生贄と触媒魔法
プラ
生贄と触媒魔法
触媒魔力。
他人の魔力と混ざり合わせると、反応し魔力量が格段に上がる魔力。
自分の魔力を用い魔法を放つよりも比べ物にならないほどの威力で放つことができる。しかし、デメリットも大きい。媒介された側がその魔力抑えきれず魔法に飲み込まれ、死んでしまう。
スクランブル交差点。
「きたぞ!」
誰かが叫ぶ。
同時に上空で現れる黒い霧。その霧はどんどん濃く、大きくなっていく。
「うぎゃぁぁ」
地面から振動が伝わってくるほど大きい叫び。
怪物が姿を表した。見た目は人と鹿がかけ合わさったような見た目だ。二足歩行で、足は蹄、手の爪は長く鋭い、背中からうなじにかけて尾びれのような出っ張りがあり、肌は黒ずんでおり、至る所が裂けておりそこから肉が見える。
なによりもその体ほどの大きさがある角だ。一目見て脅威だと分かる。軽く振り回すだけでもあたりのビルは倒壊してしまうだろう。
「放て!」
イヤホンからそう声がする。
戦車や、ミサイル、銃、魔法を使った攻撃一斉に怪物向かって飛んでいく。
ドガン、バンッ、ドドンッ
すべて命中した。しかし、ほとんどダメージを与えている様子はなく、怪物はあたりを見渡している。
「触媒魔法を頼む! シェリー!」
教祖の声が聞こえる。そう聞こえると同時に、シェリーは怪物向かって歩き始める。そして、自分の魔力をあたりに流し込む。
百本近くの十字架がビルや地面に突き立てられている。その十字架に縛り付けられている人。擦り切れ汚れた服を着ていて、口にはさるぐつわがはめられている。
「ゔぅぅん!」
十字架に縛り付けられている人の顔は恐怖で染まっていた。必死に縄を解こうとするが、より傷口を抉るだけの結果に終わる。
シェリーは目を瞑る。
「自分の罪を悔い改める機会を」
途端に、激しく苦しむ十字架に縛られた人たち。
「あぎゃぁぁぁ」
くぐもった叫び声があたりに響く。シェリーは自分の触媒魔力を縛り付けている人に一気に流し込んだ。
縛られた人たちの体のいたるところがボコボコっと膨らんだ。皮膚が樹皮に変わっていき、次の瞬間、人の形は崩れ、木に変わった。
百を超える木が一気に成長した。ビルや地面に太い根を張り、勢いよく成長する木、その伸びていく速度は空気が唸るほどに早い。
そして、百を超える木は一気に怪物の体に纏わりつくように成長する。縛り上げられ、すぐに動けなくなる怪物。しかし、木の止まらない成長。幹が太くなり、どんどんと怪物を締めあげていく。 雄叫びを上げる怪物。
シェリーは一気に流し込む魔力を増やした。爆発的に成長する木々、太くなる幹。怪物の肉をさらに強く締め付け、肉、骨をすり潰す。
次の瞬間、グチュとなる音。黒い血を撒き散らしながら怪物の首が折れ曲がる。怪物は絶命した。黒い霧となりその体は霧散していく。
同時に聞こえる歓声。
「教団のおかげで今日も安泰だ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
シェリーはテレビで記者会見を見ていた。
机にはスーツを着た男と、隣には教祖が立っている。 記者が教祖たちに向かって、強い口調で質問を投げかけた。
「今回も犯罪者が犠牲になったようですが、一部から犠牲を決定するには時期尚早だった のではという声が囁かれていますが?」
言葉の端に非難めたさがある質問。
「我々としても最大限を尽くしましたが不可能だと判断したので、決定したまでです。おかげで被害は最小限に抑えられました」
スーツを着た男が答える。
「つまり、犯罪に手を染めてしまった方の被害だけで済むということが、最小限というわけですか? 罪を犯した方の命を軽く見られているという風に理解できますが」
「答え方が悪かったですね。そんな意味合いはありません」
記者は教祖に目を向け、
「他の国ではもう犯罪者を犠牲にするのを禁止してる国も多いです。人権を侵害しているからと。教祖はどう考えておられるんですか?」
「人は罪を犯してしまう。そういう生き物です。しかし、犯したものは、その罪を悔い改め、補うという責任が課されるべきだ。その場として、市民の安全を守るため犠牲になるという場は選択の余地があるべきだと考えています」
「選択の余地と言ってますが、犯罪者の殆どが怪物退治の際の犠牲になっています。選択の余地が…」
ブチッ
テレビの電源を消したシェリー。真っ暗な画面に映る自分はどこか自信なさげで。スマホを開き、tmitterを開く。
その中には否定的な投稿が多い。その中でもほとんどが人権を蔑ろにしてるという旨の批判だ。
シェリーは思わずため息をついた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「悩みがあるね」
教祖のその優しい笑顔。なぜか、全てさらけ出したくなる。
「………はい」
教会堂の中で二人きりの教祖とシェリー。シェリーの悩みに教祖が気づいて話し合う場を設けてくれたのだ。
「記者会見なんて気にしなくていい。彼らは視聴率のために動いてるだけだ。自己中心的な否定だ。そんなものに惑わされてはだめだよ」
「……はい。しかし、SNSなどでも……」
