~summer~

遥と水着と生着替え(釣りタイトル)

<これまでのあらすじ>

父親の再婚により、悠斗ゆうとにははるかという血の繋がらない妹ができた。

遥は悠斗にすぐに懐き、あらゆる手を使い彼を落とそうとするもかわされる。

悠斗は悠斗で、兄らしく振舞っているはずが意図せず遥ルートへ突き進むのであった!



 季節は夏となった。

 あの弁当事件以来、幼馴染のあいや悪友の康介こうすけ以外にもあらぬ疑いを掛けられるようになってしまった。

 何度違うと言っても信じてもらえない。

 詰んだな。

 だがそのうち「まあ別にいいか」となり、俺は考えるのをやめた。


「遥、今帰ったぞ。約束のあおくまアイス――」


 夏休みももうすぐとなったある日の帰宅後。

 コンビニ袋を手にした俺はリビングに入った。

 ここまでは至って通常どおりの流れだ。


「あ、兄さんちょうどいいところに。どうでしょう?」

「お前なんて格好してるんだ!」

「え、もしかして知らないんですか?」


 すらっと伸びた手足に細い腰。

 遥にはどうやら成長の余地がありそうだ。

 そうではなく、彼女はあろうことかスクール水着姿で俺を出迎えたのだ。


「家の中でその格好はどうなんだと言ってるんだよ」

「明日からプールの授業なので、一番に見て欲しかったんです……。ただそれだけなのに」


 とか何とかいいながら、きらきらー、しゃらららー。

 そんな効果音の出そうなモデルポーズを取りだした。

 この妹、近頃の暑さにやられたのかノリノリである。


「サイズはちょうどいいんじゃないか?」

「それだけですか?」

「ああ、名前が旧姓になってるぞ。あとで直しておこう」

「そのほかには?」


 遥は腕組みをしたままと熱視線を浴びせてきた。

 恒例の遥クイズの時間に違いない。

 ここを間違えると、また厄介なことになるのは目に見えている。

 じっくりと考えて答えを導きださねば。


「本当察しの悪い兄さんですね。ヒントは『す』です」

「スリムだね、特に胸が」

「失礼な、これから大きくなりますよ。ヒントは『すご』、張り切ってどうぞ」

「『すご』?」

「『すご』……!」


「すごく似合ってるよ」


 どうやら正解のようだ。

 遥がふへへと言いながら、階段を駆け上がっていったから間違いない。

 そういえばアイスを持ったままなのをすっかり忘れていた。


「おい遥、もう着替えたか?」

「兄さん、何か用事ですか?」

「お前あおくま食べたいって――」


 言いながら部屋のドアを開けた。

 そこにはバスタオル一枚姿の遥が立っているではないか。


「そうでした。アイスをください」

「着替えたって言ってたじゃないか……!」

「返事はまだしてませんけどね。でも私、兄さんになら見られてもいいと思っていますよ」


 遥はずいぃと近づいてくる。


「な、何言って……。おい遥やめろ、そんな格好で抱きついてくるな!」

「何がいけないんですか?」


 目が据わり始めた遥はいつも以上に積極的だ。

 これはいけない。慌てて目を逸らし部屋の壁の方を見つめる。

 次の瞬間、カシャリと何かの音が鳴った。


「ん、なんだ今の……?」

「あの、ちゃんとよく見てくださいね」


 遥は少しだけ離れタオルから手を放した。


「あ、待てって!」


 瞬間、タオルがはらりと床に落ちる。


「肩紐出てたと思うんですけど。さて、兄さんは何を想像してたんでしょうね?」


 キャミソール姿の遥はくすくすと笑う。

 体を覆っていたバスタオルはただの罠。

 つまり俺はめられたのだ。


「ま、まあそんなことだろうと思った!」

「そうですね、お見通しできてえらいですね名探偵さん。でも、これは頂きましたから」


 遥がにたにたとしてスマホの画面を差し出した。

 そこには俺の慌てふためく姿が映っているではないか。

 どう考えても、さっきのカシャリの時だとしか思えない。


「……それをどうするつもりだ?」

「もちろん待ち受けにします」

「させるか!」

「キャー」


 相変わらずの大根役者だ。それはさておき争奪戦が開始された。

 俺は遥をベッドに押し倒し証拠物件を押収しにかかる。

 だが抵抗にあうのはもはやお約束。

 必定ひつじょうことわり、世の定め。

 俺の腕は遥の爪によりあえなく蜂の巣となるのであった。


「それ、誰にも見せるなよ」

「当たり前じゃないですか」


 遥はFPSでヘッドショットを決めた直後くらいにとしている。

 まあ、いいか。そこまで笑ってくれるならよしとしよう。

 俺はずっと持っていた袋を差し出す。


「兄さん、これ半分こにしましょう」

「ああ、だったら二つ買えばよかったな」

「一つだから意味があるんですよ。はい、あーん」

「もうそういうのはいいって……お、うまい」


 結局リビングでテレビを見ながら、終始上機嫌な遥とアイスを分け合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妹に気持ちを伝えたら抱きついてきた ひなみ @hinami_yut

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