配信者の友人


......やはり透は料理がうまい。 


一人だけで暮らしていた頃はこんなうまい朝食はなかった。


健康的な和食。 健康的な日光。 美少女と囲む朝食。


最高のシチュエーションのはずだ......あんなことがなければ......


俺は今朝の事があり、透になんて声をかければいいのか分からなかった。


(俺の気にしすぎか......?いや、朝食を作る時も透は無言だったし、明らかに気にしてるよな......)


「あ、あのさ......透」


ビクッと透の体が小さく跳ねる。


「な、なに~??」


かなり気にしているのか目線が合わないし、声が裏返っている。


「いや......今朝の事なんだけどさ......」

「あ~うんうん!いい天気よね!ニュースでも見る?」


そういってテレビをつけ朝の情報番組を見始める。


どうやら無かったことにしたいらしい。


「......おい、一つだけ聞かせてくれ......なんで俺のベッドにいたんだ?俺は客室に運んだはずだが......?」

「え!?海斗が運んだの!?」

「そ、そうだが......?」

「ど......どうやって?」

「お姫様抱っこで......」

「~~~!!///」


透が頭を机に打ち付けるような勢いで倒れこむ。


(そんなに俺に触られたことが嫌だったのか......?)


「だ、大丈夫か?すまん、次からは無断で触れないように気を付ける」

「べっ!別に気にしてないから!」

「そ.......そうか?それならいいが......というか!なんで俺のベッドにいたんだよ」


それてしまった話を無理やり本筋に戻す。


「そ、それは......起きたら深夜で.......帰るのも怖くて.......もう一回寝ようと思ったらスマホの充電なくてあんたの声聞けなくて......」

「それなら起こせよ!なんでベットに入り込む?!」

「お、起こしたわよ!でも海斗にベッドの中に引っ張られて...!!///」


......そうだ、俺は夢だと思って......あれ夢じゃなかったのか!?


それで...その後どうしたんだっけ......!?


「お、おい.......それでその後どうなったんだ!?」

「い......いえないっ!///」


透が頬を赤らめそっぽを向く。


おいおいおい、勘弁してくれ!マジか俺...記憶がないうちに...!?


(どうする!?お金を払うか......?いや何考えてんだ俺!最低だろ!!......こうなったら......)


「ごめん、透。 俺記憶なくて、寝ぼけてて......」

「べ、別にいいわよ......嫌だったら逃げてるし......」

「そのっ......責任はとるからっ!!」

「せ、責任ってなんの責任......?」

「お......男としてのみたいな......?」

「どういうこと......?」

「っ!!だから!け、結婚.......する......みたいな......」


透の顔が真っ赤に染まる。


「はっ!?はぁ!?なんでそんなことになるのよ!」

「だから責任を取らないとって思って......」

「ベツニ...イヤジャナイケド...そんな頭撫でただけで結婚だなんて......///」

「...え?」

「ん?///」






「私はそんな安い女じゃないわよ......失礼ね......」

「透の言い方が悪いだろ......あれは勘違いしちまう」

「でも寝ぼけてったって女の子を自分のベッドに引きずり込むのはどうかと思うわよ?」

「それは悪かったって......」


双方の誤解が解けた後、人生の一大事かと思われたその出来事は笑い話へと変化していた。


「こんなの......香に言えないわね......ずるい女の子だと思われちゃう......」

「......優しいんだな」

「普通の事よ。 誰でも気にする。」


透は俺の家に泊まり、偶然といえども一緒に寝てしまったことを香に悪いと感じているようだった。


「正直、今日が学校だったら合わせる顔がないわ......」

「まぁ、今日は土曜だ!帰りたい時に勝手に帰ってくれ!くつろいでくれててもいいし、俺今からコラボの予定だから夜ご飯作り置きとかで頼むわ!いつになるか分からん」

「あ、うん。 分かった。」


そう言って俺は配信部屋へと入る。


思考を配信者モードへと切り替える。


(しかし......キョウとコラボなんていつぶりだ......?)


俺が今日コラボする相手は現在、女性を中心に人気を集めているVtuber、”キョウ”だ。


小学生のような幼い声が特徴的で、俺も初めて話した時はかなり年下だと思ったが、本人によると俺と同い年の高校一年生らしい。


俺がVtuberとして活動を始めた初期のあたりに流行していたFPSゲームのフレンドとしてSNSで出会い、そっからゲームの長時間コラボをほぼ毎日配信していたが、世間の流行が過ぎると共に二人ともそのゲームに触れなくなった。


(一時期は配信外でもずっと話していたのにな.......)