「彼らは物事を一面でしか見ていない。加害者も救われないといけない。犯した罪を償う機会が必要なんだ。あの怪物はそのために現れる。自分の体を犠牲に罪を犯した人を救おうとしているんだ」
教祖の口調は柔らかいが、強い信念がその陰に見える。
「私のあとに続いて、罪は償わなければならない」
言いようのない深みのある声、その声を聴くと気分が落ち着いてくる。
「罪は償わなければならない」
「よしっ、もう大丈夫だ」
そう笑顔で語りかける教祖。教祖と話し合うと、どんどんと胸中に潜むしこりが取れていく。
そうだ。自分は守らないといけない。それは市民だけじゃない。罪を犯した人もだ。
シェリーはそれで満足したように笑顔を浮かべる。
「教祖の言葉を聞くと悩みがはれました」
そうペコリと頭を下げた。
「大丈夫だよ。最近君は働きづめだからな。気に病みやすくなっているのかもしれない。気晴らしに街でも歩くといい」
そう言って微笑む教祖。
「はいっ、分かりました」
「こちらの方で手配しておこう」
そう言って教祖は部屋をあとにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
街を歩くシェリー。時刻は夕方に差し掛かり、あたりの景色は赤く染まっていく。
買い物も終わり、気分もリフレッシュできた。もうそろそろ寮に戻ろうとしていた、その時だった。
シェリーは角を曲がるタイミングでちらりと後ろを確認した。
やっぱりか……。
シェリーは少し前から後ろをつける気配を感じていたのだ。明らかに殺気はダダ漏れで、襲ってこようとしているのがヒシヒシと伝わってくる。
シェリーには一切の焦りはなかった。絶対に制圧できる自信があったのだ。
それどころか自分が相手だってこと分かってるのかと疑問に思うシェリー。触媒魔力を使えばすぐに木にできる。それは防ぎようがない。
そのまま少しの間、歩いていたが、向こうが引く様子はない。シェリーは変に泳がせても面倒になるかもしれないと思い、突然、体ごと後ろを振り返った。
明らかに動揺を見せた人 ……5 人か。
シェリーは他人に顔を見られないように、服の首元を思いっきり鼻が隠れるほど引き上げる。
触媒魔力は誰にでも使える。だからこそ、一般人に怖がられてしまう。だからこそ、顔を見られてはいけないと決められていた。
5 人は顔を見合わせると覚悟を決めたように頷き合い、シェリーに向かってナイフを向け、走り出す。
周りにいる一般人もようやく異変に気づいたようで、あたりで叫び声が上がった。
「一般人に危害を向かわないようにしないと……」
シェリーは右手を前に出した。と同時に、5 人の真ん中にいた男が苦しみだした。体の至る部分が膨らみ、皮膚の色は木肌へと変わる。次の瞬間、木になった。
そのまま成長させると同時に枝を横に広げさせ、残り四人の体を縛るように成長させる。そのまま人二人分くらいに大きさになったところで木の成長を止めた。
体全体を縛り上げられ身動きすら取れない四人。あまりにも呆気ない結末に拍子抜けするシェリー。
すぐに携帯を取りだし、警察をよこしてもらおうと電話かけようとしたときだった。
「この悪魔め……」
四人の内の一人がそう言って、シェリーを睨みつける。そして、口の中で何かを噛んだ。それに合わせて残りの3人も何かを噛んだ。苦しみだす四人。
「はっ?」
シェリーの頭は突然のことでフリーズを起こした。
「キャア!」
後ろから聞こえた叫び声で我に返るシェリー。
振り返ると、大型トラックが暴走しながら真っすぐにシェリーに向かってきていた。
まずい……。死人に触媒魔力を注入しても魔法は使えない。
それと同時に、この四人は、あのトラックを止められないように、少しでも時間を稼ぐために死んだことに気づいたシェリー。
シェリーは愕然とした。こんな少しの時間稼ぎのために死んだのか。
こんなの、運転手を木にすれば簡単に止められるのに。
シェリーは右腕をトラックに向ける。同時に、トラックの窓ガラスを突き破る、太い木の根。シェリーはそのまま木を成長させ、地面に根を突き刺し、トラックを止めようとした。
しかし上手く行かなかった。
「はっ?」
シェリーは驚いた。
急に木の成長が止まった。それどころか、木はみるみる小さくなっていく。気づくと人間の姿に戻っていた。
窓ガラスが割れたことで姿が見える。13歳位の少女が乗っていて、目と目が合った。それが分かるほどにトラックはシェリーのもうすぐ近くまで来ていた。
やばい……死ぬ。
今までに感じたことのない死への恐怖が脳天を貫いた。頭が恐怖で一杯になった。
周りがゆっくりと時間が過ぎた。恐怖で体が動かずゆっくりと近づくトラックを見つめていた。
だからこそ、何本もの木がトラックに襲いかかる瞬間もしっかりと視界に捉えていた。
ガシャンッ
トラックに突き刺さる、巻き付く木。
トラックの勢いは一気に落ち、シェリーのすぐ目の前で止まった。トラックの割れた窓から木に体を貫かれていた少女が見えた。
一気に静まり返ったあたり。
シェリー周りを見る。
さっきまで歩いていた通行人が誰もいなかった。代わりに、さっきまでなかった十数本もの木がトラックに向かって伸びている。
