2 Sio.side

玄関には今日も、あいつの靴はない。


帰る家はここしかないはずなのに、今日も帰ってくるつもりがないらしい。


冷蔵庫には、何本かのビールと一人分の食材。


一人暮らしをしてるみたいだ。


二人で暮らすために借りた部屋で。






あいつは、俺を裏切っているかもしれない。


もう俺を捨てるつもりかもしれない。


他の人を愛しているかもしれない。


俺自身ももう、あいつを愛することに、疲れてしまっているかもしれない。




一人でいると次々と浮かんでくるそんな疑問達に、全て自分自身で答えていく。




俺は裏切られてなんかない。


捨てられたりなんかしない。


俺は、あいつに愛されているし、俺もあいつを、まだちゃんと愛している。




そこまで考えて、口の端から嘲笑がこぼれ出る。


本当は答えなんてもうとっくに出ているくせに、俺はそれに蓋をして、見てみぬふりをしている。








最近、よく不思議な夢を見るようになった。




夢の中で、俺は川の縁に立っていて、向こう岸に、あいつと悟が立っている。


俺は二人がいる向こう岸に行きたくて、必死に、二人の名前を呼んで、手を伸ばす。




その声がようやく二人に届いた時、躊躇いなく水の中に飛び込んで、俺に向かって歩いてきてくれるのはいつも悟だった。


あいつはただ俺の呼びかけに、伸ばした手に、目を逸らし続けている。




悟の手を、握る瞬間。


いつもそこで目が覚める。








きっと、この夢は警告なんだろう。


その手を握ったらもう、戻れなくなってしまうから。






でも、その手を振り払ってまで守りたいものなんて、今の俺にあるんだろうか?




今のままじゃ、ただ逃げてるだけなんじゃないのか?






ぐるぐる考えているうちに、俺はまたあの夢を見ていた。






向こう岸で目を伏せているあいつの姿と、もう少しで触れそうな悟の手。






どれだけ悩んでも、夢の中の二人は、俺に答えをくれない。


あいつが川を渡ってきてくれることも、悟の手が触れることもない。






俺が、答えを見つけなきゃいけないんだろう。


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