第4話おまけⅠ「やんちゃ」








蜂蜜

おまけⅠ「やんちゃ」




 おまけⅠ【やんちゃ】




























 「てめぇが頭か」


 「え?俺?そんな名前じゃないよ。俺にはもっと人間らしい素敵な名前が」


 「そうじゃねぇよ!おちょくってんのか!」


 「乱暴な言葉止めてー。ただ平凡に生きているだけなのに」


 ピンク髪の男の前に、黒いぼさっとした髪を後ろで1つに縛っている男。


 2人は初対面のようで、ピンク髪の男はなにやらもう1人の男に啖呵を切っているようだ。


 そこへ、黒の短髪の男が近づいてきた。


 「透、そろそろ帰ろう」


 「昂くん聞いてよ。この人、俺のこと頭って言うんだよ。どう思う?そんな変な名前の奴いねぇし」


 「だから、そういう意味じゃねえって言ってんだろう!!!」


 透と呼ばれた男の態度が気に入らなかったのか、ピンク髪の男はいきなり殴りかかってきた。


 透はその拳をがしっと掴むと、にへら、と笑ったものだから、余計にピンク髪の男は不機嫌になった。


 そしてピンク髪の男が引き連れている男たちが透たちを取り囲もうとしたとき、青い髪の男がやってきた。


 「その辺にしておけ」


 「啓さん!でもこいつ!!」


 「いいから。お前らじゃこいつには勝てねえよ。売った喧嘩を大人しくてめぇで引き取って帰りな」


 「うす!」


 荒々しい男たちが立ち去って行ったあと、そこにいる3人の男は互いの顔を見ていた。


 「昂・・・。透を連れて歩くならちゃんと首輪でもしておけ」


 「こいつ猟犬だから。俺も手を焼いてるわけさ」


 「啓ちゃんってば、一人前になったねー。昔はよくワンワン泣いててさー、しかも毎晩のようにおねs・・・」


 「舌抜いてやろうか」


 「それにしても、まさかあいつらの頭がお前だったとはな」


 「別に頭なわけじゃない。勝手にされた」


 透の幼馴染で小さい頃から一緒の昂は、あまり喧嘩を好まない平和的な性格を持っていたのだが、こちらもまた小さい頃から知っている啓太郎は、クールな見た目とは裏腹に喧嘩っ早いところがあった。


 奴隷制度が執行されてからというもの、自由に動いていた彼らもまた、下手をすれば密猟される危機にあった。


 しかしまだ奴隷制度に登録はしていなかったため、仕事に就くか、それとも奴隷として働くかを迫られている時期。








 そんなある日のことだ。


 群れることを好まず、一緒に行動すると言っても昂がほとんどだった透の前に、1人の男が現れた。


 その男は口の中をもぐもぐと動かして、黄土の髪をしていた。


 ぐい、と透の腕を引っ張って何処かに隠れると、その男は持っていたパソコンを開いて何やらいじり始めた。


 何をしているのかはさっぱり分からなかったが、その指先の動きの速さと仕事の正確さはなんとなくわかった。


 「お前すげぇな。何者?」


 「政府に雇われてたただの機械オタク」


 「政府に・・・!?」


 その男に興味を持った透は、昂と啓太郎がいつも戯れている場所へとその男を連れていった。


 そこで詳しい話を聞いてみると、政府は警察や市民の動きを監視するために、優秀なハッキング集団を雇った。


 とはいえ自由になんでも出来るわけではなく、政府の内部にまでは踏み込ませないよう、厳重に監視し、部屋に隔離していた。


 そんな中、その日監視役だった男が腹を下してトイレに駆け込んだため、その隙に政府の機密事項があるであろう場所に入りこみ、その情報を抜き取った。


 バレるのは時間の問題でもあったため、自分もトイレに行きたいと嘘をつき、窓から逃げ出してきたようだ。


 「じゃ何?お前政府に追われてるわけ?」


 「そう」


 「政府が隠してる秘密って、そりゃやばいだろ。そんな情報どうするんだ?」


 「別に。ただ、セキュリティが甘いからこういうことになるんだよ。俺が悪いわけじゃないし。俺が突破出来るくらいにレベルなら、いつか誰かに入りこまれるよ」


 「一理ある」


 「透・・・」


 「お前さ、俺と組もうぜ」


 「「はあ!?」」


 「・・・・・・」


 「面白そうじゃん!!政府を敵に回すなんて!!俺、どうせ警察にも弁護士にも、当然職員とか警備員にもなる心算なんてさらさらねえし?こいつと組んで世界をかきまわした方が楽しいだろ」


 「お前なあ」


 「機械オタクってことは、加工とか改造とかも出来るのか?」


 「まあ、出来るけど」


 「よっしゃ!!なら、俺が持ってるこの愛用の銃を改造してくれ!面白くて、しかも機能性の高いやつ!!」


 「・・・トカレフ?なんで持ってるの?」


 「なんでって、俺一応ギャングだから!」


 「・・・・・・」


 きっと断るだろうと、啓太郎と昂は思っていた。


 しかし、男は透のトカレフを受け取ると、まずは壁に一発撃って性能を確かめ、それから分解を始めた。


 「作るのは良いけど、使いこなせるかどうかはあんた次第だ」


 「もち!俺は絶対使いこなしてみせる!お前が俺の理想の銃を作りだせればな!」


 こうして、透と男、つまりは稚夜の不思議な関係性は生まれたわけだが、この頃、巷では奴隷制度の進行により、ギャングたちも保健所に連行されるようになっていた。


 啓太郎を慕っていたあの男たちも。


 透たちのもとにも、保健所などで働かないかという勧誘があった。


 それはもちろん、評価が高いから。


 しかし、透と稚夜は姿をくらまし、啓太郎は警察に、昂は弁護士へとなることにした。


 それが本人の意思によるものなのか、それとも、何か別に意図があってなったものなのか、全ては偶然なのか計画的なのか、誰にも分からない。


 「ラーテル」


 「え?」


 「お前の情報に入ってた。なんでラーテル?」


 ふと、パソコンをいじっていた稚夜に聞かれた。


 いつの間にICチップを読みとり、さらには警察本部にも世界政府にも知られていないはずの内容を知っているのか。


 「それ、本当にそこに書かれてたのか?」


 「・・・本当は聞いた。昂ってやつに。あんたはなんでか、昔からある人にそう呼ばれてたって。それが誰かは覚えてないみたいだけど」


 「昂くんてば。ああ、呼ばれてたよ。ラーテル。蜂蜜が好きだからかな?」


 「・・・なら、俺もラーテルって呼ぶから」


 「なんで」


 「透って呼ぶほど、お前を信用して良いのか微妙だから。ここに載ってる情報だって、他の奴らのものとは違う扱いされてるし」


 「おそろしい奴だな。別にいいよ、好きなように呼べよ。なら俺は・・・ちーちゃんって呼ぶから」


 「気持ち悪い」


 「それよりちーちゃん、俺の銃は」


 さっと手渡された銃は、普通の弾丸はもちろんのこと、他にもシャボン玉が出たりペンになったりと、色んな機能がついていた。


 他にどんな機能が入ってるんだろうと、透は楽しそうに1人で遊びだした。


 一方稚夜は、啓太郎や昂の情報を眺めたあと、もう一度透のものを見ていた。


 「・・・ラーテル。蜂蜜好きねぇ・・・」


 ちら、とソファで遊んでいる透を横目で見てから、口の中にガムを放り込む。


 「怖い者知らずで、毒に強い・・・ね」




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蜂蜜 maria159357 @maria159753

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