8 Sio.side

「ごめんね。勝手で」




違う。


勝手なのも、ズルいのも俺の方だ。




俺は、悟の気持ちを知ってた。


知ってて、そして俺の答えは決まっていたのに、ずっと先延ばしにして、悟の優しさに甘えてきた。


自分から何も示そうとしないで、ただ、待っていた。


悟が俺の手を引いて、向こう岸どころか、どこか…もっと遠くへ連れて行ってくれるのを。






「……勝手でも、ズルくもないよ悟は」




ただ、優し過ぎるから。




その優しさが、怖かったんだ。




今…悟の手を握ったら、俺はもう、二度と離すことは出来ない。


きっと…深く、深く…溺れてしまう。






それでもいい?


あいつには、聞けなかった。


聞かなくても答えがわかっていたから。




そして今、悟の答えも、俺は手に取るようにわかる。


聞かなくても、わかる。








「…ありがとう」




今度は、俺が示す番だね。








「朝になったら、帰る」


「…うん」


「ちゃんと、自分で終わらせてくるから…」






全てが終わったら…






「連れ去ってくれる?」




月明かりを背に、悟は、優しい笑顔で頷いてくれた。








あの、夢の川を渡るために悟がどんなに大きな船を用意したとしても、きっと、俺がこの想いと一緒に乗り込んだら、沈んでしまう。


それでも、悟ならきっと…俺の想いごと背負って渡り切ってくれる。




プライドや意地で辛うじて保てるような軽い幸せじゃなく、愛と揺るぎない信頼だけで成り立つ、深く…重い幸せがある場所まで。






俺に向かって伸ばされていた悟の手を握ったら、ようやく、天秤が釣り合った気がした。








―End―



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天秤 Pomu @Pomu1123

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