暫くしてから、シェリーは一般人を木に変えてしまったことに気づいた。その場に呆然と立ち尽くす。
「あっはっはっはっ」
一切の音がしなくなった辺りに、笑い声が響いた。
さっきまで気に貫かれていた少女。何故か、トラックの中で笑い転げていた。
「ザマァみろ!お前ら!」
木に向かって叫ぶ少女。その表情は満たされていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
寮の部屋の中でシェリーと教祖が話していた。
「大丈夫。君は被害者だ。仕方ない。事故だったんだよ。それじゃなかったら君は殺されていた。正当防衛だ」
頭を抱えているシェリー。その両肩に手を置きながら話す教祖。
「特異な魔力だ。それによって体に起こるすべての変化を拒絶する能力なんて聞いたこと ない。こればっかりは仕方ない。対処できるはずがなかった。君は悪くない」
そう優しくシェリーの背中を撫でる教祖。シェリーはたまらなくなって気持ちを吐露する。
「どうして、自分の命を落としてまで、他人を傷つけようとするんでしょう。少しの時間稼ぎのために命をかけて普通じゃない」
「そういう人はいるんだ。人間は弱いから。大切なのはそんな人をそのまま放っておかないことなんだよ。人に迷惑をかけたなら、どうやって人の役に立てるのか考えないといけない。 その活躍の場所を君は与えられる力があるんだ」
教祖はシェリーの頬を両手で押さえると、シェリーの顔を自分の顔に向けた。
真っ直ぐに見つめる教祖の目、力強い目。それを見てるとなぜか少しほっとした気分になる。
「気分は良くなったかい?」
「はい」
「よしっ、一人でゆっくりと落ち着く時間を作りなさい」
そう言って部屋を出ていく教祖。
シェリーはそのままベッドに倒れ込んだ。そして思った。確かに、幾分かは気分は晴れたと、だが、どこか心残りがある。
自ら死を選んだ 5 人、他人が死んで笑う少女を思い出す。全く理解できない。
どうしてなのだろう……。募る疑問。
居ても立っても居られなくなったシェリーは、ヒントでもあればと思って、少女が捕らわれている場所に行こうと立ち上がった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
職員に案内され、留置所内を進むシェリー。
突然、聞こえてきた叫び声。それは少女の声だった。
声が聞こえた部屋に入ると、そこは研究室のような場所だった。パソコンが並べられていて、白衣を着た人が画面にかじりついている。その先は壁一面がガラスで出来ていて、そのガラスの向こう側には白い何もない部屋がある 。
その中で左腕がなくなって倒れている少女。しかし、瞬きをすると、左腕は元通りだった。 だが、疲れた様子の少女。 同時にあちこちでコンピューターのキーボードを叩く音が聞こえた。
部屋を見渡すシェリー。 見覚えのある男がいた。 教祖だ。教祖はガラスの近くにたっていた。
教祖がうなずくと同時に、ガラスの向こう側にいる研究者が少女に炎魔法を放つ。 苦しむ少女。すぐにその場に倒れたが、数秒すると何もなかったように立ち上がる。しかし、軽い息切れを起こしていた。
それを見ながら笑みを浮かべる教祖。シェリーはなにか見てはいけないものを見たような気分になり、思わず俯いた。
教祖は周りの様子が見えてないほど何かを考える素振りを見せながら、
「今日は終わりにし よう」
と言って足早に部屋を後にした。
〜〜〜〜~~~~~~~~~~~
Tmitterではあの少女の事件に関してのニュースでもちきりだった。
様々な噂が流れている。もともと一般人を狙った犯罪だったなど、巻き込まれた一般人の中には教団否定派の幹部がいたなど。
そのコメント欄は大いに荒れていた。
『こっちが救おうとしているのに、何してるんだよ』 『前から思ってたけど、犠牲になってもしかたなくない? それほどのことしたんだし』 『もう、犯罪者の犠牲反対派やめました』 『というか、教団が無能じゃね? どうして周りの人巻き込んでんだよ』 『ほかの国と違うからな。まず教団が仕切ってる時点で駄目なんだよ。他の国みたいに国が責任持たないと』 『教団もくそだし、犯罪者もくそだな』
批判の嵐だ。 この前までは犯罪者を犠牲にすることに対して批判の声だらけだったのに、いまや半々くらいといったところだ。
それと同時期に、テレビに露出を増やした教祖。日に日に、教団への入信者が増えていると聞く。
コンコンとドアをノックする音。
入ってきたのは教祖だった。
その隣には見慣れない四足歩行のロボットがいた。その背中には十字架が設置されていて、その十字架には人が縛られていた。そして、その縛られている人はあの時の少女だった。腕と足と口が拘束具で拘束されている。
「っ……教祖? 一体……?」
困惑する様子のシェリー。
「そんなに驚かなくてもいいよ。シェリー。今回のようなことを二度と起こさないように対策として彼女を君の近くにおこうと言う話になってね。彼女がいれば、君はノーリスクで魔法を使うことが出来る」
そうニコリと笑う教祖。
言いたい意味は分かるが、納得がいくはずがない。教祖はそんなシェリーを見越してか、重ねて言葉をかける。
「彼女のような特異な魔力を持っているものがまた現れるかもしれない。ただでさえ彼女が起こした事件で模倣犯が出てくるかもしれないんだ」
その後、教祖は勿体ぶったような言い方で、それに、と付け加えると、
「なによりも、彼女は特異な魔力は使いようでは色んな人の役に立てる」
教祖は考えていることを見透かすかのような目でシェリーを見つめる。
そう言われると何も言い返せないシェリー。
「……分かりました」
しぶしぶ頷く。
「では、シェリー。話も終わったところでついてきてくれ」
「どこに行くんですか?」
「記者会見だよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シェリーはあまりのフラッシュの光量に驚いた。ほとんど前が見えないじゃないか……。
前には教祖と十字架に縛られている少女。
フラッシュたかれている中で、全く気にせず教祖が熱い口調で話している。
「彼女が今回の事件の主犯。彼女はその特異な能力を用い被害を拡大させました。見てください」
舞台の袖に隠れているシェリーに頷きかける教祖。
シェリーは少女に自分の魔力を少し流しこんだ。
同時に、少女は木に変わっていき、十字架に巻き付くよう成長していく。
しかし、数秒後、どんどん時間が巻き戻るように木は小さくなり、人の形に戻っていき、人の肌に戻っていく。
「見てください。彼女の魔力は特異なんです。形状記憶魔力といっていいでしょうか。それによって自分の体に変化が起こったとしても元に戻る能力をもっている。これで、大きく変わります。彼女がいれば犯罪者を犠牲を最小限に抑えることが出来る。なにより、教団として罪のない人を殺めてしまった彼女により活躍の機会を与えないといけない」
そう強く教祖は言い切った。
そして、この会見は大成功だった。
賛成の意見が多数で、コメントは多くがいい落とし所を見つけたという回答でtmitterは溢れかえっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
濃く立ち込めた黒い霧の中から怪物があらわれた。
四足歩行で、背中にはおびただしいほどの針、長い尻尾。その口から長い舌がチロチロと見える。
怪物の動きは速い。戦車や魔法攻撃をかわし、ビル街を縫うように進む怪物。
そして、怪物は大きな道に出た。そのすぐ目の前にぽつんと置かれた3つの十字架。一つの十字架に一人ずつ縛り付けられている。
端の二人にシェリーは魔力を一気に流し込む。
端の二人はすぐに木に変わり、爆発的に成長する。そして、いくつも分かれる枝。鳥かごのように怪物を覆う。逃げられなくなった怪物。
と同時に、シェリーは少女へ魔力を一気に流し込んだ。
少女は木へと変わり、地面を這うように怪物の体めがけて一気に成長する。
怪物の脳天向かって伸びる木。骨が邪魔で突き刺さりきらない。
少女の特異な魔力の影響でどんどん小さくなっていく木、少女の姿に戻ったと同時に、魔力をまた一気に流し込む。またその体は木へと変わって、怪物の脳天めがけて一気に伸びる。肉にささる木。
また小さくなっていく木。少女に戻ると、また木になって怪物の脳天めがけて伸びていく。
それを何度も続けると、確かな手応えがあった。骨が砕ける鈍い音。頭蓋骨に出来た穴。その穴から木がズルズルと脳天から怪物の中へ進む。
その瞬間、怪物の目は生き物の目から陶器の目に変わった。体中から力が抜け、地面にばたんと倒れる。
そして、怪物は霧散していった。
一気にシンと静まり返ったあたり、その中で喘ぐように苦しむ少女の声がやけにシェリーの耳に響いた。しかし、次の瞬間湧き上がった歓声。
彼女は活躍したんだ。彼女は許されるまで誰かの役に立たないといけない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
tmitterに大大と取り上げられているニュース 。
【新たに犠牲になった犯罪者は二人】
大きな見出しに教祖の写真が大きく載っている。
記事の内容では、このまま上手くいけば一人の被害も出さなくても済む。自分としても死んで守ることは正しいことだと思うけど心苦しいところはあった。と書かれてあった。
もう批判コメントはなかった。皆が褒めていた。完全に世論は変わっていた。
「どこまでいけば許されるんだろう。あの子は」
その記事を見ながらぽつりと言うシェリー。
その後ろには教祖がテレビで熱く語っている 映像が流れている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その後、数ヶ月の間で、様々な怪物が現れた。その度に何度も少女は木に変わり、その度に今にも死ぬかと心配になるほど苦しんでいる。
いつまで経っても許される気配のない少女。シェリーはだんだん気がかりになってきた。
「今の時代にも迎合してると思います」
何百人の前でそう断言し語る教祖。それを、シェリーは暗い部屋で見つめ続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シェリーは横目で少女をちらっと見る。
