし、寝てるフリはしておけよ。マゾは勘が鋭いからな」


 「了解じゃ」


 私も寝るか。


 数時間後、爆音により私は目覚めた。


 外に出ると、炎が街から上がっていた。


 「なんだ!」


 「アメリア先生!」


 「⋯⋯皆」


 子供達も起きて、私を心配に見てくる。

 一人が言う。シャルの部屋の子達だ。


 「シャル先生が居ない!」


 「まさかっ! ナキミル、コモノ、マゾ、頼んぞ!」


 私は駆け出した。

 ルアにも任せたのハンドサインを送る。


 ◆◆


 「なんで、いきなり火事が」


 いち早く異変を感じたシャルは街に向かっていた。


 「気配が!」


 マナを感知して、火が上がっている家屋に注目した。


 「急がないと。ウォーターストーム!」


 水の竜巻が火を吹き飛ばして、シャルは中にいる子供に手を伸ばす。

 火傷が目立つが、命はある様子だった。


 「エルフの、お姉ちゃん」


 「お願い。怖がらないで、手を伸ばして」


 マナでの身体強化を最近覚えて来ているが、それで瓦礫を退かせる程の力は出さない。

 子供は必死に手を伸ばした。


 「行くよ!」


 シャルは子供を引っ張り出して、抱き支えた。


 「うぅ、怖かったよおおお!」


 「うん。そうだね。もう大丈夫だよ」


 「助けられなくてごめんなさい! エルフのお姉ちゃんんんん!」


 「⋯⋯ッ! うん。ありがとうね」


 子供を持ち運んで救助活動をしている人の所に向かう。

 シャルは知っている。自分がエルフでも優しくしてくれる人達を。

 市場の人やアメリア達を。


 「あの、この子を安全な所に」


 「お前は⋯⋯ッ!」


 「他に人が居そうな場所は何処ですか! お手伝いします!」


 「この混乱に乗じて、人間を襲うつもりか!」


 「なんでそうなるの! この子の親だって危険かもしれない! 周囲の火事が目に入らないの!」


 全てを鎮火する事は出来ない。

 人が居る場所だけを絞って火を消す、シャルはそう考えていた。

 だが、エルフに向けられる目はシャルが想像するよりも酷い。


 「亜人の言葉なんて信用出来るか! ここは俺達の街だ! 俺達でやる! 亜人はどっか行け!」


 周囲では弱い水魔術で火を沈めようとしている人達が目に入る。

 元凶と戦っているような音も聞こえ、主力はそこに割かれているのは容易に想像出来た。


 シャルは唇を噛み締めた。

 もしもここにアメリアが居たら、完璧に解決してくれたと。


 (でも、今ここに居るのは⋯⋯)


 シャルである。

 目を見開いて、シャルは軽く男の腹を殴った。

 怒りや悲しみをぶつけているようには感じない。


 「ふざけないでください! 今、この災害に種族なんて関係あるんですか! あなた方が何十集まって使う魔術を自分は一人で出来ます! 効率を考えてください!」


 「だ、だが」


 「だがじゃないです! 守れる命があるなら守るし、救える命があるなら救いたい! エルフだから、この街の人間だから、そんなクソ程にもくだらないプライドで失われる命をちゃんと見ているのか! 冷静に判断しろ!」


 「⋯⋯グッ、⋯⋯エルフの嬢ちゃん」


 「シャルです。名前なんてどうでも良いですけどね。早く、教えてください!」


 「シャルの嬢ちゃん、付いてきてくれ」


 不幸中の幸いと言うべきか、祭りのお陰で殆どが外に出ていた。

 家の中に入っていたのは、子を持つ家族くらいである。

 なので、火を消す場所が限られており、すぐに消化は出来た。


 「す、すげぇ」

 「あれがエルフの魔術か」


 「すみませんが、人命救助は任せます! 元凶の元に向かいます!」


 「ちょ、シャル⋯⋯速い」


 シャルは戦闘の音がする場所に向かった。

 そこでは炎を纏ったドラゴンと戦っている兵士が居た。


 「アレは⋯⋯バーニングドラゴン?」


 バーニングドラゴンが口に炎を溜め出す。


 「ハイドロカノン!」


 水を噴射する魔術で相手の攻撃をキャセルさせる。


 「お前はエルフの⋯⋯」


 「文句は後です。今はアレの足止めをします。避難の準備を」


 シャルが魔術の準備をしていると、兵士の一人がシャルを蹴飛ばした。


 「え?」


 「あ、亜人だ。全部お前のせいだ! 神聖な神を讃える祭りに亜人風情のお前が参加したから、お怒りなんだ! 全部お前が悪いんだ! その命を持って償え!」


 そつ叫び声、兵士が去っていく。

 シャルは何も言わなかった。他の兵士もシャルを囮に去って行く。


 (やるしかない。さっき見た感じ、自分よりも強い水魔術を使える人は居ない)


