第4話 アンフェア

 1週間か、10日か、あるいは2週間は経過しただろうか。少なくともゴールデンウィーク以前なのは間違いない。


 巴はなにかとひなと共に過ごすようになっていた。放課後や休日。計3日か4日か。何をするというわけじゃない。共に過ごすということを常にしている。

 最初の梅の木の下で、道の駅の裏で、あるいは上野の『左』の渓流の橋の傍で。

 始まりの浅瀬は行かなかった。ひなが嫌そうなのもあるが、巴が拒んだ。巴の自宅付近なのが問題だった。人に遭遇することは全くなかった。

 特に道の駅の裏は穴場で本当に人が来ない。来ても旅行客なので、人の目線を気にせずにのんびりできた。

 最初から人目を憚るような行動をしている。見咎められるわけでもないのに。二人だけの秘密にしたかったのだろうか。巴が言い出したのでもないし、ひなも口に出してはいない。


 いや、見咎められると思ったのだ。

 ここはそういう村だから。良い意味でも悪い意味でも。


「――ねえ、巴君。なんで私と一緒にいてくれるの?」


 道の駅特産のリンゴアイスを、コーンまで綺麗に食べてからひなが訊いた。


「なんでだろうな。自分でもよく分からないんだ」


 巴は半分だけ貰った。なけなしの小遣いだが使い道がない。こういうところで奢った方がいいと思って財布を取り出したが、ひなが半分は出すからと言う。梃子てこでも動かない。


「ひなの分からず屋め」

「巴君は頑固者でしょ?」


 結局今日は巴が降りた。顔見知りの店員にクスクスと笑われては居心地が悪い。

 コーンスリーブをくしゃくしゃに弄びながら、巴は何故だろうと熟考する。

 ひなの涙ながらの独白を聞いてしまったからなのは間違いない。同情したのか。その時に覚えた責任からか。それとも。

 ひなは嬉しそうに巴を見ていた。先日に比べてずっと明るくなっている。


 先日泣き叫んだひなは両親に伝えたそうだ。一度でいいから私が作った晩ご飯を一緒に食べて欲しい、と。酷い話だが、伝えたのは巴が言った通り翌日の朝方だった。泊りがけの仕事だったというのが痛ましい。

 早朝玄関で待っていたひなに、疲れが出ていた両親は飛び跳ねるほど驚いたという。ひなが何か口を開こうとすると、やはり両親は悲しそうな眼をした。

 それでも、ひなは両親が傷つくかもしれない覚悟で叫んだ。


『晩ご飯作ってあげたから、一緒に食べて! お願い、お父さん、お母さんっ』


 二人は顔を思わず顔を見合わせて――複雑な表情をした後に、泣きながらひなをしっかり抱いてくれた。やはり、ごめんね、気を遣わせてごめん、でも凄く嬉しいと。


「良かったな。本当に――良かったよ」


 そう巴がぽつりと言うと、ひなは泣きそうな顔に下手な笑顔を張り付けて頷いた。

 冷めてしまったご飯を温め直して、3人で美味しく食べたそうだ。

 特に母親は教え込んだひなの料理の腕が大分上達していることに感激して、お代わりを3杯もしたらしい。娘が妻の茶碗にご飯を盛るのを見ていた父親は、呆れながら自身も味噌汁を3杯もお代わりして母親に叩かれていたとか。


