くちびるの詩
石衣くもん
💋
苦し紛れに絞り出した愛の言葉は、私への贖罪ではなく、自身の保身のため。
微かに
思えば、いつもそう。あなたの愛の言葉は、愛情から発されるものでなく、やれ浮気だ、やれ借金だ、なんて知りたくもない真実が発覚した時ばかり。本当は、私のことなんて、これっぽっちも愛してないんじゃないかしら。
「違う、そうじゃないんだ」
それもあなたの常套句。そうじゃない? ならどうだって言うのかしら。
お付き合いって、とても簡単な関係じゃない。赤の他人同士が、相手のことを好きだと思えばお付き合い、片方でもそうでなくなったら、はいさようなら。
だから、あなたが私を好きでなくなったなら、とっとと言ってよ。
「はいさようなら」
びっくりした顔して、どうかした? 今まで、私があなたにそんなこと言ったことがなかったから?
そうね、だって、私はずっとあなたが好きだったから。別れる理由なんて作りたくなかったのよ。
あなたの言葉がどんなに嘘っぱちでも、絵空事でも、私が受け入れてきたのは、あなたのことが好きだったから。でも、もうそれも終わり。こう言えば、もうわかるかしら。
あなたが言わないなら、私がさようならを言うわ。どうして? あなたは私をまだ愛してるですって? それはどうもありがとう。でも、さっきも言ったでしょう。お付き合いをやめるのは、片方でも好きでなくなった時なのよ。
もう、あなたじゃない人を、私は愛しているからよ。
ルール違反はお互い様ね。私も、あなたにさようならを言う前に、私を好きだと言ってくれる人を好きになってしまったから。
それでも、四回も浮気に不倫と勤しんだあなたに比べたら可愛いものでしょう。ごめんね、許して。まあ、許さなくても結構ですけれど。
それじゃあ、さようなら。今となっては、過去でしかないけど、確かに愛していたわ。
その嘘吐きな唇も含めてね。
くちびるの詩 石衣くもん @sekikumon
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