おまけ②【残桜】
おまけ②【残桜】
目の前で、煙桜が血を流していた。
本当は、自分がそこにいたはずなのに。
今まで、誰も救えなかったから。
今まで、誰も守れなかったから。
せめて、みんなだけは守りたいと思ったんだ。
それなのにー
煙桜の身体から血が吹きだして、それでも、そこに行くことが出来なかった。
本当はすぐにでも行きたかった。
でも、どこか頭は冷静で、いや違う。
煙桜がこっちを見ていた気がしたんだ。
そこを動くな、お前の役目を考えろ、って言われた気がしたんだ。
それは、言い訳だったのかもしれないー
自分のせいなんて、それさえもおこがましいと思っていた。
そこまで自分には価値が無いって思ってた。
でも、確かに煙桜は自分を守ってくれて。
俺の未来を、俺の命を、俺の希望を。
その背中に追いつけるなんて思っていなかったけど、本当に、追いつけなかった。
手柄とかじゃなく、地位や名誉でもなく、ただ自分の納得がいくかどうかだった。
口が上手い奴、小手先だけの奴、そういう奴が大嫌いで、ただ嫌いで、実際何も出来ねえくせにって、そいつらを憎んでた。
けど、そいつらは悲しい奴ららしい。
自分の中にあるものを貫き続けることで得られるものがあるって、知らないらしい。
自分1人になっても戦うって言っていた。
そう決めたって。それ以外に無いんだって。
若い奴は新しい道を選ぶことも出来る、選択肢はまだあるって。
選択肢があることもわかっていたけど、その背中を見て、他の選択肢を選ぶなんて有り得なかった。
自分にはもうこの道しかないって言ってたけど、多分違うと思う。
そこに、守りたいものがあったんだ。
表面だけの人間関係なんて慣れてたけど、ここまで素を出せたらもう見せかけの関係は無理だ。
本当に遠慮なんて無く言ってくるから。
叱られて、殴られて、蹴られて、でも、何度だって立ち上がらせてくれる。
何度でも手を差し伸べてきて、大丈夫だって言ってくれる。
それだけで、なぜか安心したんだ。
―強くなる
いつか、あの人のようになりたい。
いつか、あいつを超える。
でもきっと、焦るなと言ってくる。
ゆっくりでいい、お前らはまだ若い、時間はたっぷりあるって。
それでも、一日でも早く強くなりたいのだと言えば、きっと、呆れたような目で見てくるんだ。
血の気が多いとか、暑苦しいとか言って。
それから、こう続くんだ。
「琉峯、怪我いいのか」
「帝斗こそ」
「俺ぁもうばっちしよ」
懐かしい桜の木の下で、琉峯と帝斗は2人並んで桜を見上げる。
「帝斗」
「ん?」
「いつか、またみんなで花見をしよう」
「・・・ああ。そうだな」
急に強い風が吹き、2人は思わず目を瞑る。
「「え?」」
2人は思わず顔を見合わせる。
そして、すぐに笑いだした。
「成仏出来てねぇのかよ」
「俺達が成長しないと出来ないのかも」
「じゃあ、しばらくは出来ねえかもな」
しばらくそこに留まったあと、2人は鍛錬場へと向かった。
2人が去ったあと、一枚の桜の花びらがひらひら舞い、風に乗ってどこかへと飛んでいく。
―てめぇの信念に聞いてみろ。
―恥じること無く生きてりゃそれでいい。
―だが最期にこれだけは言っておく。
―あんまり無茶すんなよ。
ラグナロク~徒桜編~ maria159357 @maria159753
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます