特訓

 質屋でのことから2週間が過ぎた頃だった。

夏も終わりに近づくというのにジリジリとした日差しが肌を焼く。そんな日だというのに余暉よき翠花ツィファの店に七星と2人で集められたのにはなんとなく理由が分かる気がする。


「ねぇ陽風、中で待ってろって言われたのはいいけどさなんでいつまで経っても呼んだ張本人たちが来ないのはなぜかしら?」

「俺に聞かれても…。」


もうかれこれ30分は待たされている気がする。

七星は待つのが嫌いなようで苛立ちを隠せない様子だ。


「悪い悪い遅くなった!」

とよく通る声が店の奥から聞こえてきた。

しばらくしないうちに余暉と翠花が姿を現した。


「いやー!お前たちが来るって言うんだから何か作ってやろうかと思って買い物行った帰り、道で事故があったみたいでよ。車全然動かなかったんだ。」


申し訳無さそうに言う余暉をみて憤りが収まったのか七星の表情は先程よりかは穏やかに見えた。


「それで?翠花、特訓っていうのは一体何をするの?」

「それはもう決めてあるよ。ついてきて。」


スタスタと前を通り過ぎあっという間に店の外へと出ていってしまった。

 

「帰ってきたら美味しい飯用意しとくからなー!」

急ぎ足でついていく俺たちの後ろで声がした。

手を振る余暉に応え、2人で手を振った。





「大丈夫?息切れしてるけど。」

「あ…あぁ…。大丈夫…。」

「そうには見えないけど〜?ちゃんと運動してないからよ。もっと普段から歩きなさい。」

「今さら…説教されたって…。」


とっくに体力は尽きていて息が切れ切れになりながらも翠花に必死でついていく。

町を抜けて森に入った。背の高い木が生い茂っているためか大通りを歩いている時よりかは涼しい。

だがやはり森なので薄暗く昨日降った雨により土はぬかるみ、苔のせいでとても歩きやすいとは言えない。それなのに翠花はまるで山猫のようにつまづいたり、歩みを遅くする様子もなく進んでいくので置いていかれないようにするので精一杯だった。


「着いたよ…。」

そう言って指さしたのは森の中だと言うのにとても開けた場所だった。

最近人が出入りしたような形跡は無いが、そこ一帯の地面は小さいクレーターがいくつもあった。


「ここは…?」

「ここは…翠花と桂龍たちが出会った場所。ここで翠花も特訓したよ。だから七星と…陽風にもここで強くなってほしい。」


そう言って小さく微笑む翠花を見てなんだかホッとした自分がいた。


「それじゃあ特訓の内容を教えるね…。2人にはドッチボールをしてもらおうと思ってる。」


少しの沈黙の後、先に口を開いたのは俺だった。


「え、ドッチ…ボール?」

「うん。」

「俺と七星で?」

「あ、そういうことじゃないよ。2人は味方同士で翠花が敵…最初は翠花がボールを投げるから2人は取らないでずっと避け続けて…1回も当たらないで避けられるようになったら翠花に当ててもいい。」


「そういうことね分かったわ。それじゃあ始めましょう!」

「ちょっとまってくれ!少し、休憩させてくれ。」

「もう、貧弱ね陽風。」

「うるせぇよ。」


3人で少し休憩を取る。

歩いている時は付いていくので必死だったのと疲労が溜まりすぎていたから気が付かなかったが、この森は高層ビルやマンションが多く立ち並ぶ星火町せいかちょうの近くだというのに自然がとても豊かだ。鳥のさえずりがよく聞こえるいい場所だ。


「2人共ありがとな、動けるくらいには回復した。」

「そう、分かった。それじゃあ始めようか。」




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