少女は感情のない虚ろな目をしていて。
また怪物現れて、少女が木に変わって。苦しんで。それを見ているシェリー。
怪物の退治を終わり、撤収する中、シェリーはみんなと逆の方に歩く。そして、まだ怪物の肉片残る中歩いていき、殆ど事切れる寸前の少女のもとへ。
「うぐっ……あっ……」
苦しんでいる少女。自分で自分の頬がひきつるのが分かったシェリー。
「大丈夫?」
シェリーは少し迷ったが、思わず声をかけていた。苦しそうながらも顔を持ち上げて見てくる少女。
その瞬間、顔色が変わった。
すぐそばにあった、割れて鋭利になったガラスを握り立ち上がる。ふらふらの様子だが、鬼気迫る迫力があった。思わず後ずさるシェリー。
「さすがに……苛ついて……きてんだよ……」
少女は強くガラスを握る。血が数本筋になってガラスを滴る。
「……や、やめてくれ。その気になれば一瞬で木に変えれるんだぞ」
シェリーは止めようとするが、少女は一歩踏み出す。シェリーは顔をゆがませる。
「どうしてそこまでして罪を犯そうとするだよ?」
「……う……るさい。それ……むかつくな…」
少女の必死な形相で歩いてくる様子。その様子にシェリーは恐怖を覚える。
「どう……して……?」
「お前……みたいのが…………いっちゃんむかつく……んだよ……」
パァン 乾いた音が響いた。
同時に少女の左のこめかみから細い糸のように血が飛び出た。そのまま倒れる。
駆けよってくる銃を持った戦闘員。少女の体を拘束した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部屋の中。 ベッドに座るシェリー。その隣にいる四足歩行のロボット。
少女がロボットの背中に取り付けられている十字架に縛られている。
少し考え込んでいるシェリー。
意を決したように立ち上がり、その少女の口を押えている拘束具を外す。またベッドに座る。 少女はまだ目を合わせないまま。
「ずっと考えてた。どうして罪を犯すんだ? どうして自分の命まで絶って。他人を傷つけようとする?」
シェリーは尋ねる。でも、口を開こうとしない少女。
「どうしてだよ。あんな簡単に命を捨てようとするんだよ」
自ら毒を飲んだ人たちのことを思い出すシェリー。それでも少女は何も言わない。 でも、眉がピクッと動いた。
「もう僕には分からないんだよ。どうして罪を犯そうとするんだよ。誰も罪を犯さなければ 僕は何もしなくてもいいのに……」
俯いて語るシェリー。シェリーが顔を上げると、さっきまではそっぽを向いていたはずの少女が怒りを込めた目で睨みつけていた。
「……なんで被害者面してんだよ」
一瞬ひるむシェリー。しかし、すぐに立ち向かうように、
「それはそうだろ。お前たちが犯罪なんて侵さなきゃ、あの時の通行人も殺すことはなかった。なにも迷惑かけてない人をどうして傷つけるんだ」
すると、少女はぽかんと口を開けて、
「何も知らないのか?」
「一体なんだよ。僕が何を知らないって言うんだよ」
「あの噂はマジだったんだな」
そうにやっと笑う少女。
「お前は疑問に思ったことないのかよ。月に一回、安定してあんな数も都合よく犯罪者が集まってることに」
少女はシェリーの顔を見て、
「表情を見るにちょっと疑問に思ってた程度か? 本当に周りによいしょされてばっかでなんも考えてなかったんだな」
何も言えないシェリー。 この話を聞き続けたら一生後悔するに違いない。でも、ここで止めれない。
「そういう社会の成り立ちなんだよ。同じ場所に生きてるのに、金がないんだよ。飯もまともに食べれない。治る病気でも何人も死んでいく。生きることすらもままならないんだよ。 弱者は抜け出せれられない構造になってる。ずっと金がないまま。ろくな仕事なんかできやしない。 弱者側に生まれたやつの選択は二つだ。死ぬか、罪を犯して生きる可能性を上げる。だから みんな罪を犯す。そう仕向けてる」
少女はゆっくり息を吐いて
「お前の教祖だよ。お前がよく見てる携帯で噂くらいも見たことがないのか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シェリーはぐいっと顔全部が隠れるほどに布を引き上げる。そして、そっと建物の影から覗き込んだ。
そこはボロボロの噴水広場だ。吹き上がってる水が汚く、床に敷いてるタイルはいたるところが抜けていたり、せり上がっていたり。
そこにいる人たちの服装は皆ボロボロだった。よろよろとした様子で歩く老人。ゴミとすら見えるボールで遊ぶ子どもたち。
シェリーの頭の中に少女の声がよぎる。
「そう思うなら見にいけよ。金のない奴らが集まる場所がある」
少女の声の再現が終わると、脳には今までに木に変えた人たちの身なりを思い出す。
どの人もそこにいる人たちと同じような身なりで、一目見たときは息を呑んだ。
そんなところに武装した男たちが現れる。明らかに異物。
そして、その中から出てきたのは、教祖だった。
教祖は紙を取り出し、読み上げる。途端に逃げ出す数人の男や、子ども。
教祖の周りにいた武装している男達が動き出した。シェリーはそっと男たちの後をつける。
逃げた男を捕まえるものや、家の扉を壊して入っていくもの。そして、ボロボロの身なりの人の首根っこを掴んで無理やり歩かせる。
そして、十数人ほど捕まった。その捕まった人の母親や妻、夫らしき人が教祖に訴えかけていた。
それに、対応する教祖の顔はいつも僕に向けている穏やかな笑顔のままだった。
ぞくぞくと背中が震えた。
相手は泣き叫びながら、必死に訴えている。なのに、全く教祖の様子は変わらない。まるで気にもとめている様子はなかった。
シェリーは逃げ出していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「見たそのまんまだっただろ?」
頭を抱えベッドに座るシェリーに少女は嘲笑を含んだ声色で話しかける。
「知らなかった。知らなかったんだ」
シェリーの声は震えていた。
「そんなの関係ねぇよ。やったことはもう戻らない」
「やめてくれ……よ。……ただ言われてただけなのに。何も知らずに」
シェリーは頭を抱えて、力なく左右に顔を振る。それを見ていた少女。少し時間が経ってからぽつりと、
「やっぱりお前ムカつくな」
少女の声色が変わった。見上げるシェリー。憐れみと怒りが混じった顔の少女。
「まだ被害者面してんのかよ。しかも、涙浮かべやがって、気色悪りぃ。どこまで自分で言い聞かせてんだよ」
少女の口調がどんどんボルテージが上がっていく。
「お前は適当な理由つけんなよ。お前みたいなやつ今までにたくさん見てきた。適当な理由つけて自分を正当化して。気づいてないわけないだろ。ネットに噂くらい見たことあったはずだ。それを見てないふりしてきたんだろ。自分を正当化するために。結局、自分がいちばん大切なんだよ」
その言葉はシェリーの奥底にある一番いやな部分を突き刺して、
「………それが僕を襲った理由か。僕のことが嫌いでむかつくから」
涙を滲ませながら言うシェリー。少女はため息を吐くと、
「んなわけないだろ。お前のことなんて知ってるわけない。ただ暇だったんだよ。この体じゃ死ねない。苦しむだけで。何の生きる目的もない。そんな生活もう何十年としてると暇。なんかしたくなったんだよ」
「……なんだよそれ」
一拍置いた後、少女が話し始める。
「けど、最近目標ができた」
「えっ」
睨みつける少女。
「お前を殺してやるよ。さんざん苦しめてきやがって、ほかのどの死に方よりもお前のやつが一番苦しいんだよ。流石に苛ついてる。固く決めた。絶対にお前を殺してやる。絶対に一生かけてやる。一度はチャンスがあるだろ」
「やめてくれって…、やめてくれよ!」
「さっきより元気になったな。やっぱり自分の体が大事なんだよお前は」
怒りと勝ち誇った声で少女は吠えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
黒い霧が濃くなっていく。
そして、その黒い影の隙間からその巨大な姿が見えた。
その怪物は、フォルムは魚に似ていた。重力に負けているかのようにあまりに余った皮膚がだらんと垂れている。
その巨体がふわふわと浮いていた。
しかし、次の瞬間、徐々に体が膨らみだした。一気に口から空気を吐き出した。
ゴォォォッ、
近くにいた戦闘員、戦車が軽々と地面を転がっていく。風の勢いで、ビルの窓が割れる。路肩に生えている木も根こそぎ飛んでいく。
シェリーはその時、遠く離れていたにも関わらず目がひらけないほどに強い風に襲われた。
そして、ゆっくりと怪物は空を泳ぐように進む。
「厄介な相手だな。さっさと倒さないと」
隣でそう言う教祖。シェリーはその顔をよく見れない。
「あいつが次に膨らむまでに勝負を決めないと、街に重大な被害が及んでしまいます。一気に前進します」
そう戦闘員が言う。
戦闘車に乗り込むシェリーと十字架に縛られた少女。
シェリーは自分の顔が強張ってるのが分かる。ただ周りに流されて動いてるだけで、まるで自分の意志で働いてない。
シェリーは隣を見る。
そこには、数台の小型トラックに乱暴に積まれた十字架に縛られた人たち。
今迄に気づいてなかった。気づかないようにしていた。十字架に縛られている人たちの恐怖に歪んだ表情がよく見える。そのやせこけた姿も。
キキィッ 車が止まる。
怪物はもう三分の二くらいまで大きくなっている。
もう一分以内には、またあの暴風を吹き出すだろう。
しかし、シェリーの動きは鈍い。
触媒魔力を流し込もうとするも、 脳裏に少女の苦しんでいる姿、怒りの表情。苦しんでいる人たちの姿が蘇る。
どうすればいいか分からなくなって、思わず止めてしまう。
視界にある自分の手が震えているのに気づいた。
「何をしてるんだシェリー!」
そうイヤホンから教祖の声が聞こえた。それと怪物が膨らみ切ったのは同時だった。
怪物は一気に空気を吐き出す。
ゴォォォ
体全体になにか固体がぶつかったと思った。
僕の体は軽々と宙を舞った。風に煽られ様々な方向へと回転する僕。その視界の端には同じく宙を舞う十字架やら、車やら、木やら、道路のかけらなどが見える。
