勝手に人を選ぶ奴についてどう思う?
「死んじゃうなんて聞いていない」
「いやー、死ぬかと思ったわ」
病院着とスリッパ姿でペタペタと都立病院の集中治療室から出てきたシギ。
そんなケロリとした様子にアソウギは「いや…まあ、良かったけれど」と彼女の五体満足な身体をまじまじと見る。
「まさか、あそこまで原型を留めていない状態から戻れるとは」
それに「何か、ご不満?」と腰に手を当てるシギだったが「…でも、まさか。あの子が帰還者だったとわねえ」と息を吐く。
「こっちが部屋に入った時点でいきなり能力を使って来るとは思わなかったし、詠唱も無しとは…あれは【重力】かな?」
「一応、拘束はしてあるそうだが。一緒に行くのか?」
「もち、あたぼうよ」と胸を張るシギ。
「どうせ、医者のタナ先生も説明で同席するし、一緒に話した方が早いわ」
「すげえ、メンタル…というか、助けられなくてすまなかった」
「謝るな。もはや過ぎたこと」
そんな会話をしつつ、エレベータに乗り込んだところを見計らってアソウギはタッチパネルにスマホをかざす。
『認証しました』
途端にゴウンとエレベータの箱は地下へと(厳密には地下ではなく、帰還者の作成した他空間へのチャンネル)移動し、ずいぶん下に降りてからドアが開く。
「ほい、着いた…どう、先生。帰還者逃げてない?」
そこは巨大なガラスで仕切られた広い部屋。
ガラスの向こうには先日アソウギが助け、現在はふて腐れた様子の少年が椅子に腰かけており、手前のゲーミングチェアに座る白衣の女性が「大丈夫ですよお」と、クルリとこちらを向く。
「土日のあいだは問題なく入院していたのですけどお、びっくりしましたあ」
彼女の膝の上には白髪にロリータ服の少女。
ジト目の少女はねめつけるようにシギとアソウギをにらみつける。
『いいからここから出せよ。俺はさっさとトラックに轢かれて次の世界に移動したいんだからさ』
そんな少年の声に「あら、あら、あらぁ…」と頬に手を当てる女性。
「ダメですよお。帰還したら、まずは政府機関の管轄に入ってもらうのがお約束でしてえ。そうしないと必要な保証とか受けられなくなってしまいますしい…」
『うるさい、うるさい』と、それに首を振る少年。
『だいたい、お前らは俺のことを何にも知らないくせに!俺はな、今まで親父に暴力を振るわれて。お袋は黙ってそれを見ているだけで。それが嫌で隙をついて外に出たところでトラックに轢かれて…ようやく、この力を手に入れたのに』
「かと言って、対峙した人間をいきなり殺しても良いわけじゃないことぐらいはだれでも分かるだろうに?」
思わず、アソウギから声が出た言葉に少年は一瞬ビクリとするも『チッ、こんな世界。さっさと滅んじまった方が良いんだよ』と舌打ちをする。
『俺が今まで会ってきた連中はみんな俺みたいな弱者に手を差し伸べちゃあくれなかったからな。その痛みを女ひとりにぶつけたぐらいで文句をいいやがって。見てろよ。もっとすごい技を…んん?』
そう言って、少年は片手を前に差し出すもその手を何かがつかむ。
…それは一本の人間の右腕。
気がつけば、天井や床からワラワラと人の腕が大量に生え、それらは瞬く間に少年を拘束してしまう。
『え、何これ。気味悪いんだけど。ああ、くそ。魔法も出せない。なあ、お前らの誰かの仕業だろ?…あ、お前の、白衣の奴の仕業か?さっさとやめろ、バカ!』
語彙力の無い言葉をガラスごしにかけられるも、白衣の女性は「あら、あら、あら」と言うばかりで、困ったように膝下の少女を見る。
「タナちゃん先生。このへんでやめたらどうですか?向こうには魔法封じの術式も施してありますし、丸腰でいじめつづけるのはどうも」
それに『え…ちょっと待て』と少年。
『そこの幼女が医者?じゃあ、お前はなんなのよ?』
それに「私はただの助手ですよお」と微笑む女性。
「私たちは、政府お抱えの【医療係】でしてぇ。膝にいるのは肉体再生を担当しているタナちゃん先生。私は先生の助手兼通訳のユタですう。ちなみに、医者の免許を持っているのは先生だけでえ。私の服はコスプレなんですよぉ」
『はあ!?』と叫ぶ少年はあっという間に腕に飲み込まれ、その姿が消える。
「まあまあ。好戦的な能力持ちは【相談係】に引き渡すこともできませんしぃ。とりあえず、この先は【特殊移動課】のお二方で相談してくださいと、タナちゃん先生も言っていますう」
いつしか、片手を前に出していたユタは膝上のタナちゃん先生を床に下ろし、ガラスへと近づく。
「そのあいだは、暴れられてもいけないのでえ、私の【
…いつしかガラス戸の向こうにいた少年の姿は腕と共に消え失せており、彼がいたところには小さなテディベアのぬいぐるみがポツンとあるのみ。
「さすが【
そんなシギの言葉を、タナちゃん先生と呼ばれた幼女はひどく不愉快そうに、逆にユタと呼ばれた女性はニコニコしながら聞いている。
「…それでえ、彼の今後はどうしますう?それによって、解除の呪文の送り先が決まるのですけれどお」
手のひらサイズの小さなテディベアをシギに渡しつつ、スマホを振るユタ。
それに「そうねえ」とシギはスマホをタップすると一つの番号を出して「ここにコードで送っといて」と指定する。
「これから【魔王】のところに連れて行くことにするわ。きっと彼女なら
異世界転生するんじゃない! 化野生姜 @kano-syouga
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