最終話「夜道に日は暮れない」
またまた、執筆者です。カル君の話はここまでになります。彼がその後、人類の技術を発展させていき、AIとの共存を果たすのはまた別の話。
ただ確かに言えることは、生涯セリさんを忘れることは無かったことぐらいでしょうか。
「はあ、疲れた。」
ここまで、書くのも中々手がかかります。まあ、しかし人力で書いてほしいというのが彼女の要望だったので仕方ありませんが。伸びをしてから、机の端に置いてある時計を見てみる。
『5032年11月15日21:59』
「もう、十時じゃないか。寝ないと。」
寝る支度をしようとパソコンを閉じると、声が聞こえてきた。
「ねえ、君ちゃんと書いてくれてるかい?」
部屋の隅で寝転がりながら漫画を読んでいる彼女が喋った。
「はいはい。しっかり書いてますよセリさん。」
「私とカル君の大事な物語なんだから、しっかり頼むよ。」
「それにしても、本当に良かったんですか?」
「何がだい?」
「カル君をこっちに連れてこなかったことです。その気になれば連れて帰れたでしょ。」
「いいんだよ。カル君にはあの時代で生きて死んで欲しかったから。」
「もう、過去に行く機会はありませんよ。多元宇宙の処理は大変なんですから。痕跡を頑張って消した俺に感謝してください。」
「分かってるよ。でも、死んでも魂が無くなるわけじゃないんでしょ?いつかまた、会えるよ。」
「会えるといいですね。」
「うん。」
「そういえば腕、大分良くなりましたね。もう人工皮膚、剝がしちゃっても良いと思いますよ。」
「それは嬉しいニュースだ。この皮膚はなんだか気持ちが悪いから。」
「文句、言わないでください。無くなった腕がこうしてあるだけマシでしょ。」
「感謝しているよ。」
「はい。」
「こうして、漫画も読めるしね。」
「働いてください。」
「賭けだったんだよ。あの日、咄嗟にタイムスリップした時、君たちが助けてくれなければ私は死んでいた。」
「こっちもびっくりですよ。過去から人間がやってくるなんて。しかも、片腕は無いうえに、臓器も滅茶苦茶でしたから。」
「数十秒、小宇宙の中で耐えたんだよ。あれは痛かったなあ。」
「未来で人間が滅んでるとか考えなかったんですか。」
「いや、カル君がいるから大丈夫だと思ったよ。」
「それも、そうですね。」
「うん。」
「あれは傑作でしたね。バーテンダー。」
「うるさいよ。一回、雑誌で見てやってみたいと思ったんだ。」
「わざわざ、男の意識に入り込んでまで?」
「バーテンダーって言ったら、スーツをびしっと決めたエレガントな男性でしょ。」
「偽名まで使っちゃって。」
「別にいいでしょ。」
「中国語で『芹』でしたっけ。」
「そうそう。お店の名前も英語で『芹』にしたよ。後で気づいたかもしれないね。」
「気づいたとしても疑問が多すぎますって。」
「困ったカル君、見たかったなあ。」
「良い性格してますね。」
「そうでしょ。______珈琲淹れようか?」
「頼みます。」
セリさんが作業をする音に耳を傾けながら、窓の外を眺める。色んな車が飛び回っている。最近は昔の車の型を飛行自動車にするのが流行りらしい。昔は地上を走っていた車が、こうして空を飛び回っている光景を昔の人が見たらどう思うだろうか。
「ほら、できたよ。」
セリさんが二つのマグカップを持ってきた。
「カル君になった気分ですよ。」
「カル君はもっとイケメンだったよ。」
「酷い。」
「いいから、飲んで。」
湯気を顔に浴びながら、すすった。
「おいしいです。」
「良かった。私は少し前よりも苦いよ。カル君が居ないからかな。」
「僕が居ますよ。」
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