そして、ビルの屋上が見えた。その頃には回転も収まってきて、あたりの景色が見えた。
気づくと僕はビルより高い場所にいた。
遠くにある地面。
ゾクゾクっ、やばい死ぬ。死の恐怖が体の内側から突き抜けるがごとく押し寄せてくる。体の芯から湧き上がる恐怖。
そんな時だった。自分が飛んでいる進行先に、人が密集しているのが見えた。避難を完了した一般人たちが集まっている。
それほどまでにシェリーは飛ばされていた。
この勢いのまま地面に落ちれば死は確定だ。
シェリーの頭は恐怖で真っ白になった。
次の瞬間、密集している人たちの数人が木が変わった。その枝は蜘蛛の巣のように絡み合い成長する。
そして、シェリーの体を受け止めた。
メキャメキャ。
枝の破片がシェリーの皮膚、服を裂く。
それでも勢いは殺しきれず、地面を跳ねるように転がるシェリー。
そのままシェリーは転がり、避難している人たちが集まっている少し前あたりで止まった。
「ゴホッゴホッ」
地面にぶつかった衝撃で息ができず激しく咳き込むシェリー。
そして、息が出来るようになると、喘ぐように息を吸った。
シェリーはその時になってまだ自分が生きていることを認識した。
あれっ、どうして僕は生き残って……。
記憶の片隅に、遠くに見えた避難民たちが見えた景色が蘇るがそれよりあとが何も思い出せない。
シェリーはフラフラと立ち上がり、あたりを見る。
その時に見えたものは、怪物を見るような恐怖の目を向く避難民達だった。
周りを見て木が数本立っているのを見て、一般人を木にしてしまったことに気づくシ
ェリー。
「あっ……違っ……」
どうすればいいか分からなかった。
自分の保身で頭が一杯になって、
違う。これは、俺がやろうとしたんじゃない。怪物が……。仕方なくて。
シェリーは頭の中がぐちゃぐちゃのまま、気づくと助けを求めるように手を伸ばしていた。
「きゃぁっ」
叫び声が聞こえた。それが合図だった。
「うわぁぁ」「助けて」「ぎゃあぁぁ」「逃げろ」「あぁっぁぁ」
一斉に逃げ出す一般人。
「待って……」
追いかけようとするシェリー。しかし、地面に足を強くぶつけた痛みで、思わず倒れてしまう。
ゴォォォッ、
背筋がゾクリと震える。
シェリーは慌てて振り向く。怪物がものすごい勢いでこちらに向かっている。さっきまで前に吐き出していた空気を後ろに吐き出し、その巨体に推進力をもたらしている。
真っすぐこっちに向かって飛んでくる怪物。
また襲ってくる死の恐怖。また頭が白く染まり始める。その後ろでは逃げている一般人。
「死にたくない……」
頭にはそれしかなかった。
ビュッ、
耳元を何かがものすごい勢いで通過する音がした。
と同時に、視界の端から飛び込んできた数十本の木の幹。真っ直ぐ化け物に向かって伸びていく。
そして、その数十本の木はお互いの体を絡ませ合い、太い槍のような形になった。そして、そこに飛び込んでくる怪物。その体に突き刺さった。
しかし、刺さりどころが悪かったのか、怪物は生きている。それどころか痛みを与えられたことで怒りを覚えたのか、唸るような声を上げる。
シェリー慌てて周りを見た。突然現れた木によって引っかかったり、こけたりでまだ逃げ出せていない一般人たちの姿が見える。数十人いる。
恐怖の表情を浮かべる人たち。目が合った。
足を引きずりながら逃げようとしようとする人。もう放心状態の人。体を丸めて怖がってる人。
全員が苦しみだした。体のいたるところがボコボコっと膨らんだ。皮膚が樹皮に変わっていき、次の瞬間、人の形は崩れ、木に変わった。そして、怪物めがけて成長していく。傷口から怪物の体内に入り、体の中を成長する木。
そして、ある瞬間、怪物は唐突に死んだ。呆気なく死んだ。さっきまで生きていたのが信じられないほど。
呆然とその場に居座るシェリー。そして、すぐ後に襲い掛かってくる色んな感情。
シェリーは頭を抱えて、その場でのたうち回る。
「あぁぁぁぁぁ」
「俺は何も……したくない……したくなかった……」
体が自分のものではないようにブルブルと震える。そのまま暫くその場で悶えていた。
パキッ
枝が折れる音がした。
音がした方を見ると少女がいた。その片手にはナイフが握られている。
「苦しそうだな。じゃあ、さっさと楽にしてやるよ」
シェリーは泣きそうになりながら、
「やめてくれよ……。もう僕は何もしたくない……んだって……何もする気もなかったん
だ」
「じゃあ、さっさと殺されろ」
ナイフを構えて、大きく足を踏み出してくる少女。
「やめてくれよ!」
叫ぶシェリー。途端に、少女が苦しみ、木に変わる。枝が伸びると同時にナイフは遠くに飛ばされる。
しかし、数秒も立つと、木はすぐに小さくなり、元の姿に戻る。ゼェゼェと肩で息をする少女。それでも、シェリーに向け一歩踏み出す少女。
「なんだよ……もうやめてくれよ……」
頼むように言うシェリー。それでも歩いてくる少女。気迫に押されて後ずさる。
「やめっ、やめ……」
覚束ない足取りで逃げようとするが、枝に引っかかってそのまま受け身も取れず倒れるシェリー。
その隙に少女は馬乗りになって、シェリーの首を絞めてくる。
「カハッ………カッ」