「ありがとう、全部巴君のおかげ。勇気を貰ったからだよ?」

「ひなが自分で頑張ったんだよ。僕のことはいい」


 本当にそう思う。


「でもいいのか、その日だけだったんだろう。結局一緒に食べたのは」


 何が変わったという訳でもない。両親の仕事のスケジュールに大きな変化はなかった。朝帰りもやはり多いらしい。だからずっと夕ご飯はひな一人。


「本当はね、ずっと寂しいよ? これまで通りだから。でも、1回でもちゃんと言えたからね。私も限界が来たら言うようにするから。もう一度一緒に食べようって」


 気丈な子だ。紅緒の影響だろうか。

 あれから紅緒は殊更ひなを可愛がるようになった。彼女は兄だけで妹はいないから、同年とはいえ素直に世話をさせてくれる女の子が出来て嬉しいのかもしれない。


「そうか。仕方ないと言い切ってしまうのは酷だけど。ひなが納得してるならいいよ。もし気に入らないことがあるなら聞くから。僕もそれは変わらないらしい」

「うん。あのね、巴君の家に行っていいかな?」


 思考が止った。


「巴君も私の家に遊びに来てよ。男の子が来たって平気だよ。ちゃんと綺麗にしておくね。お父さんたち、巴君も知ってる通り昼間は帰ってこないから」


 ひなへ向き直ろうとして、結局巴は体ごと横になった。


「……うちには来ない方が良い。ひなはきっと気に入らない」


 そうかな、と問うひなに、決心をして告げる。


「そうさ。アンフェアだから言うよ」

「アン……?」

「卑怯だってことだよ、僕が。――僕も親はいない」

「え――?」


 どう反応していいか迷ったひな。そうだろうと思う。


「え、でもお父さんが。小説家になれって迫ってくる編集者のお父さんがいるんでしょう?」


 正直言って気持ちのいい話じゃない。ひなにとっては特に。狭い村だから知っている同級生は知っているが、自分から話したことは一度だってない程だ。


「養父なんだ。血は繋がっていない」

「そう――」


 ひなは飲み込んで、巴の話の続きを待った。


 巴はそもそもが上野の生まれですらない。どこか遠い場所の公園だか花園だか、あるいは山中だかに捨てられていたのを地元の人が拾ってくれたらしい。

 生まれて直後だった。かなり衰弱が激しく、一歩間違えたら巴はひなの前でこうしてアイスの包み紙を弄んではいなかっただろう。

 拾ってくれた人が親切な方で、警察と病院に連絡して引き取ってもらった後何か身元に繋がる物品でもないか、丁寧に探してくれたという。巴としては感謝しかない。

 しかし、監視カメラもない場所では警察の捜査もお手上げで、何の手掛かりも掴めなかったとか。生んだ親か、捨てた人か、あるいは捨てるように指示した人がいたのか。それも不明のままだ。


「酷いね。なんでそういうことができるんだろうね」

「分からない。特別な事情があったのかもしれないし、逆にたいした意味なんてなかったのかもしれない」

「嫌なニュースだけどよく聞くからね。あなたの話を聞いて、ちょっとニュースを見るのが怖くなったよ」

「いいんだ、可哀そうな子には可哀そうと思ってあげてくれ」

「でも。せめて赤ちゃんポストとか……。うん。そうだね、こんな無責任なこと言うのが一番ダメだね。ごめんなさい」


 巴だけではなくて、そういう境遇の子全員へひなは謝罪した。

 だから巴はひなが好ましい。そもそも赤ちゃんポストなんてものをよく知っているものだと思う。それで充分だ。


「僕はお決まり通りに乳児院に送られた。それで」


 巴が乳児院で育てられた後、そのまま養護施設に送られるところを、まだ気にかけてくれていた親切な拾い人が待ったをかけた。職員が尋ねると、上野の村につてがあるという。


「何か考えがあったのか、村長が村人を招いて。当時から山村休養施設――ああ、ひなは知らないか。うちの村、ホテルと療養施設の中間みたいな事業があるんだ。それと山村留学」

「留学? 外国の人を招待するの?」


 留学っていうのは国内のもあるからな、とやんわり訂正した。


「小中学生を田舎の村とか離島とかで生活させて、自立を養う宿泊学習の一種、かな。1年から2年の長期で。上野は各家庭で預かるんだ。いわゆるホームステイ。今は高校生以上もやってる。そっちは1週間から1ヵ月くらいのアウトドアだな。まあそれらもあって、他の自治体よりは里親や養子縁組を受け入れるのに理解がある村。だから誰か面倒を見てくれないかって」

