アジト

「さて、まずはどうしようか…。」


桂龍けいりょうは薄く髭の生えた顎を撫でながら言う。

俺達のアジトは桂龍の質屋だ。俺の家では少し距離があったから。


「どうするって何を?」

七星が聞く。


「いやなぁ雷様を倒すための方法だよ。」

「桂龍は知らないの?」

「知らないことはないんだが、そこに辿り着くまでだよ。」


桂龍が言うにはアダムがいる場所は俺達のいる次元をちょっと超えたところにいるそうで、そこの次元へ行くまでは七星や俺が祓ってきたようなカタマリよりももっとずっと強力なカタマリを倒していかないといけないという。


翠花ツィファなら…多分大丈夫だよ…?」

それを聞いた桂龍は少し困ったような顔をした。


 「翠花、お前の力ならそんな奴らなんて余裕だろうがもしお前が戦えなくなった場合はお前もそうだが俺達も危うい。だから翠花がいなくても自分だけで身を守れるようにしたいんだ。もう少しだけ時間をくれるか?」


優しく頭を撫でる。

翠花は少しだけ頷いた。


「七星と陽風だったか?」

「えぇ。」

「あ、あぁ。」


「お前達戦闘経験は?」

桂龍の目がこちらを向く。


「中学生までは空手をやってたわ。」

「そうか。お前は?」


「え、あぁ…。」


困った。戦闘経験なんてない。それに空手とかボクシングとかなんてものは一切触れてこなかった。

 どうしよう。ここで戦闘経験なんて皆無だなんて言ったら見捨てられてしまうだろうか。役立たずだと思われてしまう…。



「言っとくけど陽風は強いわ。だって暴走したカタマリを1人で瀕死まで追い込んだのよ!」


 まるで家の子はこんなにもすごいのよ!と言っているような口ぶりで七星は言った。また助けられてしまった。


「そうかい。桂龍コイツら中々使えるんじゃないか?」


金色の怪しげな目を細め、ニヤリと嶺秀りょうしゅうは笑う。


「あぁ確かに俺たちと共に戦えるポテンシャルはあるかもな。お前たちも着いてくるのか?」

「当たり前だろ。」


2人は真剣な表情で桂龍そして嶺秀を見つめる。

すると桂龍は大声で笑い出した。


「やっぱお前たちに着いてきて正解だったよ!面白すぎる!」


そう言って何度も手をたたきながら笑った。

あらかた笑いが収まって涙を拭きながら桂龍は言う。


「でもお前ら2人は純粋な人間だ。力こそ失ったが元仙人の俺と嶺秀やカタマリの血が入った翠花なんかよりも力も弱いし治癒力も遅いだろう。だからこれから決戦の日が来るまで翠花に特訓してもらえ。少しでも俺たちの足を引っ張らねぇようにしてもらわねぇとな。」


「でも桂龍。」


今まで静かに俺たちの会話を聞いていた翠花が口を開いた。


「翠花、今まで誰かに教えたりとか…したことないから分かんないよ。余暿よき言ってた人間って翠花とか桂龍よりも…ずっと脆いんでしょ?だから少し力入れただけで壊れちゃいそうで…えっと…その…。」


「不安だ、そう言いたいのか。」

「うん…あってる。ありがとう、えっと…名前…。」

「あ、名乗ってなかったっけか俺は陽風だ。」

「陽風…思い出した。ごめんね翠花覚えること苦手なの。」

「いや大丈夫。忘れたら何度でも聞いてくれよ。」


 翠花の頭を撫でてみた。彼女は抵抗しなかった。

パンダをイメージさせるような白と黒の髪はふわっとしていた。


「翠花、俺たちはお前が思っているよりもタフだ。お前の全力で俺たちを鍛えてくれないか?だけど休憩は多めに挟んでくれよ?」


左目を閉じて言ってみた。

顔は相変わらず堅かったが翠花の目は輝きを取り戻したかのように思えた。


「おっ。お前らずいぶんと威勢がいいじゃねぇか!ビシバシ鍛えてやれよ!翠花。」

「…うん!」


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