今思い返せば俺が唯一話せる同年代の男子だったかもしれない。


そんなことを考えていると、キョウから電話がかかってくる。


「あ~.......もしも~し。 ラク君?」

「キョウ。久しぶり」

「うわ~ラク君だ!最近ずいぶん人気になったね!」

「それはお前もだろ?」

「ラク君ほどじゃないよ~」


久しぶりに聞くキョウの声は全然変わっていなかった。


「ってかお前すごいな、俺お前のこと声変わり前だと思ってたわ」

「ははw声作ってたら高くもなるよ」

「え?作ってたの?」

「当たり前じゃん。 地声だと声で身バレとか怖いし。 てかラク君作ってなかったの?」

「うん......身バレ回避のために最近外で声作ってる......」

「声作ってなくてそれなんだ......イケボだね~」

「うっせ~よ。で、今日は何すんだ?FPSか?」


配信開始の時刻も迫っているため、コラボの詳細を確認する。


「それも考えたんだけどね? 今回は雑談メインのホラゲーをしまーす。ぱちぱち~。」

「え?お前ホラー行けたっけ?」

「好きではないかなぁ.......でもラク君いるし!ずっとやりたかったけど一人じゃ怖かったんだよ~」

「まぁ、お前がいいならいいけどよ」


前にキョウのホラゲー配信を見たことがあったが、苦手......というレベルではなかったような......


「じゃあ、はいしんかいし~!」









「モウ......ホラー......ヤリタクナイ.......」


案の定キョウはビビりまくりで、配信が終了した後も恐怖に震えていた。


「...ww何時間も叫びっぱなしでよくやるよ......ww途中にビビって動かなくなった時はどうなるかと思ったが大成功でよかったな」


大絶叫するキョウとそれを励まして介護する俺達の姿はまるで兄弟のように映ったらしく、SNSでもトレンド1位を獲得するなど大反響だった。


「うまくいってよかったけどさ~......」


そう言うキョウの声はいつもより低かった。


「おいおい、地声出てるぞ~」

「別にラク君になら聞かれてもいいよ~.......それより今は動きたくない」


それもそうか、配信もしてないし。


「案外地声は低いんだな、まぁ普通よりかは高いかな?」

「そうかなぁ~?」


同年代の男子高校生と比べても高い方だろう。 しかし少年の声が出せる人は声が女性っぽいのだろうか、どこか男にはない透明感のようなものを感じる。


「っていうかさ、ラク君が外で出してる作ってる声っての聞かせてよ~」

「まぁいいが......」


適当に学校の声で喋る。


「え~そっちの方も好きだなぁ~っていうかさ、声変えてもかっこいいの変わってないしバレるんじゃない?」

「まぁ一応警戒して大声は出さないようにしてる。」

「えらいね」

「まぁな」


時計に目をやると午後三時前を指していた。


(長時間配信かと思ってたが、案外早めに終わったな......)


「とりあえず昼飯でも食うわ」

「おっけ~僕も食べる」

「またコラボしような」

「僕も言おうとおもってた」


お互い少し笑い、通話を切る。


「お昼は何にするか......」


そう考えながら配信部屋のドアを開け、部屋の外に出る。


「あ、お疲れ~海斗」


透がいた。


「お前まだ帰ってなかったの?」

「配信見てたらこんな時間になってたから仕方ないでしょう?」

「はいはいファンの鏡」

「私も食べてないし、お昼にしよっか。座ってて。」

「へいへい......」


正直ありがたい。 透がいなければカップラーメンか何かになっていただろう。


料理の完成を待つためにテレビをつけると、さっきまで見ていたのであろう俺の先ほどの配信が表示されていた。


「あ!それ巻き戻して最初からにして!感想会よ!」

「まじか」

「まじよ」


少し恥ずかしいと思いながら巻き戻して再生を始め、ソファーに座る。


ソファーには先ほどまで座ってたであろう透の温かさがまだほんのり残っていた。


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終わりどころを見失いそうだったのでこの辺にしておきます。

ご報告ですが1000PVを突破いたしました。 1つの目標でもあったので嬉しいです。

これからも投稿を続けるので応援してくだされば幸いです。

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人気Vtuberの俺ですが、ひょんなことから身バレしてしまいました。 amp_4050 @amp_314

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