第34話
「それは、何と言うか……。雨降って地固まるというやつですね」
アシュトルグランに戻り、冒険者ギルドでワホマに報告書を提出するついでに詳細を語って聞かせる。報告書に書けない内容も多いため、今回はジャージとツン姉が直に説明に来ていた。
多少大げさな説明だったとはいえ内容自体に虚偽はなく、悪魔の正体が堕天使であったことも包み隠さず伝えてある。
彼女もオッスとサッツの正体が天使であることを知らされているひとりであるからだ。
ただ、その中で唯一はぐらかしていた部分がある。
しかし、今回の報告とは別に、相談したいからこそ後回しにした結果でもあったわけで――。
「女神の遺跡……ですか。堕天使の件だけでも悩ましいのに、また、エライものを掘り当てましたね」
さすがのワホマも情報過多といった表情だ。
本来、新たな天使の降臨にかんする情報の方が大事件なのだが、堕天使の存在を明かすことがタブーに近い扱いであるため大っぴらにできない。しかも、当のキンゴが放浪することになっているとあれば冒険者ギルドどころか国でどうこうできることではない。
しかし、女神の遺跡となると女神と天使の管轄から離れた存在になる。
学術的な価値だけでなく象徴的な意味でも人類にとって計り知れない価値を持つ。
「まあ、これにかんしては発見者が公表を望んでいないので、オレ達からしたら現状維持をお願いしたいっていうのが要望なんですけどね」
「なるほど。しかし、女神の遺跡となると、それは難しいかと」
ジャージの提案に、ワホマも渋い表情を作る。
「ですよねー。でも、こちらの要望を飲んでくれたら、将来的にはキンゴが守護天使の契約を結んでも良いって話してましたよ?」
「な!?」
思ってもいなかった事態に、ワホマもクールな表情を崩してポロリと筆記具を落としてしまう。
それもそのはずだ。
守護天使とは、そんなに軽々に誕生するものではない。
ナンバーズ以外の天使は基本的に各地を転々としながら悪魔や悪霊が発生しそうな問題を事前に解決して回っている。ということになっているが、その実勝手気ままに流浪しているだけであることがほとんどだ。
故に、同じ場所に留まりその地を守護し続けることを確約してくれる天使は非常に貴重な存在なのだ。
現在、守護天使が確認されている国は世界最古の国と言われるエルダエルド大陸東に存在するナルシニ王国だけとされる。
過去には他にも守護天使が存在したと伝えられているのだが、守護期間には限りがあることが多く、契約切れになっている国ばかりである。
そこにきて、今回の誘いだ。
「さすがに私の一存では決められませんが、そういうことでしたら期待通りの結果になると思いますよ」
「さっすがぁ。細かいことはキンゴの体力が戻ったらコッチに来るようにオッスん達に伝えてあるので、その時にでも」
「はぁ~、まったく。天使様を呼び出すとか、貴方達くらいのものですよ。ですが、承知しました。その際はギルドマスターに国王様への謁見をお願いしないといけないでしょうから、到着前に連絡していただけるようにお願いします」
「「はーい」」
こうして諸々の説明が終わり、退席しようかという頃になってツン姉が思い出したように口を開いた。
「そうだった! 忘れるところだった」
「何でしょうか?」
ワホマもツン姉の言葉に小首を傾げる。
「ほら、マミの町長さんから頼まれてた件」
「あー。そうだったそうだった。いや、冒険者ギルドに頼むことじゃない気もするんだけど、商業ギルドに話をつける前に一応ね」
「はい」
「今回、悪魔退治の一環でマミの町で体育祭を開催したって話したじゃないですか」
「ええ」
「それが住民に大好評だったみたいで、今後もマミの町で継続して開催したいみたいなんですよ。で、やるからには各地から人を呼んで大々的に開催できないかと打診されましてね。オレ達だけじゃ手に余る案件なんで、援助をお願いできないかってことなんですよ」
単なる思い付きだったとはいえ、嬉しい誤算というやつだ。
「そういうことでしたか。そうですね。地域振興に関する分野ですので冒険者ギルドとしてできることは限られますが、主要都市との街道整備や魔物退治などお手伝いできることはあると思います。こちらもギルマスに上げておきますよ」
これを聞いたジャージとツン姉は顔を見合わせ笑みを浮かべる。
「良かった。これでマミをシーズン前のキャンプ地にできそうだ」
「春にセッペの強化キャンプ。秋に体育祭ってサイクルが組めそうだね。いやー。定期的に温泉旅行できるとか、テンション上がるぅ」
「ほらな。オレの計画通り。これで竜国と国交の手がかりが作れること間違いなしってもんよ」
「いや。それは、さすがに気が早いって」
「こういうのは言ったもん勝ちなんだよ。大事な試合の前に勝利宣言して気持ちを盛り上げるのも大事でしょ?」
「まあ、それもそうか。どの道、竜国にもサッカー広めなきゃだもんね」
「そうそう……」
すっかり自分がいることなど忘れておしゃべりに夢中になるふたりを前に、ワホマはやれやれといった顔になっていた。
しかし、彼らが語る夢物語を聞くのは好きだった。
いつの日か、本当にサッカーでリトガに平和をもたらしてくれるのではないかという期待感もある。
「ホントに、サッカー馬鹿ってやつですね」
ふたりに聞こえないよう小さくつぶやくワホマの表情は幸せそうに綻んでいた。
余談だが、マミの町は体育祭発祥の地として世界中から人が集まり、多くの人がサッカーを楽しむ聖地となるのだが、それはも少し先の話である。
異世界サポーター ~サッカーで異世界を救ってみせようじゃないか~ おとのり @otonori
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