7 Satoru.side

「これは、ただの独り言として聞いてほしいんだけどさ…」




真っ暗な海を見つめて、ただ静かに泣いていた汐の涙が落ち着いた頃、俺はそう切り出した。






「俺…汐のこと好きだよ。ずっと……ずっと好きだった」




汐が俺を見つめて、何度も瞬きをする。


その瞳の中には、今俺だけが映っている。


やがて汐は返事を考えるように、視線を海の方へと移した。






「返事が、欲しいわけじゃないよ。勝手だし、ズルいと思うけど…ただ伝えたかったんだ」




ただ、知っていてほしかった。


汐をこんなにも想っている人間が、ここにいることを。


いつでも、汐のそばにいることを。






「俺は、汐が大切だから、汐の気持ちを大切にしたいと思う。


本当は、ずっとあいつから汐を奪ってやりたかった。無理矢理にでも。


でも、それじゃ何の意味もない」




あいつから無理やり奪ったとしても、このまま連れ去ったとしても、それじゃ天秤は傾いたままだ。


俺の気持ちだけがそこにあったって、それは、本当に手を繋いだことにはならない。


同じ重さの愛でなければ、意味がない。






「だから、いいんだ。俺は、何があっても…また汐が笑えるようになるまでそばにいるよ」




汐が、誰を想っていてもいい。




俺が、汐を愛していることは、変わらないから。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る