第8話おまけ②「ミソギ」





朝ぼらけ

おまけ②「ミソギ」



 おまけ②【ミソギ】




























 「良い子ねー、ほら、こっちおいで」


 ぽくの名前は“るうた”。


 どういう意味かは、分からない。


 生まれて一年も経たないうちにお母さんや兄弟と引きはがされて、ぽくは1人でこのお家に来た。


 楽しくてはしゃいでいると、怒られた。


 おしっこがしたくなってしたら、怒られた。


 ご飯のときも、待て!って言われるから、待たなきゃいけない。


 お手とか、おかわりとか、よくわからないことも教えられた。


 でも、出来るとご褒美がもらえるから、ぽくは頑張って覚えた。


 ぽくがだんだん大きくなると、みんなは“引っ越し”っていうのがあるらしくて、連れて行くとか連れていけないとか、そういう話をしていた。


 まあ、ぽくには関係ない話だと思っていた。


 だって、ぽくはみんなの家族だから。


 そう、思ってたんだけど・・・。


 「るうた、ごめんね。今度のマンションは、ペットダメなんだって」


 ぽくは何を言ってるか分からなくて、首を傾げた。


 だってぽく、家族でしょ?ペットじゃないでしょ?


 「るうたどうしよう。親戚の誰か引き取ってもらえないかしら」


 「無理だよ。俺んちはみんな犬嫌いだから」


 「私だって一人っ子だし、両親はもう歳だし・・・」


 「棄てるしかないだろ」


 「えー!るうた可哀そうだよ!」


 「仕方ないだろ。保健所に連れていったって、結局は死ぬんだし。それなら棄てて、親切な人に拾ってもらった方が」


 ぽくは車ってやつに乗せられて、みんなでドライブだって喜んだ。


 だけど、途中の森の中で、なぜかぽくだけ下ろされたんだ。


 みんなが車でまた何処かへ行こうとしたから、ぽくは必死になって車に乗り込もうとしたんだ。


 そしたら、待て!って言われた。


 だからぽく、待て、をした。


 そしたら、きっと良い子だから、連れていってもらえる。


 車はどっかに行っちゃったけど、ぽくはずっとずっと待ったんだ。


 きっとみんなが迎えにきてくれるって、待ってたんだ。








 身体が冷たくなってきて、ぽくは目を覚ました。


 そしたら、知らない人間がいた。


 「棄てられて餓死か。哀れな犬だ」


 「わー、大きな人―」


 「だがまあ、仕方がないな。あとはこの川を渡って行くだけだ」


 「ねーねー、それ何食べてるの?美味しいの?変な匂いするよ」


 「聞いてんのかこら。それにこれは喰いもんじゃねえよ、煙草だ煙草」


 「たばこ?何それ?」


 その人はぽくの頭に手を乗せると、名前を聞いてきたから、「るうた」ってちゃんと答えた。


 だって、みんながそう呼んでたから。


 そしたら、その人は怖い顔をして、なんだか考え始めちゃった。


 「よし、今日からお前はミソギだ」


 「みそぎ?」


 意味は分からないけど、るうたの方が良いって言ったら、すごく怖い顔をされたから、それでいいよって言った。


 「人間の姿にしてやるから、後は好きにしな。もとの飼い主んとこに行ってもいいし、他の奴んとこでもいい。あの世に逝きたくなったら言いな」


 「人間の姿?」


 そしたら、なんだか身体が熱くなった。


 燃えてるみたいに熱いと思ったら、身体が大きくなっちゃったんだ。


 今までぽくは、みんなが大きいから上を向かなきゃいけなかったのに、そんなに上を向かなくても目が合うようになった。


 ぽくは“ようかい”ってものになったみたいで、だけど何を言ってるかよく分からなかった。


 嬉しくなって、ぽくはみんなのところに行こうとした。


 だけど、もうお家は無くなってて、みんなも何処に行ったか分からなくて、1人になっちゃった。


 そしたら、また知らない人がいて。


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 また怖い人だと思ったんだけど、ぽくはそれよりも珍しい頭の色が気になって、気がついたら触ってた。


 だけどその人は怒らなくて、そのままどっかに行っちゃいそうになったから、着いて行ったら、ぽくの方を見たんだけど、何も言わなかった。


 さっきのもう1人の怖い人もいて、その人に何か話しをしてた。


 1人はどんおう、って言うみたいで、どんちゃんって呼ぶことにした。


 もう1人はこうすけ、って言うから、こうちゃんって呼ぶことにした。


 「ぽく、ミソギ!よろしくね、功ちゃん!」


 こうして、ぽくは新しい家族を見つけた。




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朝ぼらけ maria159357 @maria159753

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