第四話「少しの未来を君に」
今日は晴天。しかし、それ以上に俺の心は晴れやかだった。理由はセリさんの方から初めて自宅に招待されたからだ。これまではあくまで、俺が押しかけて話すというスタイルだったのだ。結局毎日通っていたし、不満を持っているわけでもなかったが、セリさんの方から呼ばれるということはセリさんも自分を必要としている証明なのだ。それが確かに俺は嬉しかった。
俺は足早にセリさんの自宅へ向かう。セリさんは玄関で待っていた。
「さあ、入って入って。今日は君にあるものを見せたかったんだ。」
柄にも無くテンションが高いセリさんを見て、不意に愛おしさを感じた。
「そんなに興奮してどうしたんですか。」あくまで平静を装う。
「あるものが完成したんだよ。すごいんだ。もう、とにかくね。」
「語彙が死んでますよ。落ち着いてください。まず、座りましょ。」
「そうだね。君に早く見せたかったんだ。」
「それは嬉しいですね。まあでも、セリさんがそこまで言うんだからよっぽどすごいんでしょうね。」俺はわざとプレッシャーをかけてみる。
「そうなのさ。よっぽどすごいのさ。」からかいは通用しないようだった。
「どんなものなんです?」
俺には見当もつかなかった。
「タイムマシンさ。」
「まじですか?」
「まじだよ。カル君。遂に完成したんだ。」
「それは、確かにすごいですね。」
「反応薄くないかい?」
「いや、割と本気で驚いてます。驚きすぎて声が出ないというか。」
タイムマシンといったらもう空想の領域だ。それを発明してしまうなんて。
「実物見るかい?」
「見ます。」自分は人類の進化の最先端を目撃しているのだと、そう確信した。
「これさ。」セリさんは手のひらサイズの透明な箱を持ってきた。中にはフヨフヨよシャボン玉のようなものが浮いていた。正直想像していたものとはかけ離れていた。
「これが、ですか。どうやって作ったんですか。」
「宇宙はね最初一つの点だったんだよ。時空間の質量は大きさに関係ないんだ。時間は空間に連動して変化する。二つは同じなの。だから空間を広げれば時間の密度は薄くなるし、圧縮すれば時間の密度は濃くなるんだ。私は時空間を圧縮する方法を編み出した。小宇宙にとっての巨大な質量でね。そしてそれを膜で外界と遮断した。つまり、このシャボン玉は宇宙なんだ。今、こうして話してる数分も、この宇宙ではコンマ一秒も経過してないんだ。この宇宙で数分過ごせば数十年先の未来に行けるわけさ。」
正直、セリさんの言っていることは半分も理解できなかった。しかし、興奮気味に話すセリさんの姿から事の重大さが何となくわかった。
「すごいですね。これで、過去や未来に行けるんですか?」
「いや、この装置では未来にしか行けないね。そもそも過去に行くには不可能な要素が多すぎる。未来の方が現実的だね。」
「つまり、片道切符なわけですね。俺は行ったり来たりできるタイムマシンを少し期待してました。」
「期待に沿えなくてすまないね。」
「いや、十分すごいですよ。」
「わかってるよ。自分が一番ね。」セリさんは頬を膨らませている。俺の取り繕うような態度が気に入らなかったのだろう。
「あ、何かそれには入れたんですか?」
「植物と手紙を入れたよ。未来で昔の植物が役立つかもしれないしね。」
「なんの、植物ですか?」
「ヘデラって知ってるかい?」
「いや、知りません。その一種類だけですか?」
「うん」
「未来の誰かが育ててくれるといいですね。」
「そうだね。ヘデラは育てやすいから大丈夫だと思うよ。」
「手紙には何を書いたんですか。」
「日記だよ。それと少しのメッセージ」
「メッセージって?」
「秘密さ。」
「そんなぁ。気になって夜しか眠れないじゃないですか。」
「君、それ面白いと思って言ってる?」
「すみません。それにしても、やっぱりセリさんはすごいですね。昔の人類でも発明できなかったものを作っちゃうなんて。」
「いや、昔の人類の知識があったからだよ。こうして歴史は受け継がれ進化していくくわけだ、カル君。」
「そうですね」
「今を変えなければ、未来は変わらない。」
「いきなり、なんですか。」
「昔の人の名言だよ。誰かは忘れてしまったけどね。私この言葉が好きなんだ。結局、未来に希望を抱くのは今日に満足していないからなんだと私は思うよ。」
「ですね。」
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