シェリーには少女を引き離す力も残ってなかった。少女の指がシェリーの喉を締め付けて……。
唐突に苦しむ少女。体のいたるところがボコボコっと膨らみ、木に変わる。
その隙にせき込みながら息をするシェリー。逃げ出そうとするも、また木か元の姿に戻った少女に首を締め付けられた。
少女の顔は苦しそうで、今でも意識が飛びそうなのに、なのにさっきよりも強い力で首を絞めてくる。
「ヤ………メ……」
また苦しむ少女。体のいたるところがボコボコっと膨らみ、木に変わる。
逃げようとするが、逃げれない。すぐに首を締め付けてくる。
少女も苦しいようで体がふらふらなのに。
「僕はしたくないのに……。おかしいって……。不可能に決まってるだろ……。やめてくれよ……」
また木に変え、その隙に逃げ出しながら和解を試みるシェリー。
殺気を込めた目でにらみつけてくる少女。また首を絞めてくる。
「その被害者面がいちいち頭に来るんだよ……」
「……僕…はぁ、みんなの……ために……やってたの……に……ぃぃぃぃ」
苦しむ少女。木に変わる。逃げ出そうとするも、また元の姿に戻る少女に捕まって。
少女は顔を上げる元気がないほど苦しんでいる、なのに首を絞める力は変わらない。
「お前の都合なんて知るか……。ただ……むかつく……むかつく……」
少女の唸るような声。
「うわ……ぁ……ァァぁ……ぁ」
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
苦しむ少女。木に変わる。その度に人の姿に戻って首を絞めてくる。その度に木に変えて、その度に人に戻って首を絞められて、その度に木に変えて、その度に人に戻って首を絞められて、その度シェリーは木に変えて、その度に人に戻って首を絞められて、その度にシェリーは木に変えて、木に変えて、木に変えて、木に変えて、木に変えて、木に変えて、木に変えて、木に変えて、木に変えて、木に変えて。
ふいに我に返ると、少女は隣に倒れていた。体は痙攣していて、口から泡を吐いていた。もう意識はなくなっていた。
ずっと前からこの状態だった。それなのに、何度も木に変えていたことに気づくシェリー。
過去の映像が流れる。
怪物との戦いで少女が木に変え、その度に苦しんでいる少女。
「うわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
シェリーの中で何か壊れた。
バリバリバリバリ、
そんな時にヘリコプターからライトを照らされる。その時気づいた。遠くの方から戦車や、戦闘員がこちらに向かって進んできていることに。
「君は一般人を木に変えすぎた。もう君を助けられない」
イヤホンからノイズ混じりで教祖の声が聞こえた。
ヘリコプターはシェリーに向かってミサイルを放つ。
「もう……やめてくれ……よ」
シェリーはゆっくりと目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少女が意識を取り戻し、はっと体を上げる。
隣に座っているシェリー。
顔から人間味が無くなってる。目に色がない。そのまま少女は周りを見渡して、
「ここどこだ?」
全く変わった辺りの景色に驚いた。
一見そこは、森だった。しかし奇怪だ。木が、まっすぐ上に伸びてない。木は様々な角度に生えており、根が飛び出ているものもある。
さらに、戦車やら、ヘリコプターの中から木が生えていたり、木の枝に銃が引っかか
っていたり。ビルとヘリが木で引っかかっていたり。
少女は大体の経緯を把握した。
辺りに人の気配は感じられないということは、もう殆どの人間をこいつは木に変えたんだ。
一目見れば街も機能出来ないことは分かる。
それほどのことをこいつはした自分の身を守るために。
もう数百年生きて来た中で初めて見る光景だった。久しぶりに味わった新鮮な気持ち。
「これ……全部お前がやったんだな……」
「何もしたくなかったのに。なのに向こうが。何もしたくなかった。やめてくれよ。どうして。苦しむのにどうして戦いに来るんだよ。そっとしておいてくれよ……」
頭を抱え、ヒステリックに叫ぶシェリー。
もう一度周りを見る少女。
そんな少女をみるシェリー。すがるような表情で。
少女は思わず笑った。
「もう馬鹿らしすぎて、むかつく気力も湧かなくなった」
ケラケラと笑う少女。
「こんな馬鹿、数百年生きてきて、今までに見たことない」
そうシェリーの背中をバンバンと叩く少女。
「私の名前はアカネだ。お前といればもうちょっと飽きずに過ごせそうだ」
そう言って、アカネはシェリーに笑いかけた。
ーーーーーーーー ♦お願い♦ーーーーーーーー
最後までお読みくださりありがとうございます。
これからも頑張れよ!!と応援してくださる方はフォローや☆☆☆レビュー、応援♡、頂けると励みになります。
面白かった!!また続きが読みたい!!と感じてもらえる作品を作っていきます。
少しでも小説で笑顔になる人を増やしていけるといいな〜
生贄と触媒魔法 プラ @Novelpura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます