恋人たちの百の偽り

シンカー・ワン

優しい嘘

「別れよう」

 あなたが言った。


「おまえの他に好きな女が出来た。おまえと違って顔もいいしスタイルも抜群だ」

 新しい人を褒め称え、私をなじるあなた。


「おまけにすごい金持ちのお嬢様だ。俺はあの女と一緒になるから、おまえとはサヨナラだ」

 でも、おかしいね。

 私にひどい言葉を投げかける、あなたの顔は今にも泣き出しそうだよ。



 知っています。

 そのひとと結婚しなければ、あなたの実家おうちが危ないことを。


 老舗の大店。そんな家も何もかも捨てて、私と生きていくと言ってくれたあなた。

 でも優しいあなたには、傾いていくお店を、そこで働く多くの人を見捨てるなんて出来るはずがない。


 あなたの家を、働く人たちを守るため、あなたはその人と一緒になることを選ぶ。


 私を、私との生活を捨てて。



 でも、いいの。

 そんなあなただから、私は好きになった。すべてをあげた。

 あなたと暮らした二年の日々は、私には掛け替えの無いたからもの。


 心を殺して百の嘘をつく、そんなあなたに私も千の嘘をつこう。



「わかりました、別れましょう」

 笑顔を浮かべて言葉を返す。

 何もかも受け入れて何もかも承知していると、万の想いに代えて。



 あなたの瞳が涙をこぼす前に、私の涙が流れ出す前に、互いの嘘を通して別れましょう。


 背を向けて歩き出す、これでもう私たちは終わった恋人たち。



 でも、でもね。

 あなたが言って、私も言った「愛してる」って言葉だけは、本当だったね。


 真実ほんとうだったよね。

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