特訓2

キツい…キツすぎる!!

30分間ずっとこの調子だ。体全部におもりを付けられたみたいに重い。

流石はカタマリの血が入った混血。身体能力が人間離れしてやがる。

 翠花ツィファが投げるボールをただひたすら避け続ければいいだけと舐めていた…

玉の速さが尋常じゃない。目で追うのもやっとでそれを避けるのは俺にとっては至難の業だった。おかげで全身筋肉痛と痣だらけだ。

 七星はというと何度か当たってはいるものの避けることはそう難しいことではないようだった。


「それじゃ、今から休憩にしよう。」


3人で木陰に腰掛ける。

「あぁ〜疲れた〜!久しぶりにちゃんと体動かした気がする!」

「お前…あんな動いたあとに…よく笑えるよな。」

「だって体動かすのはもともと好きだし、何より陽風みたいに弱っちくないもんね〜。」

「七星…お前なぁ。」


 「2人って、なんだか似てる。」

疑問そうに見つめながら翠花が言う。

「似てるって…どこが?」

「なんて言ったら分かんないけど…うーん、何となくの雰囲気というかオーラ…というか死角から近づかれるとどっちがどっちか分からないの。」

「カタマリって、人のオーラみたいなのを識別できるのか?」

「うん…翠花とか桂龍みたいなカタマリって呼んでいいのか分からないのもいるけど…翠花達って人間の思いによって生み出されたものだから…人間のオーラにとっても敏感なの。例えば…顔が無かったりするヒトはそれで人間がどこにいるか探すみたい。」

「へぇ…初耳だったわ。」

長年祓い師をしている七星にも知らないことはあったのか。


「話を戻すが俺達のオーラが似てる事って何か悪い事だったりするのか?」

「基本的にはないと思う…翠花とか桂龍がちょっと不便なだけで…敵対するカタマリにはすごく有利だと思う…。」

「やっぱりコンビ組んで正解だったみたいね!」

「やっぱりってなんだよ、そんな事1回も言ったことないじゃないかよ。」

「最初に路地裏で会った時にビビッときたのよ。この人と一緒に仕事すればきっといい事があるってね!」

「ほんとかよ…。」

「ほんとよ!嘘じゃないわ!私が陽風に嘘ついたことなんてないじゃない!」

「生まれ、隠してたじゃないかよそれはカウントされないのか?」

「何よ〜!それとこれとは話が別じゃない!」


いがみ合っていると突然、翠花が笑った。

「ははっ、やっぱり2人って似た者同士だね。」

「そんな事ない!」「そんな事ないわよ!」

同時に声を上げる。

「ほら、そういうところ。」

何だかお互いに馬鹿馬鹿しくなって吹き出した。

3人で笑い合った。


しばらく笑っていると翠花が立ち上がって言った。

「それじゃあ2人とも元気になったみたいだし…また始めよう。」


その言葉に呼応するかのように七星が跳ねるように立ち上がる。

「えぇ!すっかり疲れも取れたし何だか始めよりも体が軽い感じがするわ!」


最後に重い腰を上げて立ち上がる。

「まじかよ、さっきので疲れ取れるって…。」


翠花がボールを手に持ち、俺と七星は身構える。

「七星も陽風も特訓を始める前より…ずっとずっと強くなってると思うよ。さっきはキツかったと思う…でも今からはそんな事驚く位…感じないと思うから。」

「なんでそんな事言えるんだよ。」

冗談だと思い笑いながら問うてみた。

翠花は1言だけ言った。

「玉に当たれば当たる程…強く、速くなる。」


 その言葉と同時に豪速球が飛んできた。後ろにそびえていた木がまるで1本の矢を折るかのようにいとも簡単に折れてしまった。

さっきまでのとは比べものにならないくらいの速さだった。これに当たろうものなら骨折だけでは済まないだろう。

ボールを向こうに返した瞬間にボールがまた飛んでくる。一部の隙もない。

死ぬ気で逃げているとボールの嵐は止んだ。


「今のは本気を出してた…でも…2人とも避けられてるね。」

「!本当だ…なんで。」

「ボールに当たれば当たる程強く、速くなるってこういう事?」

七星が問う。

翠花は頷く。

「そう…このボールは…特別なボールで本来なら普通のボールで2ヶ月、遅いと1年位でやるんだけど…今は時間がないから…桂龍にまじないをかけてもらった。もう2人は完全に翠花の玉を避けられる位には成長したよ…。」


まじか…俺にもそんな力が宿るなんて。

漫画の世界みたいだ…。


「後は…翠花にボールを当てるだけだね。でも…もう日が暮れそうだから早く余暉達の所に戻ろう。」


 俺達は再び来た道を下り、余暉の店へと戻り余暉お手製の絶品中華料理を桂龍達と沢山頬張った。





 日が落ち街灯と住宅の明かりだけが街を照らす。余暉の店の対角線にあるビルの屋上のフェンスに何者かが立っている。風に揺れる黒髪は猫っ毛で怪しげな黄色い瞳が暗闇の中に光る。それらを掻き消すかのように、何者かの頭部には猫の耳がそして腰の辺りには二又に分かれた黒い猫の尻尾が揺れていた。

猫のような何者かは屋上から余暉の店の中で仲睦まじそうに食事をとる七星、陽風、翠花、余暉、桂龍、嶺秀を視界に捉えていた。


「ふ〜んあの雷様いかづちさまの探してる娘かぁ。雷様がわざわざウチに頼むくらいだから相当な実力者ってことにゃのかにゃ。隣に座ってる男も冴えない見た目してるけどなんか隠してるかも。」


笑みを浮かべる。途端それは恍惚の表情に変わる。

顔を赤らめ、よだれを垂らしながら言う。


「あぁ〜楽しみだにゃ〜早くウチ達の所ににおいで。待ってるから…。」


七星達は依頼を解決するだけのはずが、世界を巻き込むまでの領域に足を踏み入れている事をまだ知らない。




















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星と朝は言霊で 汐 冬樹 @usio-huyuki

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