 シャルが構える。


 「ここには旅行に来ている。皆居る。家族を守るのが、先生の役目だ。⋯⋯来い、バーニングドラゴン!」


 『グカアアアアアア!』


 「アクアリング」


 水の円を作り出して放つ魔術をバーニングドラゴンに放つ。

 バーニングドラゴンが体に纏っている炎の熱はとても高く、その水を蒸発させてしまった。


 「そんなっ!」


 反撃と言うにはあまりのでかい一撃のブレスをシャルにぶつける。


 「アクアシールド!」


 水の壁を展開して盾にするが、あっさり貫通してシャルを焼く。

 マナで自分の身を包み込んで、ある程度は防ぐ。

 しかし、突き出してた両手が酷く焼け焦げて、黒く染まっていた。


 「まだ、動けるよ! アクアランス!」


 水の槍を放つが、意味が無い。

 相手の尻尾を振る攻撃がシャルを襲う。

 戦闘慣れをしてないシャルは避ける事が出来ずに、諸に受けてしまう。


 身を焦がす炎を纏った尻尾の一撃は強烈の一言では収まらない。

 骨が折れ、肉が溶ける。


 吹き飛び、大量の血反吐を吐く。

 それでもシャルは立ち上がる。


 『守れる命があるなら守る。救える命があるなら救う』


 それはシャルの信念。

 例え、そこに自分の命が含まれてなくとも、寧ろ自分の命一つで叶えられると言うなら、シャルは喜んで差し出す。


 「アイスバレット」


 氷の弾丸を放つ。

 少しだけ近づいたが、それでもバーニングドラゴンには届かない。


 「うぐっ」


 響く痛みに立てなくなる。


 (視界が、霞む⋯⋯でも、まだ敵はいる。まだ、戦える)


