おまけ①【桜人】
おまけ①【桜人】
これは、少し前の出来事である。
いつもの如く鬼と戦い、無事倒すことが出来たあと、煙桜は1人、花見の準備をしていた。
花見がしたいからと、無理を言って桜の木を植えてもらったのはいつだったか。
酒とおつまみと煙草を用意すると、煙桜は桜の木の下へと移動する。
「よし」
酒瓶を開け、おつまみを適当に置くと、煙桜は1人、桜の木に向かって乾杯する。
ぐびっと、瓶を直飲みすると、すでに三分の一が無くなった。
風が吹き、桜の花びらが散っていくと、地面に散った花弁が着地する。
おつまみを口に入れながら桜を眺め、ゆっくりとした時間を過ごしていた煙桜。
酒をほとんど飲み干したところで、煙桜は仰向けに寝転がる。
両腕を頭の下に置き枕代わりにすると、真正面に綺麗に咲き乱れながらも同時に散っていく桜が見える。
目を瞑り、深呼吸をする。
静かで、落ち着いていて、心地良い。
非日常から抜け出した、これが日常であるはずなのに、このゆったりとした時間が非日常になってしまったのはいつからだろうと、考える前に寝そうになった。
いや、実際少しだけ寝ていたかもしれない。
こんな時間でさえも、ふと、あいつらのことを考えてしまう。
帝斗は相変わらず勢いで突っ走る。
感情で動きやすく、少しは理性的になったかと思っても、またすぐ感情的になる。
つまりは精神的に情緒不安定。
琉峯は、とにかく保守的だ。
人を傷つけることを恐れることは悪いことではないが、戦いにおいてはいらない。
優しすぎて感情が出せない。
麗翔は対等、ということを気にし過ぎだ。
そもそも男女では筋肉の付き方も骨格も違うというのに、同じメニューで鍛錬したがる。
過去に囚われ過ぎている。
「ったく」
自分とて、若い頃は多少無茶したものの、あいつらほどでは無かったとため息を吐く。
だが、放っておくことも出来ない。
帝斗はとにかく飲みこみが早い。
もともと運動神経が良く、人の動きも良く見ている。
1教えれば10身につけられる。
琉峯はひたすらに努力する。
自分のことさえ俯瞰して見られるため、何が自分に向いているのか分かっている。
1つのことをしっかり出来るようになるまで、何度も何度も繰り返す。
麗翔は意外と器用で、それでいて機転がきく。
女性ならではの柔軟性や小柄さを使い、身体に負荷をかかり難くし、フォローに徹する。
「・・・世話のかかる奴らだ」
小さく鼻で笑い、温い風を感じながら眠りについた。
「・・・・・・」
なにやら、騒がしい気がする。
そんなわけはない。何しろ、ここには自分以外いないはずだと。
煙桜がゆっくり目を開けると、いきなり耳に響く声が届く。
「おー!!煙桜起きたみたいだぜ!!」
「・・・何してんだ」
気持ち良く寝ていたはずが、五月蠅くて起きてしまったと、煙桜は不機嫌そうに身体を起こす。
「煙桜、花見すんなら誘えよ!」
「そうよ!花見団子買って来たからみんなで食べましょ!」
「琉峯の出汁巻き卵美味いね」
「ありがとうございます」
「まじ!?ってかお前いつ作った?」
「先程。すみません、時間がなくてあまり作れなくて」
「すげー!重箱じゃん!!」
「煙桜、酒注ごうか」
「・・・おう」
鳳如にとくとくと酒を注がれるのを、煙桜はただ黙って見ている。
注ぎ終わったのを確認すると、早速それを口へ運ぶ。
「なんでお前ェらここにいるんだよ」
「んー?」
鳳如は自分の方にも酒を注ぎながら、楽しそうに微笑む。
そして、酒を注いだ御猪口をぐいっと飲むと、空になった御猪口越しに桜を眺めながら、平然とこう言った。
「花見はみんなでやるもんでしょ」
「あ?」
それからすぐに、琉峯の作った料理を食べ始めた鳳如たちを見て、煙桜はやれやれと酒を飲む。
そして、今目の前にあるその光景を眺めると、小さく微笑む。
「ったく。うるせぇ奴らだ」
一枚の花弁が、舞った。
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