「……凄いね。何だか越してから凄いって言ってるばかりだけど」

「いいんだよ。変な村だから。で、その時は偶然か集まった人皆に余裕がなかったらしくて。どうしようかって迷って相談してる時に」


 ――私が引き取ります


 後に巴の養父となる男が手を挙げたという。


「親父、金と地位と名誉はあったから。でも奥さんもいなかったのに、よく家裁への申請が通ったよ。僕を引き取った理由もまだ話してくれない」

「……巴君、お父さんのこと嫌いなの?」


 さすがにここまで棘のある言い回しでは、ひなも明確に指摘するか。


「分からないんだ。育ててくれた恩も情もある。だから好ましいと言えば好ましいけど。……僕とまともにぶつかってくれないせいかな。どういう感情を向けていいのか、分からない時があるんだ。なにしろほとんど家に帰って来ない」

「ほとんど? ずっと?」


 ひなは信じられないという顔をした。遅くても家に帰ってきてくれる自身の親よりも、酷い、そう考えたのだろうと思う。


「ずっと。3カ月に一回くらいか。特にここ数年は。僕に気兼ねしてるのかもよく分からない。成績表だけはずっと見てるって言ってるけど。……だから僕も安心してるのか?」

「安心できないよ。だって、だって巴君小学5年生だよ? 私と同い年なのに、そんな――」

「向こうも忙しいのを、僕が子供心に理解してしまったのも問題だな。金と地位と名誉って誇張じゃないから」


 養父の勤める社名を挙げると、聞いたことがあるよ、とひなは頷いた。

 大手の出版会社の一つだ。子供でも名称だけは知ってるかもしれない。


「元々そこの職員だったけど、今はそこをまとめるグループの執行役員の一人だよ。まだ若いのにな。それで強権使って現場にも残ってる。二足の草鞋履いてるから多忙なんてもんじゃない。こんな田舎にいてリモートで編集はできないよ。経営なんてもっと。――ずっと、都会だ」


 慌てたひなは訴えるように聞く。


「ね、巴君。せめて、お父さんにお願いとかはないの? 誕生日を祝って欲しいとか。運動会に来て欲しいとか。その、ね、ご飯を作って欲しいとか」


 誕生日か。一番とんでもない日付だ。


「考えたこともなかったよ。ご飯か、米の炊き方すら知らない人だから。僕が一番最初におにぎりを出した時でさえ」


 ――米って水に浸けないと白米にならないのか?


「――ってさ」


 笑えない。ジョークに使えないこともないが、これでは笑えない。ひなも唖然とした。


「そんな親に我がままなんて言えないよ。根本的に子どもを育てるのに向いていないのかもしれない」


 作家や絵師や漫画家は育てられるのになあ。


「そういう人っているじゃないか。パブリックイメージは清廉なのに、私生活じゃどうしようもない芸能人とか政治家とか。どうしても責められないよ」

「遠慮してるの?」

「遠慮かな。気を遣ってるだけかもしれないけど――どうなんだろうな」

「私と同じなのかな」


 違うよひな。そうじゃない。


 ひなは真実遠慮してるだけだ。彼女は巴の想像通りなら、自罰的に抑え込んでいるだけで我がままだって言いたいし、愛情が欲しい、独占したい、常々そう思っている。痛ましいとは思うが、子供の反応としては正常だ。

 巴は最初から養父に期待していないのかもしれない。始業式に来てくれと巴が訴えても、仕事がある――そう難しい顔をするイメージが目に浮かぶ。諦観なのか。だとしたら巴の養父への態度は、あまり積極的に肯定していい反応じゃない。

 だからひなとは全然違う。巴は多分――。


「巴君、無理してない? 寂しくないの?」

「してないよ。それだけは本当だ。自分が嫌な奴だと思うことがあるくらい」


 秋吾と紅緒と、村の仲間と友達と、あと近所の人や村民たちはずっといてくれる。面倒を見てくれる。だからそれで十分で。寂しさは特にない。だからこそそう感じることしかできない自分が悔しい。

 もういらない。あとはもういいから。これ以上はいらないよ、皆と分けて食べていいから。――そういう気持だったと思う。


 ひなは感情を迸らせて巴を優しく糾弾してくれた。


「自分で嫌な奴なんて言わないでっ。きっと黒沢君たちだって怒るよ。私も悲しいよ――」

「――その通りだ。卑下するのは駄目だな。僕の大切な人を蔑ろにするみたいだ」

「当たり前だよっ。それに、それが巴君らしいと思うの」


 らしいか。先日秋吾への説教が跳ね返ってくるとは。それもひなによってだ。


「ね、でもやっぱり言わせて。あなたはきっと無理してるの。無理を通り越して無茶苦茶だよっ?」


 しっかりと巴を見つめたひなの声は真摯そのものだった。


「だって――だって一人で生活なんてできないでしょ? 都会ならまだしもここって県境の村だし。そうだよ、お金とかはどうしてるの? それは大事なことだよ」


 ひなは本当に大人の疑問を子供のようなストレートさで指摘する。だって『お金は大事』って平然と言えない。実年齢よりも幼く見える彼女が、実は年齢以上に情緒が成長しているのだと思った。巴はその結論に苦笑して返答する。


「ちゃんと振り込んではくれる。過不足ないよ」

「でも、でもね? それだけじゃないよ。そんなの家族じゃないよ。血の繋がらないお父さんたちを家でずっと待ってる私が、変だな、おかしいなって言うのは図々しいかもしれないけど」

「そんなことはないよ。ひなの家族はきっと健全で正しいんだ。だから説得力があると思うよ」


 まだ会ったことのないひなの両親も、そういう人なんだろう。


「巴君がそう言うなら――。じゃあやっぱり言わせて」


 その先はよく分かる。実際に口に出そうとしたのはひなだけだが。


「巴君の家族はおかしいよっ」

「……ああ、僕も正直そう思う。怪我も病気もあまりしてこなかったし、不良になることもなく生活してこれたけど、これは何かが致命的に違うと思う」


 間違っているとは言わなかった。


「虐待じゃないの? 酷い人。会ったこともないのに、私、巴君のお父さんは苦手」


 はっと口を押えたひな。でもその所作が、言葉が、巴にはありがたかった。


「ごめん、傷つけるようなことを言っちゃった。巴君にも、巴君のお父さんにも」

「謝らないでいいよ。僕が怒れない代わりにひなが言ってくれたから。秋吾も紅緒も、実はいつも怒ってくれる。だから、今のところはいい。もし本当に暴力とか振るわれたらさすがに家を出る覚悟はできてる」


 何とも言えない顔をしていたひなは、巴の縁切り宣言に喜色を浮かべてはしゃいだ。


「そうしたら私の家に来てね。泊まって行ってもいいよ? お父さんたち、きっと巴君のことを気に入ってくれるから。だって私の悩んでること全部分かってくれた人だもの」


 立派な両親とひなが食卓を囲む光景を想像する。

 そこに巴が加わる。料理は和食と洋食のセッションだ。料理上手なお母さんはまだまだと笑って、お父さんは味の良し悪しに鈍感で。ひなは巴の料理を貶すのはダメだと抗議。

 巴は――それを打ち消した。結局つまらない冗談でお茶を濁す。


「親父の預金口座から現金ふんだくって行くよ。数億円隠し持っているんじゃないのか?」

「いらないよっ」


 質の悪いジョークだった。今日はどこか巴もおかしいのだろう。

 乱暴にそっぽを向いたひなに、巴は申し訳なく語り掛ける。


「訂正する。……ひな」

「なあに?」

「寂しくないと思ってきたけど。今日、今から寂しくなったよ」


 本心だった。


「最初に登校日に、お前とお前のお母さんを羨ましく思ったよ。嫉妬したのかもしれない。苛立たしくて、夜の散歩まで行ってしまったんだ」

「そう、なの」

「眩しいって思ってしまった。今も思ったよ。ひなたちの夕ご飯の場面を想像してだ。その光景は僕がお邪魔するには眩しすぎるんだ」

「――そう」


 じっとひなを見つめる。彼女はそれを受け入れて頷いた。


「それがひなと一緒いる理由かな。僕も誰かの体温が恋しくなってしまったんだろう。だから今この瞬間だけは寂しくない」


 ひなは散々悩んだあとに震えながら手を伸ばした。巴の頬に触れようとして引っ込める。巴は頬の何もない空間をそっと掴んだ。


「ひな?」

「ちょっと待ってね。もうちょっと、勇気が欲しい」


 意味は分からないが、分かったと頷いた。そして巴が何か世間話でもしようかと上半身を起こした時、見慣れたシルエットが道の駅本館の向こう側に現れた。


「まずいな。秋吾がいる」

「黒沢君が?」

「時折、道の駅に物色に来るんだってことを忘れてたよ。平日なのにお構いなしだった」

「……トイレの方へ行ってるね。反対側から回ってくるから」

「ああ。こっちは適当に話しておくよ」


 ひながこそこそと移動してその姿を消したのと、秋吾が巴の視界に入ったのはほぼ同時だった。


「こんな雑木林で、何やってんだお前」


 ガキ大将だが線の細い顔つき。もう少し大人になれば美形になるだろうと思う。


「昼寝だ。どうせ家に居ても暇だから」

「ふん、だったらうちに来いよ。お袋がお前がいつ来るのかってうるせえから。お前がいないと俺の世話が倍になるんだってよ。お前の面倒を見てるのは俺なのにな」


 悪いな秋吾。行ける時間が大分減りそうなんだ。傍にいてあげたい子が出来てしまった。


「……そのうち行くよ。紅緒の家にもな」

「けっ。だったら俺はついていかねえからな。あそこのおばさん、俺を奴隷のようにこき使うんだぜ。紅緒を嫁に連れて行くなら慰謝料くらい払えってよ」

「出世払いか。僕もこき使われる側だから、お前が来ないと労働量が増えて大変なんだ」

「馬鹿だな。風呂掃除だの晩飯の支度だの、いつもお前がやってることだろうが。……買い出しに来ただけなんだが、めんどくせえな。お前に良い猪豚の肉見繕ってもらおうと思ったが、とんだ無駄足だ」

トン肉だけにな」


 頭痛を抑えたその仕草は、悪友にしては滑稽で。


「これさえなきゃなあ、お前は」

「悪かったよ、つまらなかった」

「まあ悪くはないな、出来だけは」


 秋吾も機嫌がいいらしい。普段ならけんもほろろか激昂だ。


「ああ、紅緒のおばさんと言えばだな。最近巴に恋人でもできたかって訊かれたんだけどよ。できたのか?」


 さっぱり心当たりがない。


「さあ。僕みたいな男を好きになってくれるモノ好きがいるように見えるか?」

「見えねえ。ま、いるわけがなかったって伝えておいてやるよ。俺は帰る。また明日な」

「ああ、またな」


 ひらひらと手を振る巴に見送られて秋吾は去った。確認したひなが戻ってきた。


「嵐みたいだったね」

「ひなは台風とか好きそうだけど」

「あーうん。ワクワクしちゃうよね。騒がしいし、その後はずっと晴れっていうのが好きかな」


 そうか、とまた巴は寝っ転がることにした。巻き込まれるのは好きではないが、耐えるのが得意な巴は、台風一過は苦ではなかった。その辺り、ひなとは気が合うのかもしれない。


 ひなは正面を見据えていた。何かの思案に暮れながら、力強く。

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