 術式を構築する。

 少し時間は掛かるが、強い攻撃をしないと相手には届かない。


 『グカアアアアアア!!』


 ブレスを吐き出すバーニングドラゴン。

 それが当たれがシャルの命は無いだろう。


 「⋯⋯出来た。アイスフィールド!」


 絶対零度の冷気と灼熱の炎が衝突し、周囲に衝撃波を撒き散らす。

 シャルの使える氷魔術の全力である。


 「行っけええええええ!」


 亜人と蔑まれようとも、シャルは助けるのだ。

 ⋯⋯だが、現実は簡単ではない。

 いくら強い魔術が使えると言えど、相手は化け物である。


 バーニングドラゴンの実力は一体で街を崩壊させる程の強さ。

 それは正に、生きる災害だ。


 炎がシャルに迫る。

 目の前に感じる死にシャルは安心感と後悔を感じていた。


 「ごめん、アメリア」


 「謝んなよ!」


 炎が落雷により霧散する。

 シャルがバッと顔を上げて、安堵する。

 その瞳からは信頼が見て取れた。


 「シャル⋯⋯」


 服や肌が黒く焦げ、骨は折れ、地面は血塗られている。


 それだけで、アメリアは怒りが頂点を超えた。


 アメリアから放たれるマナの威圧感は生きる災害のバーニングドラゴンを怯ませる。

 今のアメリアは一言で、化け物だ。


 本来ドラゴンのマナ量に一人で達する事は簡単では無い。

 秀でた才能と血反吐を吐く様な努力により、可能となる。

 しかも、上位龍であるバーニングドラゴンでは尚更だ。

 だと言うのに、アメリアから感じる力はバーニングドラゴンを凌駕する。


 「シャル、まだ頭は動くか?」


 「うん」


 「私の得意魔術はアイツの耐性だ。だから、シャルの魔術を使う」


 「でも、もうマナが」


 「マナは私がある」


 シャルを背中から抱き締める。


 「帰ったらマゾに回復して貰うぞ」


 シャルにマナを流して、一緒に術式を構築する。

 バーニングドラゴンが本能的に危険を感じたのか、攻撃をする。


 「それは許容出来んのじゃ」


 本来の姿、妖艶な女性となったルアがその攻撃を妨害する。

 術式の構築が終わる。


 「「沈め、始まりの海ビギニングオーシャン!!」」


 巨大な術式から放たれる水量は小さな村を沈める程だ。

 人工的な洪水のようだった。



 それから丸一日が経過した。

 シャルが目覚める。


 「起きたか」


 「うん。おはよう」


 そこには領主や兵士達が居た。


 「シャル殿、この度の協力、誠に感謝致します。それに、先日の非礼、誠に申し訳なかった!」


 領主は貴族であり、そんな人に謝られたシャルはオドオドしていた。

 アメリア、ルアは全く許す気は無いらしい。


 「別に大丈夫ですよ。し、死者はいましたか?」


 「あぁ、数人」


 「そ、うですか」


 シャルが悲しがな顔をするが、領主の顔には悲しさはなかった。


 「そちらのシスターである、マゾさんが居てくれなかったらどうなっていた事か」


 「え?」


 「へへい。アタシがばったり蘇生しましたよ。アメリアのマナを使ってね」


 「良い勉強になったよ」


 つまり、死者はゼロである。

 蘇生魔術には制限がある。その制限以内に収まっていたのは、シャルの活躍があるからだ。


 「蹴って、悪かった」


 「あ、それは許さない」


 「え!」


 「冗談です。別に気にしてませんよ」


 シャルの聖人っぷりに呆れるアメリア。


 時は流れて街中は復興活動に入った。

 アメリア達は手伝う気がないらしい。


 シャルは星を見に行った。

 アメリアは反省していた。


 「はぁ。もっと早く駆けつけていたら、あそこまでの火傷を負わなくて済んだのに」


 「そうじゃな。でも、それだけシャルが頑張った証拠じゃ。マゾの魔術で跡は残らん事が幸いじゃな」


 「ああ、本当に」


 不甲斐なさを感じるアメリア。


 「アメリア、お主の気持ちを伝えなくても良いのか?」


 「はて? なんのことやら」


 「ハザールとか言う女と会話していたの、妾は知っているからの?」


 「⋯⋯」


 アメリアは観念したように話し出す。星空を見て。


 「重荷に成りたくないんだよ。あっちにその気がなくても、シャルだから深く考えてしまう。そうなると、彼女の心に傷を付けてしまう結果に必ずなる。そんなのは許されない。許したくない。嫌なんだ」


 「一生、その心を打ち明けずに秘めておくつもりか?」


 「うん」


 「辛くないのか?」


 「辛いけどさ、満足しているよ」


 ルアは深いため息を吐く。


 「アマリアがそんな悶々を抱えている状態の方が、シャルは傷つくぞ。何故それが分からん。互いにそっちの想いには鈍感だが、反対に互いに敏感だ。シャルがなにかに悩んでいたら、お主はすぐに分かるじゃろ」


 「ああ! ⋯⋯あ」


 そう、アメリアはシャルが悩みを抱えていたらすぐに気がつく。

 その自信がある。

 それはシャルにも言える事である。

 シャルもアメリアが悩んでいたらすぐに気づく。


 「だから、言ってやった方が良いぞ」


 「でも」


 「⋯⋯そこまでじれてるなら、妾がシャルを貰うぞ。妾の全力なら問題ない。主は失恋じゃな」


 「絶対に洗脳使うだろ。殺すぞ」


 「それでも妾は引かんぞ。それが嫌なら、せめて誠な気持ちは伝えて来い。妾も見ていて、辛いからの」


 「⋯⋯はぁ。確かに。冒険者もそろそろ辞めようと思っていた頃だし、区切りは良いかもね。シャルの所に行ってくる」


 「あぁ、行ってらっしゃい」


 ルアがどこか、悲しげな表情でアメリアを送り届けた。


 (なんじゃろうな。この胸に突き刺さる感情は⋯⋯妾は淫魔族なのに、こんな感情、ある訳ないのに)


 なんでこんなにも、辛いのだろう。

 ルアにはそれが分からなかった。


 シャルが星で埋め尽くされた夜空とそれが反射する海が良く見える場所に居た。


 「アメリア」


 「体冷えるぞ」


 着ていたローブをシャルに渡して、夜風を防ぐ。


 「ありがと。それだとアメリアが冷えるでしょ。アメリアもおいでよ」


 「でも、狭いし」


 「良いから」


 シャルが強引に引っ張って、一緒のローブに包まる。

 当然、距離は近くなる。


 アメリアがドキドキして、頭が真っ白に中、シャルはポツリと喋り出す。


 「ありがとうね、助けてくれて。本当は怖かった。あぁ、ここで死ぬんだって。⋯⋯でも、反対にさ。子供達もアメリアが居たら大丈夫って安心したんだ」


 「シャル⋯⋯」


 「だからって早死したい訳じゃないよ? ただ、安心しただけ。家族は頼もしいって。⋯⋯でも、やっぱり怖いかな」


 「誰だって死ぬのは怖いさ」


 「ううん。それもそうだけどさ。アメリアと会えなくなるのが、本当に怖いって思ったんだ」


 「え?」


 「本当は言うつもり無かった。答えを既に聞いてしまったから。だからズルい気がして、貴女の邪魔に成りたくなくて、言うつもりはなかったんだ。この気持ちはずっと隠そうと思った。⋯⋯でも、やっぱり無理だよ。もう、限界なんだよ」


 涙をポツリと垂らす。


 「⋯⋯シャル」


 「ダメなのは分かっている。間違っているのは分かっている。でも、アメリアが居なくなるって考えたり、アメリアに会えなくなるって考えたり思ったりする度に、後悔でいっぱいになる。この気持ちを知っていて欲しいって」


 「シャル、⋯⋯キツイなら言わなくても良いよ」


 「ううん。聞いて。アメリアがハザールさんと会話していた所、聞いちゃったんだ」


 (まじかよ)


 「嬉しかった。本当に、とっても嬉しかった」


 「えっ」


 「自分も⋯⋯私もアメリアの事が、恋愛的な意味で好きだから」


 「⋯⋯ッ!」


 「だからアメリアと会えなくなる時に凄く後悔の気持ちがいっぱいになる。ハザールさんとの会話を聞いた後から、この好きって気持ちが膨れ上がって、⋯⋯何度も言おうとした。私も好きだよって。その度にアメリアの目標の邪魔になるかもしれないと思って、言葉を詰まらせた。邪魔だけはしたくなかった」


 シャルが涙を流す。


 「でも、もう無理だよ。死ぬって認識した時にさ、アメリアの事が頭に出て来たんだ。君なら孤児院も安泰って言う安心と、アメリアの気持ちに応えられない後悔と、私の想いを伝えられなかった想い。それが出て来て、限界を超えちゃった。ごめん、アメリア」


 「⋯⋯謝んなよ。じゃあさ、私が告白したら、受け入れてくれる?」


 「なんで、わざわざ分かる答えを聞くの?」


 二人が見つめ合う。

 その距離はとても近かった。

 物理的にも、精神的にも。


 同棲愛なんて本当は良くない。

 間違っている。

 それは二人とも理解している。しかもシャルはエルフで亜人だ。

 異性でも、異種族婚は認められては無い。


 そんな世界には認められない二人の恋。

 でも、互いに愛しているのは本当なのだろう。


 『真実の愛』


 確かに、二人にはそれがあった。


 「シャル、好きだ。家族としても⋯⋯」


 一緒に孤児院で育ち、守っている。

 孤児院で暮らす人達は永遠に皆家族だ。


 「⋯⋯姉妹としても⋯⋯」


 同タイミングに孤児院に置かれている。

 家族なら、姉妹と言っても過言では無い。

 そのくらい、生活を共にしている。


 「⋯⋯何よりも、シャル本人が。エルフとか種族は関係ない。性別も、私は、私はシャルが心から好きだ。愛してる」


 「嬉しい。私も、愛してる。ずっと隠してて、ごめんね」


 星が流れる。

 流星群が海に反射して円を作り出す。

 その円の中心には、アメリアとシャルが居る。


 誰にも認められなくても、許されなくても。

 国が法が許さなくても、周りに嫌われても。


 例えそれが、最強の神であっても、二人の愛は引き裂けない。


 そんな二人は静かに、唇を合わせた。


 覚悟を表すかのように。


 静かに、静粛な時が流れる。

 流星群に照らされながら。


 翌日の昼、街の人達にお礼を言われながら、転移魔術で孤児院に帰還した。

 アメリアとシャルが手を繋ぎ、子供達とも繋ぐ。

 そして、一斉に最初の一歩を踏み出す。


 言おう、我が家に。

 家族の育ち守る空間に。

 当たり前の言葉を。


 「せーの」


 『ただいま!』

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最強の孤児院魔術士は同性エルフに恋してる〜同棲愛が認められてない世界で神を超越するかも?〜 ネリムZ @NerimuZ

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